4.王都への旅路
買い出しという名のデートを終えた俺たちは早朝にも関わらず街の外に出ていた。結局あれからは邪魔されることなく必要な物を買い揃えた。その日の宿屋でも一悶着起きたがそれは割愛させてもらうが一言だけ言うならば、俺の中にある宇宙的なものが覚醒しそうになった。
ちなみに街を出る前に二人は宿屋の従魔スペースの所で一旦魔物に戻ってもらった。人の姿だと身分証を持っていないため、出るときに面倒くさいのでそうしてもらった。
―閑話休題―
王都までは基本的に馬車だが徒歩でも行けないことはないが相当時間がかかる。紅の進撃はそれなりに有名で、ダンジョンに潜り何回かは制覇をしてある程度の蓄えがあったので馬車を購入するか、乗り合い馬車を乗り継ぎながら行くか、はたまた徒歩で行くか考えていた。だがそれに待ったをかけたのがノワールだった。なんでも「私に任せて!」の一点張りで要領を得ないまま今に至る。 全く教えてくれないし、何度も聞くと「うざい」と言われ美少女からの罵りは精神的に堪えた…。
『してノワールよ、どうするのじゃ?』
『ふふん!私が乗せてあげるよ!!』
「何回か乗ったことはあるが、ふらふらで危なかったろ。それにサフィもずっと飛び続けるのは大変じゃないか?」
『ご主人様が【覚醒】して私たちも成長したの。長距離でも問題なく走れるし、サフィちゃんを乗せても大丈夫!』
「マジで!?すげぇーな!それならノワールにお願いするよ。サフィはドラゴンか人型どうする?擬人化を人に見られるのはまずいから、もし人の姿で乗るなら人気のない所までは我慢してくれ」
『そうじゃな……妾もノワールに乗せてもらうぞ』
まさかノワールに乗って行くとは――。狼の魔物だからと初めて乗ったときは、本当に乗るだけで動くのは辛そうだった。
それにしても【覚醒】の恩恵が多面的に発揮されていて特に意思疎通のスキルが非常に有能だ。これまでは魔物の状態で会話など無理だったが、擬人化している時同様に会話ができる。とは言っても二人とのやりとりは頭の中なので、テイマー職を知らない人からすれば魔物に話しかける変なやつと誤解されそうだ。
うん?前に乗った時は、言っちゃ悪いが毛並みはゴワゴワしていてお尻が痛かったけど、極上のクッションにでも座っているかの様な柔らかさだ。
「撫でた時にも感じたが毛並みの質感良くなったな?」
『本当!?ご主人様に撫でられるの好きだから、いっぱい撫ででほしいなぁ』
なにこの子!すごく可愛いんだけど!今夜にでもゆっくり撫でさせてもらおう。最初はやっぱり顎の下あたりか?待てよ、狼は犬の様に構うのを嫌がると聞いたことがある。ならば頭からいくのがベストか?いや尻尾も捨てがたい。あぁー夜が楽しみすぎる……決して変な意味ではないからな。今宵の一時を妄想していると、街道から外れた人気のない場所へと着いた。
「魔物よりも人の姿の方が主の温もりが感じられてよいな。ノワールの手触りは心地良いものだな」
「あのーサフィさん、近すぎませんか?」
「くっつかないと妾が落ちてしまうからの」
絶対わざとだろ!?吐息が耳にかかってゾクゾクするし、背中には柔らかいものが当たってる。【覚醒】したのにも関わらず神はまだ俺に試練を与えるのか……今は耐えろー耐えるんだ。
『人の上でイチャコラしないでくれる?』
「あ、いや…」
「妾はドラゴンぞ、撫でてもツルツルなだけじゃ。こういう時くらいしか主と戯れられんのじゃ」
『うぅー』
「まぁまぁ、喧嘩しないの。ノワールをからかってやるなよ。もしもの時に備えてもう少し離れてくれると助かる」
「そうか…はしゃぎすぎたみたいじゃ。すまない」
『ううん。私も言い過ぎたの、ごめんなさい』
「仲直りしたことだし王都へ向かうとするか。疲れたら休憩を入れるから無理だけはするなよ。サフィは俺と一緒に周囲の警戒を頼む」
「承知した」
『りょうかい!』
何とか丸く収まり気を取り直して王都へと進む。予定では一週間程かかる計算だったが思いの外ノワールのスピードが速い。
何回か休憩を挟んだり昼食を取ったりと順調に進みだんだんと暗くなってきたので、夜営の準備を始めることにした。
「暗くなる前に夜営場所を探そう」
「ならばあの辺りはどうじゃ?」
「そうだな…そこにしようか」
『まかせて』
近くにいい場所があって良かった。アイテムボックスから夜営に必要なものを取り出し、手分けして準備を行った。
さすがに狼のままだと準備ができないので、擬人化を使って手伝ってくれた。その後夕食をとり濡れたタオルで汚れを落とした。
「夜は俺とサフィで交代しながら見張りをするから、ノワールはゆっくり休んでくれ。サフィは先に寝るか?」
「全く疲れていないから見張りは妾一人で十分じゃ。主はノワールと休んでおれ」
「いいのか?俺としては助かるが…」
「なに妾はドラゴンぞ?全く問題ない」
「分かったならお願いするよ。何かあったら遠慮なく起こしてくれ」
「うむ」
ノワールの上に乗っていただけとは言え夜になれば眠たくもなる。サフィに不寝番を任せお言葉に甘えて休ませてもらう。早めに寝て早く起きれば、多少はサフィの負担が減るだろうと考え寝る支度を前倒して行う。
「じゃあ俺たちはテントの中で休ませてもらうよ。すまないが見張りをお願いする」
「なに頼れる従魔はノワールだけでないのじゃ。もっと妾も頼るのじゃ」
「俺にはもったいないくらいに頼もしい従魔たちだよ」
「サフィちゃんありがとう!」
「よいよい、ゆっくり休むのだぞ」
夜営なので同じ場所で寝ることになるが宿屋でもそうだったので多少は慣れてきてる…はずだ。それにしてもテントの中にいても夜はけっこう冷えるな…。
「寒いの?」
「少し寒いが毛布にくるまれば大丈夫だ」
「なら私が暖めてあげる!」
いやいや、それはまずいって!外にサフィがいるんだし、明日に備えて休まないと…。
「ん?顔が赤いけど大丈夫?…ひょとして変なこと考えたの?もうご主人様のエッチ……でも残念、正解はこうでした!」
食いしん坊から小悪魔キャラに変身だと!?衝撃的事実に困惑しているとノワールが光だした。
あぁーそういうことね…それなら暖まることができるな。
『お腹の辺りで寝れば寒くないでしょ?…どう気持ちいい?』
「あぁ気持ちいいけど寝にくくないか?」
『大丈夫だよ。ご主人様おやすみなさい』
「今日はお疲れ様、明日もよろしく頼むよ。おやすみノワール」
極上の毛皮に頭をのせ尻尾が布団がわりとなって体を包んでくれる。すごく気持ちいいなこれならすぐに眠れそうだ。
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