44.驚愕する二人と…
何とか今日中に投稿できました。
話を聞きたいと言われて、俺に否はないためソファに座りなおす。幸いサフィとノワールも難色を示すことはなかった。まぁ間違いなく二人のことを聞かれるのだし、もう何回も聞かれているので慣れてきているはずだ。不満があるとすれば、マーサさんの美味しい紅茶が飲めない点だ。
「察してるとは思うがまずはそっちの服装だ。エミリーが選抜したって言うから何も調べなかったが、ふざけてる訳ではないよな?」
あくまで尋ねている風を装っているけど、声音からは威圧している様に感じられる。
「確かに見た目はメイド服ですけど、ただのメイド服ではありません。防御面は問題ないです」
「ほぉー、それならいいがメイド服にする必要はあったのか?」
「自分に言われても…」
メイド服を選んだのは神様だ。主に仕えるならメイド服しかないって理由だったか?せめて普通の服も用意して欲しかったよ。
「俺からの忠告としてはそんな恰好してるとなめられるぞ?―――その表情を見る感じ既に手遅れだったか。それで本題だがエミリー曰く二人は凄いわよって言ってたがどういう意味だ?」
「それよりもエミリーさんとお知り合い何ですか?」
「まぁそんな感じだな。王都のギルドマスターともなれば王城で開催される会議にも参加するから、そこで何度か会っていつの間にか話すようになったわけだ。何とも掴みどころのない人物だが、腕は確かだからこっちも色々と忙しかったから冒険者の選別は全て任せていたら、お前さんらが来たって訳だ」
「…何かすいません。それで二人についてでしたね。口で説明するよりも見てもらった方が早いので、お見せしますね」
「お、何だ?」
ソファに座ったままだと壊しかねないので、二人に声をかけてから立ち上りスペースの空いている入口付近へと移動する。一人怪訝そうな顔をしているけど、この後嫌でも分かるだろう。カールさんはいつでも剣を抜ける体勢でいるけど、抜くようなことをするつもりはない。
「先に言っておきますけど、危険はないので攻撃しないでくださいね」
「…よく分からんが分かった。カールも分かったな」
「はっ!」
それは了承したってことでいいんだよな。室内ってこともあるからゴルさんは剣などの武器を身に着けていないけど、未だ机の側で控えているカールさんは剣を佩いている。ないとは思うけど何かあれば俺が必ず止める。
世間一般では黒狼と蒼龍ではどっちが危険、というか見たら驚くのだろう。……どうせ二人の姿を見るのだからどちらでもいいか。
「じゃあまずはサフィからな」
「うむ、刮目するのじゃ」
一歩前にでると―――室内を照らし出し、宙に浮く存在が現われる。言わずもがな蒼龍のサフィだ。俺の胸くらいの高さで浮遊してるそれを見て驚きの余り立ち上がり、その瞳は決してサフィから離れない、いや離れられないというべきか。ゴルさんの表情から何が言いたいのか手に取るようにわかってしまう。一度落ち着くために紅茶の飲もうとするが、残念ながらその中身は既に飲み干していて空のはずだ。
「……コホン、こいつは凄いな。人が龍に、それとも龍が人に化けているのか?いや、それよりも龍をテイムしているっ!?」
「サフィは元々龍ですよ。擬人化ってスキルで人の姿になっています」
「始めて聞くスキルだな…。にしても凄い。小さいけど溢れ出るオーラとでもいえばいいのか、間違いなく龍だな」
『…小さいは余計ぞ』
やはり擬人化ってスキルは相当珍しいのか、それとも彼女たちが初めて手にしたスキルって可能性も考えられる。わざわざスキルを使ってまで悪態をつくあたり結構気にしているのだろうか。
カールさんは剣に手をかけてはいるものの、辛うじて抜いてはいない。
「…ひょっとしてそっちにいる奴も龍なのか?」
「見てからのお楽しみです」
「ふふふ、何だと思う?」
「マーサを案内にやったのは間違いだったな…。カールは紅茶を入れられるか?…まだ驚いたままか、仕方ないドンとこい!」
半ばヤケクソ気味、というより投げやりになっている感じとでも言えば分かるだろうか。助長させるようにしてノワールがからかいだす。
サフィを腕で抱え込み、今度はノワールが前に出ると――――同じ様な光景が繰り広げられた。輝く光とは真逆の黒。サフィとは違いノワールは成人男性を乗せられる程には大きいため、座っている彼には見上げる形となる。そのため先程よりも彼女から自然と発せられる圧が大きいはずだ。カールさんに至っては顎が外れるんじゃないかと心配になるくらい口が開いている。
いつもの様に敵意がないことを示すように、黒狼の頭を撫でる。サフィを抱えているためうまくはできないけど、効果はあったのか先にゴルさんが復活した。
「これまた凄いとしか言いようがないな…。確か黒狼だったか?いやはやこの目で見る機会があるとは――――」
「やっぱり珍しいですか?」
「馬鹿野郎っ!!珍しいに決まってるだろうが!そもそも黒狼と対峙して生きていられる奴がほとんどいないから、黒狼がどこにいるかさえ分かっちゃいない。つまり一目見たいからと言って見れるもんでもないし、まして文字通り一目見て終わりだ」
となると俺がノワールと出会えたのは奇跡的、はたまた運命的な出会いだったわけだ。そう思うと妙にロマンチックだな。同じ様に感じたのかぐりぐりと頭を擦りつけてくる。
「大層懐いているんだな。それでお前さんはテイマーってことでいいんだよな?」
「むしろテイマー以外何があるのかって思いますよ」
「…その通りだな。どうやらまだ頭の整理が追い付いていないらしい。俺よりダメな奴もいるみたいだが」
視線を動かした方を見れば、まるで彫像の如く動かないカールさんがいた。まだ再起不能らしく、その内元に戻るだろうから今はそっとしておこう。ゴルさんも同じなのか、またもカップに手を伸ばし渇いた舌を潤そうとしているが、中身は空のまんまだ。
本格的にノワールが甘えだしたのでサフィを彼女の背中に乗せて存分に撫でてあげる。最近は移動やら、夜営があったりと中々こういった機会がなかったせいだろう。さっきまで驚愕な眼差しをしていたのに、今では暖かい目で見てくる。そのまま5分くらい撫でていると、扉の開く音がした。ノックもなく入ってきたため誰だろうと振り向くと、案内のために出ていったマーサさんが戻ってきた様だ。
しかし振り向いたのは俺だけでなく、二人も同様に振り向いてしまった。背中の位置からではうまく見えないため頭の位置らへんに移動した蒼龍のサフィと、黒狼のままのノワール。
「案内を終え戻って――――きゃああぁぁぁぁぁああああ!?」
最初はゴルさんに報告するため目線は正面だったが、視界に違和感でもあったのか、その正体を見た途端絶叫しパタンと倒れるマーサさん。俺とゴルさんはお互いにしまったと思ったけど、時既に遅し。彼女には悪いことをしてしまったが、彼女の悲鳴のおかげでカールさんは正気へと戻った。