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間隙の恋  作者: 吉祥天天
第一章
12/30

12 私の立ち位置(3)


 いつ何処から現れたんだか、全く気が付かなかった私たちは一瞬固まる。

 その中でいち早く復帰した黒木さんが「倉吉さんっ、」と会議室2の扉の前で倉吉に追い縋った。

 怪訝そうに振り向く倉吉に言い放つ。



「私、黒木叶恵をこのプロジェクトのメンバーに入れて下さいっ」



 隣で山岸さんは、やれやれ、と呆れたように苦笑していたが、私はただただ黒木さんに圧倒されていた。

 あんな風に自己を主張出来る彼女の熱意と自信に。



「『ダイヤモンド・モール』や「千鳥旅館』で実績があります! やる気も能力も経験もある自分の方が貢献出来ると思います!」



 明らかに私を比較対象とした強い言葉に頬がカッとなる。

 恥ずかしくて倉吉の方を見れなかった。

 資料のファイルを持つ手が震える。

 ああ、こんな風に言われてしまう私って何なんだろう。



「松澤さんに認められるのも能力だと思うけど・・・」



 私のすぐ側に居た山岸さんがそう呟いた。

 私を慰さめる為に付け加えてくれたのかな。

 それが聞こえたのかどうかは分からないけど、



「『ダイヤモンド』はまだ継続しているんじゃーーーー」



 倉吉が感情の読めない口調で黒木さんに言った。

 彼女は脈ありと捉えたようで、少し興奮気味に付け加える。



「あの件では私の役割はもう目処が付いています、だからーーーー」



 しんとした廊下に苦笑なのか溜め息なのか、倉吉がふっ、と息をこぼした。



「出して」


「え?」



 見ると倉吉が薄く微笑みながら手の平を黒木さんに差し出していた。



「このプロジェクトに貢献出来るというモノを今すぐ出して」


「そ、それは・・・・このプロジェクトの概要を聞いてからーーーー」


「なら用は無い」



 倉吉は背を向けて会議室の扉のハンドルを掴んだ。

 黒木さんは慌てて尚も追い縋る。



「でもっ、これからーーーー!」


「ーーーー今から打合わせを始める」



 倉吉は私と山岸さんの方を向いて言った。



「俺がメンバーに求めるのは、テーマを進める材料と思索を持っていること、勿論、やる気は言うまでもないが」



 私はどきりとした。

 私が最初主任の打診を断ったのを倉吉も知っているのかもしれない。



「それと、最後までやり遂げる責任感も必要だと思っている。ーー

ーー黒木さんは先ずは自分の責務を果たすべきじゃないかな」



 顔を真っ赤にして俯く黒木さんに、「助言はいつでも歓迎だよ。情報や提案があればまとめて出して」と、やんわり彼女を押しやって扉を開けた。



「行こう」



 山岸さんが促すので倉吉に続く。

 黒木さんの前を通り過ぎる時、卑屈だが顔を上げられなかった。

 だから見えてしまった。

 彼女の握り込んだ拳が真っ白になるほど力が籠められて震えているのを。

 今まさに私の事を睨みつけているのだろうか。

 私は足早に会議室に入った。



 中には一課の西さんが既に席についていた。

 資料も各席に並べられていて、私の顔を見て心配そうに手を振ってくれる。

 外の遣り取りが聞こえていたのだろう。

 私は引きつる表情を無理矢理綻ばせ、会釈して西さんが指差す椅子を引いてファイルを置く。

 山岸さんが入ってきた時には、その扉の向こうに黒木さんの姿は無かった。



 扉が閉められると室内はしん、と静まりかえった。

 コの字にセットされた長机の、私と山岸さんが並んだ向かい側に座った倉吉はムスッとした表情でパソコンを起動させている。

 横に座っている西さんが、「吉岡さんが間に合えば少し顔出すって」と話しかけても黙って頷くだけだ。

 先程からの居たたまれない気持ちをやり過ごす為にペンなど出しながら、私も飲み物を持ってくれば良かったと後悔していた。



 マウス片手に淡々と操作していた倉吉が、急に顔を顰めたかと思うと、立ち上がってポケットからスマホを出した。

 画面を見ながら、「あー、すまない、少し外す」と、歩き出す。



「自己紹介とか、西さん、進めておいて」



 とだけ言い残すと、急ぎ足で会議室から出て行った。



 パタン、と扉が閉じられて再び静寂が訪れる。

 私は、たった今の倉吉の様子が気になって仕方が無かった。

 だって、立ち上がる前に一瞬だけ私の方を見たのだ。

 たぶん、私にしか見えなかっただろうけど、確かに。

 あれは何?

 彼の顔を歪ませた理由って、まさか、もしかして、もしかしてーーーー!



「ーーーー気にすることないよ」


「っ!」



 隣から聞こえてきた声に、私は思わず叫ぶ所だった。

 気にするって何に? 何故、山岸さんがそれをーーーー!



「黒木は、いつもああだから」


「・・・・」



 私は脱力して椅子の背にもたれかかった。

 く、黒木さんのことなのね・・・はあ。

 苦笑いで誤魔化す。

 山岸さんはそんなわたしを気遣うように、「結構ズバズバと言うけど、本人は悪気は無いっていうか。まあ、それも問題だとは思うけど」と笑いかけてくれた。

 「相変わらず熱いよねー、黒木ちゃん」と、西さんも同調するようにニコニコして言う。

 西さんは、私たちの新人研修の時の先輩指導員だった。

 だから配属後も、二課の私にも都度声を掛けてくれるし、同じ一課なら黒木さんの事も気に掛けているに違いない。



「まあ、私にも言われる理由はあるのだと・・・」


「だから、そんな深刻に受け止めなくて良いって。それに、さっきも言ったけど、あの松澤さんに認められるっていうのはそれだけ能力があるって事だよ」



 あの松澤さんーーーー。



「あの、私よく知らないんですけど、松澤さんって、どういう人なんですか?」


「「えっ?」」

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