43.帝国の狙い
予定していた閑話はなしにしました。
今回は説明が多めになり、少し短いです。
目の前にいる人物―――国境警備隊の隊長を務めているゴルさんは帝国の狙いに気づいているみたいだ。
「俺の方には様々な情報が流れ込んできている。まずお前さん方が最初に出くわしたゴブリンについては、結論から言えば封魔石の失敗作だろう。本来は衝撃を与えることによって封印が解ける仕様だが、魔石の大きさに見合わない魔物を封じ込めると意図せず封印が解けるそうだ。封魔石についてはよく分かっていない部分もあるから、断定的な事は言えないが大きくは間違ってないはずだ。つまりたまたま封印が解けたタイミングで居合わせたってことになる。周辺に被害を与えお前さん方の移動に制限をかけるか、あわよくば負傷される狙いがあったのだろう。ナトヘンの冒険者ギルドからは周辺に異常はなかったとの連絡も受けているから間違ってはいないだろう」
つまりはゴブリンの集団を差し向けて足止めを謀ろうとしたってことか。大方キースの読み通りだな。そして運の悪いことにちょうど封印が解けた時に俺たちが通りかかったわけか。すぐに討伐できたから被害がでなくて良かったと考えるべきだな。
「次に帝国騎士らしき集団の街道の不当占拠は単純な嫌がらせだろう。何も証拠がなければいくらでも言い逃れができるけど、予想通りあれは帝国騎士で間違いない。王国騎士なら国が把握しているからな」
実際にこの目で確認したし、獣人を見下す暴言も吐いていたから帝国人なのは分かりきっていた。しかし嫌がらせで騎士を派遣するとは余程暇なのだろうかと心配してしまう。
「今度は盗賊だったか?これはあくまで予想だが金で雇われただけのチンピラだろうよ。報告を聞いた限り上等な装備をしていたらしいが多分帝国騎士のお下がりだろう。封魔石からワイバーンが解き放たれた事はビックリしたが、お前さんらにとっては余裕だったろう。恐らくワイバーンでお前さん方の力量でも確かめようとしたのか、懲りずに足止めを謀ろうとしたのか、どの道金を無駄にしただけだったな。ハッハッハッ」
愉快そうに笑っているけど当事者にとっては笑えない。それにしても色々と手の込んだことをしてくるけど正々堂々と立ち向かってこればいいものを。
「それでここからが本題だが今回帝国側はダンジョン攻略に帝国騎士15名を派遣してきた。どの程度の腕前を持っている奴らかまでは分からないが、最低でも冒険者ランクでいうB以上はあるはずだ。何故わざわざ騎士を派遣してきたかってことだが、制覇後に王国に攻め込むためだろうと考えている」
要するに騎士が制覇したから国境に次々と騎士を集めるってことか。冒険者が制覇してしまうと騎士を派遣する口実がなくなる。
「冒険者でも良かったんだろうが、必ずしも国の言う事を聞くとは限らないから全員騎士にしたんだろう。制覇後にタドリングにダンジョンのためだとか、適当な理由をつけて騎士を常駐させる手筈だろうよ。諜報機関からの情報によれば帝都内部では動きが活発になっているみたいだ。制覇どころか攻略も始めていないのに、全く気が早い連中だよ」
今の所ドロップする内容が分かっていないのだからゼロとは限らないけど、ダンジョンが目当てではなかったのか。もしダンジョン制覇に失敗したら本格的に帝国との戦争になってしまうのか?
「長々と話し込んでしまったな。悪いがマーサ、おかわりを準備してやってくれ」
畏まりました、と一礼して奥の給湯室で紅茶の準備をしに行った。お世辞ではなく素直に美味しい紅茶だったのでもう一度飲めるのは嬉しい。彼女が戻るまでの数分間は誰一人として口を開かなかった。まだ隊長の話が終わっていないのと、気軽に話せる雰囲気ではなかったからだ。
秘書だと説明されたけど、彼女の給仕姿は様になっていて思わず見惚れてしまう程だ。一人で全員分の給仕は終え、同じ場所で佇むと場が動き出す。
「あーどこまで話したか…?まぁお前さん方に求めるのは帝国よりも早く制覇してくれってことだな。そうすりゃあ俺たちの負担が減るってもんだ。ハッハッハッ」
いやいやぶっちゃけすぎだろ!隣にいるマーサさんからジト目で見られているのを気づいていないのだろうか。
「我々も依頼として引き受けている以上全力で事に当たります」
「そいつは頼もしい。攻略開始期日まではあと5日ある。それまではこの砦内で過ごしてくれ。外で体を動かす分には問題ないが、くれぐれも暇だからと言ってどこかに行ったりはしないように。これはお願いでなく命令だ」
「承知しました。期日までは大人しくしています」
「悪いな、国境にいるとはいえどこから帝国の手が伸びてくるとも限らないからな。マーサ、部屋の案内をしてやってくれ」
「畏まりました。それではご案内を致しますので着いてきてください」
彼女に遅れないようにとみな同時に席を立つ。
「おっとそう言えば”蒼黒の絆”だけはここに残ってくれ。王都のギルドマスターを疑う訳ではないが、是非とも君達の実力をこの目で確かめたくてな」
「……分かりました」
立ちかけた体をソファへと預ける。何やら個人的に用があるらしいけど、実績のない俺たちが重要なダンジョン攻略に加わるのだから仕方ない。さて、エミリーさんが俺たちのことをどこまで話したのだろうか。
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