48.荒れ狂う感情
執筆が遅くなって申し訳ないです。
俺の聞き間違いか?頭の中で思い描いていた帝国騎士とは大きくかけ離れた言葉、いや暴言と言っても過言ではない物言いだ。
余りにも的外れで、余りにも不快過ぎて二の句が継げない。
「貴様のメイドは我が貰い受ける!」
そんな状態をどう勘違いしたのか分からないが、一言一句違わずに帝国騎士が言い放ってきた。ギルドみたいに女だからとかメイドだからと馬鹿にされるのではなく、まさかの貰い受けるときた。百歩譲って、一万歩譲っても理解に苦しむ。
「二人は俺の大事な家族だっ!渡すつもりも、ましてや手放すつもりはない」
「我もタダでとは言わない。貴様が一生不自由なく暮らせるだけの金銭を支払おう。それで文句はあるまい」
こいつは人の話を聞かないタイプの人間かよ……。怒りよりも呆れの方が強く感じる。こういう輩には何をいっても意味はないのだろうが、言わずにはいられない。
「どれだけ金を積まれてもお前にはやらん」
「我はアイオライト公爵家の嫡男、ブルラリオ・フォン・アイオライトであるぞ!貴様はどう見ても平民。貴族たる我に軽々しく話しかけるでないっ!貴様は言われた通りにすればいいのだ!」
そっちから話しかけてきたんだろうがよ。何なんだよこいつは。
「そちらの青髪の女性は我の妻にしてやろう。我が家の家名であるアイオライトは別名ウォーターサファイアとも言ってな、貴女の髪色は我が家にピッタリであろう?公爵家の妻になる栄誉を得られるのだ、平民のメイドなど今すぐ辞めて我の妻となれ!むしろ平民如きがメイドを侍らせるなど信じられんっ」
このブルラリオとかいう奴の髪色は淡い青、水色に近い色をしていて、サフィはどちらかと言えば蒼だ。アイオライトと同じような色合いではあるが、それがどうしたと言いたい。
そして俺はお前が信じられない。
「妾は貴様如きの妻などにはならんぞ。ついでもメイドも願い下げじゃ」
「…よく聞こえなかった、もう一回言ってくれるかな?」
「何度でも言ってやるよっ!お前なんかにサフィは渡さないっ!とっとと失せろ!!」
サフィがはっきりと断っているにも関わらず聞く耳を持たないとはとんだ糞野郎だ。サフィとノワールを抱き寄せて何度目かの拒絶を投げかける。ノワールも渡すつもりは毛ほどもない。
「……平民風情が調子に乗りおって誰に歯向かったか後悔させてやるぞ!我は欲しいと思った物は全て手に入れてきた。必ず我が物としてみせる故覚悟しておけ!ついでにそこのお前もだ!今更謝罪したとて寛大な我も到底許すことは出来ぬ。精々ダンジョン内で魔物に殺されるなど興が醒めることはしないでくれたまえよ」
ここで斬りかかってこない常識はあったようだが、鬼の形相で立ち去っていった。貴族に関しては詳しくはないけど、公爵家は王族を除けば一番爵位が高いはずだ。欲しい物を全て手に入れてきた、って言うくらいだから苦労とは無縁の暮らしをしているのだろう。
「サフィは変なやつに目をつけられたな…」
「全くじゃ…。じゃが主が守ってくれるのだろう?いつになく言葉遣いが荒れておったぞ」
俺が守るまでもなくサフィは十分強いけどな。冷静になれば正にその通りであるが、それだけ頭にきた物言いだったのだ。初めて会った人物にいきなり貰い受けるとか、訳の分からないことを言ってくるし話が通じないしで、冷静でいられる方が難しい。
「妾を守ってくれたのは嬉しかったぞ。それに格好よかったぞ!」
「俺は主人だから守るのは当然だ。単純にあいつにムカついたからってのもあるけど」
主人ってよりは家族だからってのが大きいのだけど、それを言うのは何だか恥ずかしいからは言わないでおく。多分気づいてはいるだろうとは思うけど。
「ねぇ!何なのあいつ!?私のことをついでみたいな言い方して信じられないっ!!あぁぁぁ思い出しただけでも頭にくる!今度あったら噛み千切ってやるっ!!」
今になって不満が爆発したようで早口に捲し立ててくる。ノワールの言わんとすることも理解はできる。最初はメイドって言っていたから二人のことかと思えばサフィにご執心で、捨て台詞でノワールにふれていた。ノワールからすれば癪に障る出来事であったのは明白だ。さっきからノワールにも珍しく汚い言葉が溢れでていて、サフィも苦笑いだ。
俺からすれば人の家族を奪おうとすることが許せず、他にも権力に物を言う言い方、話が通じないなど気にくわない点ばかりだ。ダンジョン前に体を動かそうと思ったらこれだ。ある意味これも帝国の妨害なのではと勘ぐってしまう。―――あいつの様子からしてそれは違うと思われるるけど。
「一先ず落ち着こう。あいつのことを考えるだけでイライラしてくるから忘れよう」
「じゃがここにいるってことは、奴もダンジョン攻略に参加するのじゃろ?嫌でも視界に入るぞ」
「次失礼なこと言ってきたら、◯✕■▷▼◎●★*△してやるっ!」
女の子が口にしていい言葉ではないものが多分に混じっていたぞ。余程鬱憤が溜まっているんだな…。二度と奴とは関わりたくないけど、サフィの言う通りでたぶん無理だろう。
予定を変更してテントへと戻りノワールの機嫌回復をはかる。ノワールがここまで怒っているおかげ、と言っていいのかは分からないが、俺は多少落ち着いてきた。サフィは怒りよりも嫌悪感が強かったみたいで、暴れることはなかった。ノワールも黒狼になって襲うことはないし、擬人化が解いていないから理性を失う程ではないものの怒り心頭なのは間違いない。
魔物は理性を失うと暴れ狂うと聞いたことがあり、サフィとノワールも例外ではないと思う。ただテイムされた魔物だから絶対にそうなるとは言い切れない。
心を落ち着かせるために甘いものとホットの紅茶を用意する。攻略前だから食べ過ぎるのもどうかと思うので程々の量をだしておく。クッキーなんかを両手をバクバクと口の中に入れていくノワール。
それにしても攻略選抜者に公爵家の人間が出てくるとは予想外だった。権力で強引に捩じ込んだのか、あんな奴でも中身は凄腕の騎士だったりするのか。色んな意味で要注意人物だ。帝国騎士が皆あんな奴ではないと思いたいが、俺の中になった帝国騎士のイメージが木っ端微塵に打ち砕かれたのは事実だ。
約1時間かけて漸くいつものノワールに戻った。いつもは◯◯して欲しいなぁ~と甘えてくることが多いのに、今回ばかりは◯◯してって感じだった。終始苦笑いのサフィだったけど、内心ではあいつのことをどう感じていたのか、今の俺は知るよしもなかった。
次回ダンジョンへと入ります!