閑話:ヴォルフの過去
ダンジョンについての短話ですが、制覇の証についての記述が抜けていたので足して起きました。申し訳ないです。
閑話は三人称視点となり過去話は後半からになります。
クレトたちが王都へ旅立った傍らで、ヴォルフたちはスペーイドダンジョン制覇を進めいた。クレトの代わりとして入ったサラが情報収集を担っていたが、何故か買い出しだけはいいと言われ多少疑問に感じたサラであったが気にはとめなかった。だが後に後悔することとなる。
スペーイドダンジョンの特徴は魔物が多く、1階層毎に広いが罠の類いは存在しない。求められる技量は、戦闘を避けつつ最適なルートを辿ることだといえる。クレトがいた時には45層まで到達していたのでヴォルフは余裕で制覇ができると確信していた。なんせ役立たずのクレトを追放しサラを加えたのだから。
「肩慣らしの意味も含めて40階層から行くぞ。サラは俺たちとの戦闘は初めてだから、動き方の確認もしてくれ」
「分かりました!」
リーダーであるヴォルフはSランクの聖騎士、アルフレッドはAランクの重戦士、ミランダはAランクの魔導士、リアはSランクの聖女、サラは他よりも低いBランクの盗賊である。パーティー編成としては申し分なく、バランスの整った良いパーティーと言える。
40階層は他の階層と比べて魔物が少ない。しかし彼らはいつもクレトの従魔であるサフィに道案内を全て任せていてマッピングなどしていなかった。
「先頭はサラに任せる。魔物が多くいる所は避けて最短距離を案内してくれ。欲を言えば孤立した魔物を連携の確認として戦いたいがな」
「え?地図を買っていたりマッピングはされてないのですか?」
「金のかかる地図は買うわけないし、面倒なマッピングなんてするわけないだろ」
何言ってんだこいつと言わんばかりの目で見られサラは困惑してした。彼女は役に立たないテイマーの代わりとしてパーティーに加わった。だが彼女は盗賊であるため広範囲の索敵など不可能であり、彼女単体での戦闘力はクレト以下である。理由は至極当然でクレトは必死になって覚醒条件を探した。走り込み、剣の素振り、さらには模擬戦をしたりと多岐に亘っていた。スキルなどなくても努力によって人並み以上に強くなれるのだ。
「一人では無理です…」
「はぁぁ!?FランクのテイマーにできてBランクの盗賊ができないんておかしいだろ」
「あいつは当たり前のようにやっていたわ」
ミランダがヴォルフ側に回るがここで食い下がるわけにはいかない。何せ広い階層を一人で探索しマッピングを行って無事にパーティーの元になど戻れるわけがない。そんなことSランクの盗賊でも不可能だ。
「盗賊は罠の解除がメインです。索敵もしますが狭い範囲しか意味がありません…」
「ではこれからどうしますか?」
たまらずリアも口を挟むが答えなど決まっている。
「…攻略していない階層は地図を買うしかないです」
「あんな高い地図を46階層以降から買い続けろっていうのか!?」
「たとえ私が最短距離かつ魔物がいない場所を見つけても、ここまで戻るのにどれ程の時間がかかると思いますか?その頃にはマッピングした魔物の位置など当てにならないです」
「……」
青天の霹靂とはまさにこのことだろう。彼が従魔にしていたドラゴンの速度は魔物の中でも上位だ。それを当たり前のように感じていたのがそもそもの間違いと言える。
「おい!このままだとまずいぞ。魔物共が集まりだしている」
「……一旦帰って攻略の練り直しだ」
結局この日の攻略は何もできないまま終了となり、帰還後いつもの食堂で話し合いが始まった。
「地図を買うとなると制覇前に金が尽きる」
「Sランクダンジョンなんだし、各階層でお金を稼ぎながら攻略すりゃいいんじゃね?」
「どれだけ時間がかかると思っているの?それよりも最短で制覇を目指すべきだわ」
「ダンジョン攻略とは別に資金稼ぎを行いますか?ある程度は回復魔法で稼げるかと思います」
それぞれ意見をだすが解決策は見つからないでいた。それもそのはずSランクダンジョンは生半可なものでは到底制覇など不可能だ。AランクとSランクダンジョンはBランクとAランクを比べるよりも遥かな差が存在してる。
「もう一度聞くがサラには無理なのか?」
「私を守ってもらえればマッピングは可能ですが、各階層が広いことで有名なスペーイドダンジョンではどれ程の日数を要するかは見当もつかないです。参考までにお聞きしますが、45階層まではどうしていたのですか?」
「…テイマーが全てやっていた」
「テイムしていた魔物は何ですか?」
「ドラゴンと黒い狼だ」
「っ!!」
役立たずのテイマーとしか聞かされていなかったサラはてっきりスライムだと思っていた。まさか魔物の上位に位置するドラゴンとは夢にも思うまい。さらに黒い狼ことブラックウルフは狼種の頂点に君臨する。このことはクレトも知らない事実だ。何せ彼はスキルや魔法のことばかり調べて魔物の生態系は左程調べていなかったからだ。
またヴォルフも強いとは思っていなかった。パーティーの時は索敵をメインにさせており単体での戦闘は見たことがなかった。さらにはノワールをテイムした経緯を知らない。サフィについては彼もテイムに関わっていたが全く強さを示すこともなかったので、強いという実感がなかった。
驚愕の事実に言葉が出ないでいる。パーティーに加入する前日にこの街へと着いたサラはたまたま酒場で一人お酒を飲みながらマスターにFからBランクへ【覚醒】したを自慢していた。一方ヴォルフはクレトの代わりやいつ追放するかを一人で悩んでいて、気分転換のために訪れた酒場でこれまた偶然にも話を聞き、彼女をスカウトしたのだ。酒のせいもありサラはあっさりと了承し間の悪いことにクレトと初めて会ったのが食堂であったので、彼の従魔を見ていなかった。もし見ていたのであれば彼女はパーティー加入を辞退していただろう。
「皆さんはFランクの彼がドラゴンをテイムしていることに、何も疑問を持たなかったのですか?」
「小型のドラゴンが強いわけないだろ」
知らないのも無理はない。クレトにばかり情報収集を任せ彼らは全くと言っていい程、冒険者との交流を持たなかった。プライドだけは高い彼らは何故自分がそんなことをするのかとさえ思っている。特にヴォルフは幼少の頃からクレトと一緒だったので比較されることが多かった。
10歳の洗礼式でヴォルフはAランクである聖騎士を授かり、村全体で彼を称えた一方で、クレトはFランクを授かったがその頃のヴォルフは特に何も感じていなかった。だが徐々に変化が訪れたのは冒険者予備校に通い始めてからだった。各国は冒険者の育成に力を入れていて、10歳~14歳を対象に冒険者ギルドで冒険者としてのいろはを教えておりその中には当然ながらランクやスキルについてもあった。そこで彼は羨望の眼差しと優越感を浴び、さらにはギルマスからも贔屓にされていた。自分は選ばれた人間なのだと思い込みクレトとは対極に努力を怠った。なまじ才能があったのかこれといった苦労や挫折を知らずに育ってしまった。
順調に見えたヴォルフだったが、彼の人生において初めての挫折を味わうこととなる。失恋だ……しかも好きになった相手の好きな人は最低ランクのクレトであった。
好きになったきっかけは思春期特有なものだった。冒険者予備校という名前だが、実態は冒険者ギルドに通いそこでスキルの使い方や模擬戦などを行っていた。必然的にギルドの受付嬢が色々と教えてくれたり面倒を見てくれた。そう、自分が特別だから優しくしてくれるのだと――。しかし彼女は日々ひたむきに努力をするクレトを好ましく思っていた。告白まではいかなかったが、ヴォルフに愛を告げられた時にクレトの名前を出してしまったの。あまりにも彼がしつこく告白してきたせいで。
そこから彼はクレトと比べられるのを嫌いクレトは役立たずと声高に言うようになり、パーティーを組んでもその態度は変わらなかった。では何故パーティーなんか組んだのか……それは彼のプライドが許さなかったからだ。このまま彼に負けたままなのが気に食わない。いつか見返してやると――。
彼はギルマスから一目置かれていたので、周りの冒険者は彼を止められず助長を招いた。一人クレトをかばってくれた女性がいたが、権力には勝てずギルマスから移動を命じられ彼の前から去ることとなった……表向きは。
しかし、運命のいたずらとは時に残酷なものである。彼女と彼らは再び再会を果たすことになる。
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