表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/66

47.帝国騎士の戯言

 決められていた集合時間は朝9時のためそれよりも30分程早く目が覚めた。時間に余裕があるためシャワーを浴びることにした。シャワーを終えた時には二人も起きていたので、朝の挨拶を済ませて準備をする。馬車の移動中にでも朝食は取れるので少しお腹に入れる程度だけ食べて砦の入口へと向かう。


 ダンジョン攻略が開始される時刻は正午で移動時間を考えても早く着くことになる。その分テントの設営準備を行うことになっている。あとは誰かが寝坊してその所為で時間に遅れた何てことになったら目も当てられないため、余裕を持つことは大事だ。

 集合場所にはマーサさんを含めた数人の警備隊員と”永遠の旅(エターナルジャーニー)”がいた。何故か警備隊員がマーサさんにではなく、サフィとノワールに敬礼をしている。未だに特別メニューの件を引きずっているのだろうか。よくよく見れば彼らの瞳には恐怖ではなく尊敬に近い感情が見受けられるため、恐らく最後の方まで耐え抜いた人たちだろう。


「おはようキース。早起きだな」

「おはようクレト。いつも決まった時間に起きているので集合時間まで特にやることもなく、こうしてここにいるのです」


 メンバー内にも眠そうな人が見られないので、キースだけでなくメンバー全員が常日頃から規則正しい生活をしているのだろう。

 あとはエーガたち”獣の魂(ビーストソウル)”が来たら出発とだ。既に積み荷の作業は終えているみたいなので雑談をしながら彼らを待つ。

 そして時間ギリギリのタイミングで漸くやって来た。


「ギリ間に合ったなぁ…。遅れてすまん」

「時間には間に合っていますから謝る必要はないですよ。それでは皆さん集まりましたのでニンヘルダンジョンへと出発致します。馬車は二台のため適当に別れて乗ってください」


 全員揃いマーサさんの指示の元馬車へと乗り込む。先頭はマーサさんを入れた警備隊員と”永遠の旅”、その後ろに俺たちと”獣の魂”が同じ馬車に乗った。警備隊員が御者を務めてくれるのだが、一人だけ別れるのもどうかとエーガが言ったため、彼のパーティーメンバーが御者をしてくれることになった。俺も覚えた方がいいのかと悩んだものの、馬に乗る機会はこういった合同依頼くらいしかないため覚えた所でってのはある。依頼を終えた時にでも考えることにして今はダンジョンに集中しよう。


 警備隊の仕事を引き受けた時に一度だけニンヘルダンジョンに訪れている。毎日警備隊員が見回っているので、道中魔物の巣などはなく、さらに何故か魔物は余り国境には寄り付かない習性がある。


 帝国側はこことは別に存在する国境の門からやってくる。王国と帝国は接している国境線が多いため国を行き来する門は2ヶ所存在する。帝国の帝都まで行く際は自分たちがいる方が近いし、王都から来る分もこちらが近い。またニンヘルダンジョンは国境を跨いで出現したものの、ダンジョンの入口は王国側にできている。そのため帝国側は一度国境を越えて王国に来る必要がある。そのため何かあった際にすぐに駆けつけることが出来ないため、ダンジョンの見張りをしている騎士は帝国の方が多い。

 今の所いざこざは起きていないみたいで、まぁ当然ながらそんな事が起きれば戦争になりかねないので喧嘩っ早い騎士を送り込んではこないだろう。問題は攻略に選ばれた騎士たちだ。どんな輩が来るのか、どうやって荒野を攻略するつもりなのか、不安とワクワク感が混ざり合っている。




 道中は軽食を取ったり雑談したりとこれまでの馬車での移動となんら変わらなかった。魔物に襲われることや帝国の妨害を受けるなどのことも当然なかった。

 遠目ながらも目的地が見えてきて先に帝国側の人たちが来ているのか、一度来た時にはなかったテントや馬車などが見受けられる。


「どうやら向こうは先に着いているみたいだな」

「妾たちよりも移動時間が長い故、あっちも余裕を持って来たのだろう」

「どっちも真面目だね!」


 俺たちの知らない所で色々と取り決めがされたからな。何度も言うがダンジョン攻略が開始される時間に遅れると攻略資格がなくなり、それは国の利益を著しく損なうことにつながる。早く到着していることから帝国も同じ考えだろうことは明白だ。向こうは王国を手に入れることも含まれてはいると思うけど。ノワールが真面目だと言うが、実際はそういったことがあるからそう見えるだけだ。


 前の馬車が止まり、俺たちもそれに倣う。馬車から降りると帝国側の品定めする様なねっとりとした視線を感じ、ゴルさんの言われた通り鎧を纏った騎士しか見受けられない。マーサさんたち警備隊の面々は一言二言話しただけで舌戦みたいなものは行われなかった。てっきり、「我々帝国騎士がダンジョンを制覇させてもらいます」とか「そちらは騎士ではなく冒険者風情とはなめられたものだ」なんてことを向こうが言ってくると思っていた。案外帝国騎士は物語にでも出てくる騎士道精神をお持ちなのだろうか?―――この時の俺は彼らに良い印象を持っていたが、それが間違いだとすぐ思い知らされる。


「それでは私たちも仮設テントの設営を致しましょう。手分けして行えばすぐに終わるでしょう。終わり次第各自12時までは自由にしてもらってかまいませんが、ここからは離れないでください」


 マーサさんに言われそれぞれが行動に移す。仮設テントを用意してもらっていたけど、俺たち冒険者は各自持参しているテントを使うみたいだ。俺はアイテムボックスを持っているからテントの持ち運びは簡単だけど、普通の冒険者はそうではない。しかしここにいるのは普通という言葉でおさまる人たちではなく、アイテムバックを持っていてテントなどの夜営道具も入っているみたいだ。これにはマーサさんも驚き、朝早く起きて馬車に積み込んだのに、と軽く落ち込んでいる。事前に言っておけばよかったと今更ながらに思った。

 結局各パーティー単位でテントがあるため手分けではなく、パーティー事の設営をすることになった。警備隊の人たちはここで見張りなどの仕事があるため設営を行っている。特に時間をかけることなく4つのテントが円形に出来上がった。エーガとキースたちはてっきり男女別々だと思っていたけど、アイテムバックには限りがあるため1つのテントになったそうだ。マーサさんは慣れているらしく特に気にしていないそうだ。

 設営を終え自由時間となったので、軽く体を温めるためにサフィとノワールを連れたって外に出た。すると帝国騎士がこちらへとやってきて―――


「貴様のメイドは我が貰い受ける!」


 そう言い放った。

よければ評価・感想お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ