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閑話:紅の進撃⑤

紅の進撃というよりかはサラを中心とした話になります。

時系列はニンヘルダンジョンが発見されてから約一週間が経ったくらいです。

 翌日彼らは王都へ向けて出発をして――――いなかった。王都までは馬車で約一週間、馬車の手配は勿論のこと旅路に必要な食料などの準備をしていなかった。というよりもその事が頭から抜けていたのが原因である。


 パーティー内の常識人であるサラは当然気づいていたが、あえて指摘をしなかった。これからの計画を練るためには少しでも時間が必要だったからだ。


「悪いが馬車の手配と王都までに必要な食事を揃えてもらえるか?お金はアイテムバックに入っている分から使ってくれて構わない」


 ヴォルフのお願いという名の命令を素直に引き受けるサラ。


「サラが明日までに準備してくれるから今日は各自自由行動にしようか」

「ずっと攻略ばっかだったからな。たまの息抜きってやつか!」

「もうこの街には来ることはなくなるよね?それならリア、一緒に買い物に行きましょう!」

「ええいいですよ。私も買いたい物がありますので」

「おっ!なら俺もついていってやるぜ!」

「ちょっとやめてよ。女子の買い物何だから来ないでよ」


 さらっと明日までにやれと言われ内心で舌打ちをするサラ。さらに自分を差し置いて遊びに出掛けるなど、それでも同じパーティーメンバーかと言いたくなるが、言っても仕方ない事だと割り切り言葉を飲み込む。

 だかわ追い打ちをかけるようにしてヴォルフが話を続ける。


「買い物に行くならお金を渡すよ。俺の所為で迷惑をかけているからな。サラ、アイテムバックを貸してくれ」


 既に自分の物だと認識しているサラは顰めっ面になりそうな表情を何とか隠しそれを手渡す。そして自分の懐に入るはずだったお金を幾等か取り出して彼らに支給をし始める。折角コツコツと貯めていたものと、憤慨しそうになる感情を精一杯隠し続けるサラ。もし彼女の本性を知っている人が見れば、いつ化けの皮が剥がれるのかヒヤヒヤものだろう。


「気前がいいじゃねぇか!なら俺たちは娼館にでも行くか?」

「そういう話は男だけの時に話してよ!本当信じられない」

「うっせーな!お前には手を出すつもりはねぇから安心しな」

「何それ?私には魅力がないってこと?これだから見る目のない男は――」

「何だと!?ちょっと面がいいからって調子に乗るなよ!」

「まぁまぁその辺にしとけ。一緒に行くからさ」

「ミランダさんも言い過ぎですよ。それよりも早く買い物に行きましょう」


(私のお金を娼館に使うなんて信じられない!このままだと私の手元に残るお金が無くなってしまう。もっと稼いでからと思っていたけど計画を早める必要がありそうね)


 ヴォルフとリアがそれぞれを宥めて何とか収まった。これ以上ここにいると余計な火種を生むと思ったヴォルフはアルフレッドを連れて足早に出掛けようとした。


「じゃあサラ頼んだぞ。ついでにアイテムバックを買った商人に王都に行くことを伝えてくれるか?」

「…わかりました」

「二人も買い物に行くのはいいけど、夜にはまたここに集まってくれよ」

「わかったわ!それじゃあリア行くわよ!」


 出掛け様に余計な仕事を増やされ、三度(みたび)感情を押し殺すもよくよく見れば、彼女は拳を力いっぱいに握っていることに気づけただろう。

 そして皆が出ていったのを確認したサラは、一度部屋の中へと戻ることにした。


「くそっ!新入りだからってこの私をこき使いやがって!今に見てなさい、必ず後悔させてやるんだから」


 自室へと戻り鬱憤を吐き捨てる。今すぐ持ち逃げしても指名手配されて捕まるだけで逃げ延びる伝手がこの街にないため王都へ行くまでは我慢だ、と何度も何度も己に言い聞かせていた。


 散々人のことを馬鹿にしているが、当のサラもプライドだけは一人前だった。自分の気持ちに何とか折り合いをつけ、ヴォルフの頼まれ事を片付けに出掛ける。


 日々買い出しに出掛けていたのが幸いし、馬車の手配や食料の準備はすぐに終えることができた。問題は商人の方だった。


「つまり王都へ拠点を移されるのですか?」

「いえダンジョンを制覇しにいくだけです。借金については王都の本店で返済をしたいと考えています」

「"紅の進撃"はこの街では有名です。借金を踏み倒すとは思っていませんが、私も商人の端くれですので、誓約書にサインをして頂けるのであれば構いません」

「わかりました。明日の朝までに誓約書を届けに参ります」

「では私は本店に連絡をしておきます」


 どこぞの馬鹿たちとは違い商人は口約束だけでは済まなかった。誓約書の文面を見ると、返済額や利息、逃げ出し際に指名手配するなどの事が書かれていた。持ち逃げする気満々のサラにとっては邪魔な物だが、自分がサインをする必要はないかと思い直す。買った本人、つまりはヴォルフがサインすべきだという考えに至り誓約書をアイテムバックの中へとしまい、商店を後にした。

 その後は王都までの地図などを買い一足早く部屋へと戻った。


「さて、持ち逃げするとして問題はタイミングです。できれば彼らがダンジョン攻略している間がベストですが、私だけ行かないのは変ですし、アイテムバックは持っていくはずなので持ち逃げは不可能。王都へ到着したら買い出しと称して逃げるのが一番か――――」


 などと一人今後の計画を練り始めていた。パーティーメンバーが戻るであろう時間まで考えを巡らせたサラは、1階の食堂へと降りる。


 男二人は性を発散したためか上機嫌で、女二人も存分に買い物が出来たのか上機嫌そのものだったことに、サラはまたも怒りが込み上げてくる。ぐっと怒りを堪えメンバーに明日の予定を伝える。ヴォルフには誓約書へのサインを書いて貰わないといけないが、すんなりサインするとは思えなかったので自らお酌をして酒を飲ませた。


 上機嫌の所為か強くもないのにお酒を飲み続けたヴォルフは十分に出来上がっていた。サラは誓約書を書かせるために、食事を終え各々が部屋へと戻る時にヴォルフだけを呼び止めた。不信に思われるかと思ったが、そんな素振りも見せずに彼は素直に残った。そして酒の所為で眠たくなり思考が低下している彼に言葉巧みにサインを求めた。


 最近ではサラの事を信用し始めた彼は、迷うことなく誓約書にサインをした。これで持ち逃げしても責任はヴォルフが被ることになる、と彼に気づかれない様にほくそ笑むサラ。

 あとはいつ実行するかを慎重に決めるだけだと思い、自室へと戻り未来の自分の姿に思いを馳せるのであった。

あと1、2話閑話を挟んで本編に戻ります!

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