53.束の間の一時
息抜きにと別の小説を執筆していましたら、思った以上に期間が空いてしまいました…。
更新ペースは遅いですが、完結までは描ききりますので気長に待って頂けると幸いです。
それともう一点。彼らが登場する予定でしたが、次話に持ち越しになってしまいました…。
キース、エーガとの話を終え、サフィとノワールが待つテントへと戻った。
二人は横になって寝ているのかと思えば、そうではなく布団の上に座って談笑をしていた。
「休める時に休んでおくもんだぞ」
「なに妾はそう疲れておらん」
「わ、私も疲れてなんかないんだからね!」
ノワールのそれは痩せ我慢か?ここであーだこーだと押し問答するくらいなら、さっさと寝るに限る。
「俺は疲れてるから先に寝る。二人も早めに寝ろよ」
「……はぁ、全く主は女心がわかっておらん」
「私たちはご主人様が帰ってくるのを待ってたんだよ」
「…すまない、それは俺が悪かった」
女心と言われても俺は男だから分かるはずもない。でもそれを言えば間違いなく怒るだろうことは、俺でも分かる。
ここは素直に白旗をあげるのが最善だ。
「そうじゃ、ルミアと連絡が取れて、どうやら明日の朝にここへ来るぞ」
「本当か!?仕事で忙しくて全然会えてなかったから嬉しいな。しかしここに来てもギルド職員の仕事はないぞ?」
「妾に言われても困る」
元々は国境の街―――タドリングの冒険者ギルドで臨時の職員としての手伝いと、ニンヘルダンジョン内で入手した魔石や魔道具なんかを調査して、それを買い取ったりタドリングまで持っていく仕事があった。
しかし蓋を開けてみれば、ニンヘルダンジョンでは魔物の姿がなく、魔道具も多くは見つかってないため仕事と呼べるような作業がない。
何の目的で来るのかは不明。今から連絡を取って訊いてもいいけど、明日になれば分かる事。とにかく今はゆっくりと寝たい。
「それもそうか。早めに起きてルミアが来るのを待つとしようか」
「うむ、そうじゃな」
「はぁ~い!」
人数分用意された入口に近い布団へと寝転がる。何かあった時にすぐ出れるようにと思ってそうしたのだが、何故かサフィに奥へと転がされた。
「ちょ、何すんだよ!?」
「なにって、端っこで寝ると妾たちが困るじゃろ」
「喧嘩はよくないよ」
珍しくノワールが仲裁に入り、それならそうと言ってくれればいいものを。
「主が真ん中でないと妾たちが喧嘩するからの」
「抜け駆けはよくないもんね?」
おい、待てノワールよ。さっきの仲裁は俺とサフィではなく、サフィとノワールの争いについてだったのかよ。
「なんかあったら起こす事になるから、それだけは忘れるなよ?」
苦し紛れに言い放ち何をどう勘違いしたのか、俺の了承だと脳内変換され布団に潜り込んできた。
「寝るだけなんだからそうくっつくなよ。それと風呂に入ってないから汗臭いぞ」
「お互い様じゃ」
はぁー全く、ダンジョン内では皆で寝れなかったから、こうして寝れるのは嬉しいけど逆に寝れなくなる。
いつも甘えてくるノワールが静かだと思ったら、スースーと寝息をたてていた。「おやすみノワール」と頬に寝る前の挨拶をした。サフィにも同じ事をしてゆっくりと目を閉じた。
『狸寝入りはよくないぞ?』
『どうしてわかったの!?』
『主には通用しても妾にはバレバレじゃ』
翌朝目が覚めるとまだ二人とも寝ていた。疲労が蓄積して寝過ごすかと思ったけど、いつも通り早くに起きれたみたいだ。
両腕をガッチリとホールドされてるため身動きがとれない。しょうがないので二人が起きるまではここにいない彼女と連絡を取る事にした。
『ルミア久しぶり。今は時間あるか?』
『…おはようございますクレト君。急でびっくりしましたよ。ちょうど今、そちらに向かっている最中で暇してた所です』
『タイミングが良かったな。昨日サフィからルミアが来るってを聞いたから、会う前に連絡を取ろうと思ってな』
実際には違うのだけど、連絡を取るつもりだったのは事実だ。
『ふふっ、嘘はよくないですよ?昨夜サフィさんからクレト君と寝るんだ、って自慢されましたからね。横にお二人がいるのではないですか?』
『余計な事を……ぐっすりと寝ているよ』
そこから30分程ルミアとの会話を楽しんだ。ルミアから後1時間から2時間の間にここに着くと言われたので、未だに寝ている二人を起こす。
起こし終えた後は三人でシャワーが設置してあるテントへと行き、砂や寝汗を洗い流した。
道中エーガと遭遇し、「昨夜はお楽しみだったか?」とニヤニヤ顔でからかってきたので速攻否定してやった。
シャワーを浴びた後は朝食を取ったり軽く体を動かしていたら、サフィからルミアが来たと連絡があった。テントへと戻るとそこにはルミアだけがいた。
「さっきも言ったけど久しぶり。他のギルド職員が見当たらないけど…?」
「同行した職員の方はキースさんエーガさんの所へ行っていますよ。その…気を利かせて頂いたみたいです」
モジモジと上目遣いで見つめる恋人が可愛いくて思わず抱き締める。すぐにハッとなって放したが、目の前の彼女は頬を染め照れている。一方の恋人はムスッとした表情をしていて、我関せずとこちらを見やる恋人は、よく見れば口角が上がってニヤリとしていた。
「コホンッ、積もる話もあるだろうし中で話そうか。すぐにでも仕事をしないとまずいか?」
「い、いえ昼までは自由にしていいと言われましたので」
タドリングでの仕事内容やここに来た目的など、ルミアの話を多く聞き、たまに俺達のダンジョン攻略についての話をした。攻略に掛かりっきりだった事もあって、こうして他愛もない話をするのが心地よかった。四人が揃ったってのも要因だろうけど、今はこの一時が貴重な安らぎだ。
しかし余韻に浸っていれたのも束の間、何だか外が騒がしくなってきた。最初は気のせいかと思っていたが、段々と喧騒が大きくなってきた。
「はぁ…揉め事か?」
「妾が様子を観て来よう」
「悪いな。緊急を要するならすぐに呼んでほしい」
「うむ、承知した」
今日一日はゆっくりして明日から攻略を再開させる予定でいた。大事な休養時にいらないトラブルは心底ごめん被る。
『なんでも帝国騎士が主がマッピングした地図を買いたいと言ってるみたいぞ。キースが拒否をして、それで揉めてるらしいのじゃ』
『はぁ…なんだそれ?俺たちが少なからず関わっているから、黙っていられないか…』
ノワールとルミアにも伝え外へと出た。そこにはあの頭のおかしい帝国騎士とその仲間が数人いた。
「あいつ嫌い…」
ノワールが嫌悪感を隠そうともせず悪態をつき、俺の後ろへと隠れるようにして下がった。できることなら俺も行きたくはないけど、サフィに行くと言った手前戻れない。
「クレト君、あれはなんでしょう?」
そう言えばルミアにはあの一件を伝えていなかったな。思い出すだけでも反吐が出る。しかしルミアが指差す方向は目の前の諍いではなく、その奥―――砂埃が舞っている所だ。
ルミア達が来た時と同様の方角だけど、何故か嫌な予感がする。俺の第六感が関わるなと訴えかけてくるが、ここには逃げ場などない。
まずは目の前のトラブルを何とかするべく足早に向かった。
次話こそは登場予定です!