38.エーガの実力
本日2話目です!
「ギャギャーッ!」
まるでゴブリンの様な鳴き声―実際には咆哮なのだろうが―をあげ空から襲いかかってくる。剣を構えて迎撃態勢をとるが―――
「ここはわいがやる!お前らにリーダーの凄さをみせてやるっ!!」
リーダーとしての威厳を見せつけるためエーガが正面に立ちはだかった。
地面を蹴って跳躍し、みるみるワイバーンとの距離を詰めたと思えば、ワイバーンの頭を殴りつけた。てっきり腰に佩いている剣で斬りつけると思っていたんだけど……もしかしてキースに対抗したのか?
「いってぇーなぁ!えらい硬い皮膚やな」
そりゃああれでもドラゴンの一種なんだから硬いに決まっているだろうに。
「リーダー、飛んで逃げられると厄介だから早めに倒すし」
「言われなくても分かってる!」
イリーカたちも片付いたのか後始末をしている人以外を除きエーガの戦いを観戦している。
地面に叩きつけられる格好になったワイバーンは直ぐ様起き上がり汚い咆哮をあげる。エーガは落ち着いて着地しゆっくりと近づき、今度は二本佩いている剣を抜く。その見た目通りエーガの職業は二刀流だ。しかもただの二刀流ではなく魔剣使いでもある。二本の魔剣はどちらも長剣ではあるが、左は炎の魔剣で右は氷の魔剣と相反する属性の魔剣を握っている。魔剣とは魔法効果を宿した剣のことでダンジョンで極稀に宝箱から手に入るか、凄腕の鍛冶職人によって造られる珍しい武器だ。それに魔剣を扱うためには魔力を流す必要があるため誰もが扱える訳ではない。
ワイバーンに肉薄すると再び跳躍し片翼めがけで一閃。恐ろしい速さで振るわれたそれは、翼を根元から断ち切り焦げ臭さが立ち込める。
「ギャーーッ!?」
あまりの痛さかそれとも速さに驚いたのか、もしくは両方かは分からないが咆哮とは違う絶叫が響き渡る。片翼を失った所為でうまくバランスが取れず千鳥足の様になっている。
俺も剣を使っている身ではあるけどあそこまで綺麗には斬れない。切り口だけでなく硬い皮膚を物ともしないで斬れる腕力にも驚いた。多少は魔剣の性能ではあると思うが高い剣技が窺える。
「これで空に逃げられることはないなっ」
「翼を斬るくらいならさっさと首を落とせばいいし」
「馬鹿野郎っ!!それじゃあわいの出番がすぐ終わるだろうが!」
「……だからリーダーは二人からもリーダーとして扱われないし」
いつもこんな風なのかと思わなくもないが、油断することなく対峙している。
イリーカの意見を鑑みたのか、ワイバーンの噛みつきや爪での攻撃を剣で受け流し首元へと魔剣が迫る。無理矢理音をつけるならばスパンッとでも表現すればいいのだろうか、実際は音もなく切断されている。切り口から地しぶきが飛び出し地面へと首が落ちてゆっくりと体も後を追う。
「これで少しは見直したかぁ?」
「うーん、これくらいだし」
「全く無いじゃん!?」
見事の一言に尽きる。魔剣の性能も然ることながら一番はエーガの技量だろう。力の入れ具合、剣筋などどれをとっても超一流にしか見えない。努力だけでは追いつけないと感じさせる実力を目の当たりにして心が折れる――――ことなどなく、明確な目標ができてよりいっそう努力しようと決意した。
「それでは先を急ぎましょうか」
「そうやってわいの役目をさらっと奪っていくなぁ…」
「では貴方に後をお願いします」
「………クレトどうしたらいい?」
「…埋葬とエーガが倒したワイバーンをどうすらかですかね。さすがにこのまま放置はできません。特に血は何とかしないと」
「始めからキースさんがしていればいいし」
リーダーを任されてすぐ俺に聞くのはどうかと思うけど、追い討ちをかけてやるな。
手分けして埋葬をして街道に被害がでないようにした。盗賊の数が多かったのとワイバーンの処理にてこずった。ワイバーンの素材を棄てるのはもったいないとなり、解体のできるメンバーが手分けして行ったが、巨体のため必然的に時間がかかった。幸いギルド職員の一人が解体に精通していたのが救いだった。
その後の移動は順調に行き、夜営も問題は起きることなく朝を迎え昼過ぎにはタドリングへと到着した。
「事前に決めていた通りにギルドへと向かい国境まで護衛してくれる冒険者を探します。ギルド職員の方々とはここでお別れとなりますが国境でも会うことになるので、その際はよろしくお願いします。御者の方々もありがとうございました。トラブルが多かった所為で大変な移動となりましたので、ワイバーンの買取金額の一部を依頼料に上乗せしておきます」
「こちらこそありがとうございます」
「もし護衛してくれる冒険者が見つかればまた国境までよろしくお願いします」
結局キースが取り仕切っていて、エーガは諦めたようだ。これからの予定は決まっており、ギルドへ顔を出しその後は各パーティーで自由行動となっている。帝国に狙われている可能性が高いけどキース曰くこの街は国境が近いこともあり、常に城門は厳重警戒を行っているらしい。だからと言って慢心はよくないので単独行動は禁止として観光をする。この街で一泊し早朝に最終目的地であるニンヘルダンジョンへと出発するため、それまでに護衛役が見つかればいいのだが。
事前に寄ることを国が伝えてくれていたので、貴族が使う門を使って並ぶことなく街へと入れた。
「ルミアとは一旦別れることになるけど、何かあったらスキルを使って連絡してくれ」
「分かりました。サフィさんとノワールさんにはクレト君をお願いしますね。私が居ないからって抜け駆けはダメですからね」
「案ずるな。ダンジョン制覇が終わるまで余計なことはしないぞ」
「私は気をつけるね!」
サフィはダンジョン制覇に意欲があり、ノワールは普段と変わらないように感じるがサフィ同様やる気はありそうだ。
「ルミアも慣れない環境で大変だけど頑張ってくれな。俺も頑張ってくるからな」
「お互い頑張りましょう―――んっ!?」
馬車を降りる前にルミアとキスをする。次いつできる分からないためいつもより長めにした。二人から無言の圧が放たれるが、気にせずルミアに抱きつく。
「いつになく情熱的で嬉しいです」
「一言余計だけどルミアと離れるのは寂しいからな」
「私も寂しいですよ。いい報告を楽しみにしています」
「あぁ期待していてくれ」
名残惜しいがここでルミアと別れ、俺たち冒険者は手配されている宿屋へと向かう。
国境が近いことが影響しているのか王都に負けない程賑わっており、掘り出し物探しやお店巡りをしたいものだ。ここに来るまでにはそこまで食料は減らなかったが臨時収入が入ったので何か買っておくのもいいだろう。ルミアへのお土産も見ておきたい。
「さてと部屋が決まったら久しぶりにぶらぶらしようか」
「誤魔化しても先程のことは忘れんぞ」
「うんうん。ちょっといいなぁと思った」
「……夜にでもな」
やっぱり二人の前でしたのは間違いだったか。まぁ気持ちを切り替えて初めてきた街を巡ろう。
誤字報告ありがとうございます!
いやー二刀流カッコいいと思いませんか!?私も黒い服を着た剣士には憧れたものです。そこへ魔剣を加えカッコ良さをモリモリにした次第です。決して厨二心が掻き立てられた訳ではないですよ?