閑話:紅の進撃⑦
投稿が遅くなり申し訳ございません。
宿屋へと戻った"紅の進撃"は盛大に愚痴を溢していた。
「クソッ!馬鹿にしやがって!!」
「何なんだよっあの態度!偉そうにしてよぉ!」
ヴォルフとアルフレッドは共に机を叩き怒りを爆発させていた。アルフレッドは少ししかギルマスと話をしていなかったが、逆にその少しが強く印象に残ってしまったために苛立ちを抑えられないでいた。
ヴォルフはまさか断られるとは思ってもおらず、あげく衆目の前で恥をかき自尊心の塊である彼にとっては到底許されることではなかった。
「いけ好かない女ってだげじゃなくてあの余裕そうな顔が気に喰わないわ!」
「えぇその通りです。ギルドマスターだからといってあの態度はないです」
ミランダとリアは彼らの様に物に当たることはなかったが、腹に一物を抱えている様は恐ろしく感じられる。特に普段は大人しい人程怒った時は怖いものである。だからといって”紅の進撃”を擁護してくれる冒険者はいないだろう。
そしてサラはというと―――
(まさかギルドであんな不様を晒すとは…。私の顔を覚えられていたら後々の計画に支障を来す可能性がでてくる……。そうなったらこのパーティーに居続けた意味がなくなってしまう、これ以上王都に留まっているのは危険。うまく彼らを誘導する方法はないものか…)
今後の計画を練りなおしていた。彼女はアイテムバックを持ち逃げした際、王都の闇商人に売る計画を立てていた。
闇商人とは普通の商人とは違い非合法は勿論の事、他人から奪いとった物を自分の物として売り払ったりなど好き放題をしている。だがその特徴から市場では出回らない貴重な物が売り買いされていると囁かれている。しかし彼ら闇商人はその名の通り闇に存在しておりどこにいるのかは限られた人物しか知らず、その名前が広まっているだけで尻尾は掴めていない。サラは日々買い出しやら情報集めでこき使われていたのが幸いし、その存在を知り今回の計画を立てたのだ。現状闇商人と交渉する伝手がないため穴しかない計画なのだが―――。
もし伝手を得た時に自分の事が悪い意味で知れ渡っていたら交渉の際に不利になると思っているため、何とかして彼らには大人しくしてもらうか、商人の耳に入らない場所に行って欲しいのだ。
「ちっ取り敢えずは情報を集める。あの女が言っていた通り国が動いているならあいつに言っても意味がない」
「なら俺は部屋で休んでるから―――」
一度冷静になったヴォルフは今後の方針を決めた。それに対してアルフレッドは自らが動く気はないのか、後は任せたと言わんばかり手を振って部屋を出ていった。
「なら私も部屋に戻ってるわ。もしかしたら気分転換がてらにリアとブラブラしてるかも」
「いい考えですね。ショッピングでもしませんか?」
アルフレッドに続き、二人も自分勝手に予定を決めて出ていった。
「俺もベッドで横になっているから後は任せた」
「………はい」
情報を集めると言っておきながら人任せてで、誰も手伝う素振りがなく全てサラに押し付けている。挙句ヴォルフの部屋に集まっていたため、彼の表情から「寝るからさっさと出て行け」と読み取れた。色々と言いたいことが山程あったが、寸でで飲み込み了承を示し部屋を出た。
(全部押し付けるとか有り得ない!……でもこれはチャンスよ。理由もなく出かけると怪しまれるかもしれなかったから、冒険者の情報を集めながら闇商人の事も何か分かるかもしれない)
転んでもただでは起きないサラは自らの計画に結び付けていた。
後日――――
ヴォルフの部屋に”紅の進撃”のメンバー一同が集まりサラの報告を聞いていた。
「集めた情報によると、ダンジョン攻略に選ばれたのはSランクパーティーの”獣の魂”とAランクパーティーの”永遠の旅と”蒼黒の絆”の3パーティーだそうです。問題となる”蒼黒の絆”はCかBランクパーティーらしくメンバーは3人です。えぇーとメンバーがクレトという男の人がリーダーで残りの2名は女性で、サフィとノワールという名前らしいです」
サラは自らが調べメモをしていた紙を読み上げていた。彼女が優秀だから半日程で調べられた―――訳ではなく、ギルマスであるエミリーは選ばれた冒険者のパーティー名や名前を秘匿していなかった。実際冒険者として活動をしていればそれらの事は必然的に知れ渡るので隠す必要がない。しかし冒険者にも個人情報があるため職業やスキルなどの大事な部分までは広めていなかった。
従ってサラが調べた内容はヴォルフ達でも一日あれば調べられる内容ではあったが、当の本人は勿論のこと他のメンバーもそのことについては気付いていない。
「まさかあのクレトが俺達を差し置いて攻略メンバーに選ばれたっていうのか!?」
「おいおい!なんの冗談だ!?ガセ情報を掴まされてないか?」
(人に押し付けて置いて嘘とは失礼なっ!!文句があるなら自分で調べてよね!)
「……冒険者ギルドで調べた情報なので確かだと思います。ただ気になるのが女性が2名いることです。彼はテイマーで蒼龍と黒狼がいるはずですが魔物であるそれを女性とは言いません。ですので従魔を合わせると3人と2匹のパーティーだと思われます」
彼女が調べた内容では確かに女性が2名となっていた。しかし運悪く情報を聞いた人物は彼女達が擬人化のスキルを使った時に居合わせていなかった。その場にいた冒険者達は目の前で起きたことが信じられずにいた。加えてそれを他の冒険者に言った所大笑いされ馬鹿にされてしまった。そのことの方が先に広まり擬人化の件はあまり知れ渡っていなかった。ギルマスも率先して広める様な素振りをしなかったためサラにまで情報が行き渡らなかったのである。
「追い出してすぐにメンバーを集めたってことか。しかも女に頼るとはとんだ野郎だな」
見当はずれもいい所なのだがここで真実を伝えられる人物は誰もいなかった。そして彼の指摘は特大ブーメランでもあった。
「ちょっと!あんなのに負けるなんて私は嫌よ!!」
「ええ全くです。魔物に後れをとったなどAランクパーティーの名折れです」
自分よりも劣っている―と思い込んでいる―人物に負けるなどプライドの高い彼女達には到底受け入れることではなかった。まして人間でなく魔物に負けているなど有り得ないといった心境である。
「ですが選抜結果には国も絡んでいるため迂闊に口を挟めません。次の攻略メンバー派遣まで待つのがいいかと思います」
「それはいつ何だ?」
「…わかりません」
使えないなぁと心の内で悪態を吐いたヴォルフだが、表情に出ておりサラは唇をぎゅと噛み締め耐えていた。
「ならよぉ俺達が先に制覇して上の連中の鼻っ柱を折ってやろうぜ!」
「いいじゃないそれ!使えないテイマーが選ばれるくらいなんだから私たちなら余裕でしょ」
「私も賛成です。制覇すれば借金もなくなることでしょう」
次々とアルフレッドの意見に賛同する中ヴォルフは一人考えを巡らせていた。
(横から搔っ攫うってのはカッコ悪い気もするが、リアの言う通り借金は完済してお釣りがくるくらいの大金が手に入る。それにSランクパーティーの先を越せば俺達のパーティーをSランクパーティーに押す声を出てくるだろう。つまりは良い事尽くめだ!!)
制覇できないとは微塵を考えていないのか制覇した後のことしか考えておらず、同じタイミングでサラも頭をフルに働かせていた。
(国主体の選抜に横やりを入れるのはまずいけど、制覇してしまえばお咎めなしになるかもしれない。それに彼らを王都から離れさせるいい機会だ。残念ながら半日程度では闇商人の情報は掴めなかったけど私なら必ず情報は得られる!一先ずダンジョン攻略に着いていって隙を見てアイテムバックを奪い、その後売る手段を見つけても遅くはない)
謀らずも利害は一致した。こうして彼ら”紅の進撃”もニンヘルダンジョンへと向かうことが決まり、追放したクレトとその従魔であるサフィ、ノワールとも顔を合わせることとなる。しかも人として対面することになり、ヴォルフにとっては嘗ての初恋相手にも会うことになるとは知る由もなかった。
運命の悪戯とは時に思いがけない幸運をもたらす半面悲運もまたもたらす。それが誰に降りかかるかは今この時、誰にも分からないがそう遠くない未来身を持って知ることとなる。
次回はクレト達の視点に戻ります!