閑話:紅の進撃⑥
出発時間よりも早く起きたサラは軽く身嗜みを整えたら商店へと向かった。ヴォルフに書かせた誓約書を届けて来たのだ。朝早かったがさすがは商人、早くから仕事をしていた。サラにとっては好都合だったので誓約書を渡してすぐに店を後にした。
(馬車は街の門付近にお店があるからいいとして―――あっ!馬用の餌を買い忘れていました)
自分たちの食事だけを考えていて馬のことを忘れていたため急いで餌を買いに出掛けた。こちらも朝早くから馬車で移動する商人がいるおかけで、馬用の餌を取り扱っているお店は開店をしていた。
何やかんやと一人真面目に雑務をこなしていた。買い忘れた物を揃え宿に戻ると、メンバーは起きており準備をしていた。サラは女性陣と合流して朝食を一緒に取っていた。
「準備はいいか?……よさそうだな。それじゃあ王都へ向けて出発だ」
その後は馬車を借りるお店に全員で行き、御者はサラとリアが出来るからと雇うことはしなかった。街の外へ出たらヴォルフが最終確認の声かけだけを済まし王都へと向かった。
約一週間の旅路になるため野宿する日は必ず発生する。しかしそこは冒険者だからと割り切っているおかげか特に反発する者はいなかった。ただ見張りは男女別々で行う事だけはミランダが頑なに言い張った。
Aランクパーティーは伊達ではなく、道中魔物に襲われたものの難なく撃退をし、予定よりも早い5日で王都へと到着を果たした。
あくまで目的は新ダンジョンであって、王都はただの通過点に過ぎない。しかし新ダンジョンが何処にあるのかを知らない上に、夜営で疲労が残っていることもあり宿屋を確保しに向かった。
ここで問題となったのが宿屋のグレードである。王都までの道すがら他の街に寄ることをしなかった所為で寝心地の悪い毛布で寝ていた。そのためグレードの高い宿屋に行こうと言い出すのは当然の流れと言えるのだが、パーティーのお金は自分のお金と思っているサラは反対をした。しかし新入りな点と4対1では分が悪かったため聞き入れられることはなかった。
前の宿屋よりも数段上の宿屋を確保し4人はご満悦だった。これくらいじゃないと自分たちには相応しくないと思っていたのだ。
持ち逃げ前に手痛い出費をしてしまったサラは何としてでも新ダンジョンで稼ごうと意気込んでいた。
「それで王都に来たまではいいけどよ、この後どうすんだ?」
「すぐにダンジョン攻略は嫌よ。何日かはここで休ませてちょうだい」
(何日も泊まったらいくらかかると思ってるのよ!!)
それぞれ贅沢に個室を確保し、一旦5人で集まり今後の事についてアルフレッドが聞くが、ミランダは取り敢えず休養したいと宣言をした。その発言に対してサラは内心で不満を爆発させていた。
「休むのもいいが、まずは新ダンジョン攻略メンバーに俺達を入れてもらうようギルマスに言いに行かないか?」
「そうだな、攻略メンバーの選定に苦労しているだろうから、ここは実力者である俺達が参加するって言ってあげるわけだな!」
「仕方ないわね。高ランク冒険者である私たちが参加してあげるんだから、ギルマスは感謝してほしいわね」
「王都なだけあって依頼料は奮発してくれるでしょう」
それぞれが微塵も断られるとは思っていないが、残念ながら既に攻略メンバーは決まっており新ダンジョンことニンヘルダンジョンへ向けて出発している。無駄足とも知らずにギルドへと足を運ぶ一向。
冒険者ギルドへと着いた"紅の進撃"は、王都のギルドの大きさに圧倒されたがすぐに気を取り直して中へと入る。人が多いもののその分受付も多いため空いていた場所へと向かう。
「ギルマスに会いたいから呼んでもらえるか?」
「……大変申し訳ありません。ギルドマスターと会う約束はされているのでしょうか?」
「そんなものなくても俺達はAランク冒険者だ」
「はぁ…」
「察しの悪い女だなっ!いいから呼んで来いよ!」
ギルマスは会いたいからと言って会える存在ではない。クレトの様に呼び出しや約束をしていれば別である。しかし冒険者予備校時代のギルマスはヴォルフを優遇していたため、彼にとっては呼べば会えると思い込んでいた。加えてAランク冒険者だから多少の融通を聞いてくれるとも思っていたが、王都の受付嬢には通用せず痺れを切らせたアルフレッドが怒鳴り声をあげた。
何事かと注目を集めるが、何処吹く風といわんばかりにサラ以外は全く気にしていなかった。
「申し訳ありませんが、高ランク冒険者と言えども約束をされていなければ会うことはできません。お会いしたいのであれば―――」
「どうせ暇してるんでしょ?いいから呼んできてよ」
受付嬢が丁寧に対応するも今度はミランダが口を挟んできた。困り果てた受付嬢は隣の同僚に視線で助けを求めるが、相手も困り顔でどうしていいかわからないようだった。だが救いは上の階からもたらされた。
「騒がしいわね。なにか問題事かしら?」
「ギルドマスター!」
「あらどうしたの?そこにいる冒険者は見ない顔ね」
「あんたがギルマスか。新しく出来たダンジョンの攻略に俺達が参加してやるから案内しろ」
「…………色々と言いたいことがあるけど、あなたたちに攻略をお願いすることはないわ」
上から目線で礼儀をどこかに捨ててきたような物言いに、さすがのギルマスも絶句してしまった。説明しても聞かなさそうだと思いバッサリと断った。
「なっ!?Aランクの俺達が手伝ってやるって言ってんだよ!」
「だから何?あなたたちよりも優秀な冒険者にお願いしたからいらないわ」
「俺達よりも優秀だと?聞き捨てならねぇな!俺達の実力を知らないくせによくそんなことが言えるな!」
「知らなくてもわかるわよ。だってSランク冒険者に頼んだのだからそれだけで十分あなたたちより優秀ってわかるでしょう?」
またもアルフレッドが割り込んできたが、子どもに言い聞かせるように、そして彼らでも理解できるであろう根拠を用いて言い返した。
さすがの彼らでもSランクが自分たちよりも上だと言うことは理解できる。だからといって納得するかどうかは別であった。
「なら噂で聞いた無名パーティーはどうなんだ?」
「あらよく知っているわね。でも残念。無名だからと言って弱い訳ではないわ。まぁその逆はあるかもしれないけどね」
「喧嘩売ってるのか?」
「思い当たることがあるのかしら?それよりもこれ以上の問答は時間の無駄よ。あなたたちが何を言っても既に派遣しているから手遅れよ。攻略メンバーについては国も認可しているから文句があるなら直接そちらへ行ってちょうだい」
シッシッと追い払う仕草をするギルマスに対して青筋を浮かべるヴォルフだが、彼女から発せられる威圧を受け一歩後退ってしまう。それを見たギルマスがニンマリと口元を歪めたが当の本人は気づいていなかった。
(この程度で怯むなんて期待外れもいいとこね。そういえば彼らのパーティー名や名前を聞き忘れちゃたわ。今更聞くのもあれだし念のため後で調べておこうかしら)
形勢が不利だと悟った彼は一旦宿屋へ帰ることにしたが、その瞳は決して諦めてはおらずサラを除く全員が同じ瞳をしていた。
閑話はもう1話続きます!