52.ニンヘルダンジョン③
その後は順調に攻略は進み、3階層は1日程度で終わり現在は4階層にいる。これまで通りならそろそろ5階層へと続く階段が見つかる頃だが―――
「見つけたぞ」
と、考えていたらタイミングよくサフィが見つけたみたいだ。相変わらず俺にはまだ見えないがサフィが嘘を言っている様には思えない。近づくにつれ俺にもそれが見え、1階層から代わり映えしない荒野と同じでそれも似た様な造りをしていた。
5階層へと降りると砂埃舞う荒野ではあったが、これまでとは大きく異なるものがそこにはあった。
「おっ、まさかもうあるとはな」
「これで一旦は戻れるの」
『はいはいっ!お風呂に入りたい!』
地面に青白く光る幾何学模様のそれは早くあって欲しいと思っていた転移ポイントだ。まさか5階層で出てくると思ってもいなかったので、次の休憩時にいつ帰還するかを決めようと思っていた。浅い階層に転移ポイントがあるってことは、もしかしたらこのダンジョンは最下層が深くはないのだろう。
それを見たサフィとノワールは喜色満面の笑みを漏らしていた。特にノワールの喜び様は凄い。かく言う俺も素直に嬉しかったので人のことは言えないが。
「聞くまでもないとは思うが、一旦帰還するがいいよな?」
「勿論じゃ」
『うんっ!』
案の定反対意見などはなく地上へと帰還することになった。
転移ポイントの上に三人で乗ると視界がブレ軽い浮遊感に襲われた。目を開けるとなんら変化を感じ取れなかったが、後ろを向くとダンジョンの入口、この場合は出口が見えたため転移ポイントが正常に作動した証拠だ。何回使ってもこの浮遊感には慣れないものだ。
どうやらダンジョンの入口は少しばかり大きくなっており多少屈めば通れるくらいの大きさにはなっていた。だが狼形態のままのノワールではまだ通る事は不可能なため擬人化を使わないと通れない。
「一旦は帰還するがまたすぐにでも攻略には取り掛かるからそのつもりでな」
「わかっておる。じゃが多少休むくらいは許されるだろ?」
「勿論、俺だって休みたいからな。要するに気持ちを切らさずにいてくれってことだ」
「大丈夫、だいじょうぶ~」
何とも気の抜ける返事をするノワールだが本当に大丈夫か?攻略に戻る際「えぇ~やだぁ~」とかは勘弁してくれよ。まぁ今は大丈夫と信じよう。
ダンジョンを出て何日振りかの陽の光を――――浴びることはなかった。辺り一面は暗くテント設営場所には所々に灯りが確認できた。どうやら俺たちの腹時計は大幅に間違ってはいなかった様だ。誤差はあるとは思うが現在時刻は夕食時を少し過ぎたくらいだろう。
地上へと帰還すると見張りに立っていた騎士に驚かれたが呼び止められることもなく軽く会釈をして通り過ぎた。見張りには帝国騎士もいるため今ここでダンジョンについてのアレコレを聞くと帝国側にも筒向けになってしまうから敢えて何も訊かなかったのだろう。
後で色々と訊かれるのだろうが今はゆっくりと休ませて欲しいものだ。テント設営地へ行くとそこには”獣の魂”のリーダーであるエーガと、”永遠の旅”のリーダーであるキースの二人が焚火を挟んで何やら話し込んでいた。
「よぉ久し振り。二人も戻っていたんだな」
「おおぉぉぉクレト無事だったか!」
軽いノリで話しかけたらエーガに凄い驚かれこっちも驚いた。キースも声に出していないがその表情からは安堵の表情が窺いしれた。
「無事も何も全く魔物がいなかったから危険な事と言えば罠くらいだったぞ。でも罠も多くはないし致命傷になる様な罠は見かけなかったけど」
「やはりそうでしたか。ちなみに何階層まで到達しました?」
「5階層までだ。そこに転移ポイントがあったから一度帰還することにしたんだ」
「大分攻略されたようですね。差し支えなければ5階層までの事をお訊きしてもよろしいですか?」
「かまわんが一度テントに戻ってからでもいいか?」
サフィとノワールから早くしてという視線がヒシヒシと感じ取れたため二人には休んでもらい、本音では俺も休みたいところだが何やら深刻そうに考え込んでいる彼らを見てそうも言ってられない。
「悪いが俺は二人と話すから先に休んでてくれ。あとルミアにダンジョンから戻った事を伝えてもらえるか?」
「仕方ないの。早目に終わらせて主も休むのだぞ」
「せっかく一緒に寝れると思ったのに…」
そう長くはならないと思うし、仮に長くなるのであれば明日にでもして欲しいところだ。悪いな、と二人に呟きながら頭を撫でテントを出た。
「待たせたな。それでそっちの攻略はどんな風だったんだ?」
「わいのとこは2階層に到達してそのまま引き返した」
「私達は2階層を少し攻略して、その後帰還しました」
「ん?思った程進んでないのか?」
てっきりもっと進んでいるのか思っていたけど、二人とも似たり寄ったりみたいだ。道理で道中見かけなかったのか。
「それゃあわいらは歩きやから限度がある」
「それにアイテムバックは容量が限られているため、我々5人パーティーだと負担も大きくなってしまうのです」
言われてみれば俺はノワールに頼りきりだし、アイテムボックスがあるおかげで食料などの心配はない。馬などの移動手段があれば違ったのだろうが。
「ひょっとして帝国も同じ様な感じか?」
「恐らくそうでしょうね。ただ当初よりも入口が広がっているため馬が通れる広さまで待っている様に見受けられます」
「わいらもそうや」
詳しく話を聞くと国境警備隊から馬を借りて攻略をする予定で、帝国側は馬に限りがあるため全員が馬に乗っての攻略は出来ないそうだ。
彼らはAランクとSランク冒険者のためこのくらいのダンジョンはどうとでもないみたいだが、如何せん相性が悪いみたいだ。加えて情報も少なく限りある物資では深追いが出来ないらしい。高ランク冒険者とはいえ、命は一つしかないため慎重に行動せざるをえない。
「それで話を戻すがよぉ、5階層までのことを聞かせてもらえるか?」
「あぁいいぞ。正確ではないがマッピングした地図があるからそれを見せながら説明するよ」
「…よろしいのですか?」
「問題ない。できることなら"蒼黒の絆"が一番に制覇したいけど、重要なのは王国側、つまりは俺たちが先に制覇することだからな」
そうして地図を広げながら説明を始めた。とはいえ、魔物が出なかったので入口から階段までのルートや、どういった罠の類いがあったのかを伝えるだけで、すぐに説明は終わってしまった。
「なるほど。もしかしたら最下層は意外とすぐそこかもしれませんね」
「やっぱりそう思うか?まぁそれなら早くに制覇できて助かるけどな」
二人からお礼を言われ、それぞれ熟考しキースの一言を受け俺も同意見だった。案外この依頼は早くに終わるかもしれないな。
だがこの時の俺には知るよしもなかったが、この場所に新たな問題が近付きつつあった。
次回本編に彼らが登場予定です!