37.盗賊の襲撃とワイバーン
昨夜は襲撃されることなく次なる街―――タドリングを目指している。馬車でなら明日にでも見えてくるはずだけど、もう一泊夜営は免れられない。タドリングへ着いたらルミアたちギルド職員と御者は一旦別れることになっている。彼女たちはタドリングのギルドで俺たちの依頼が終わるまで臨時職員として働くため、その説明をうけるために残り数日おきに国境へと出向く手筈になっている。
本当は馬車で国境までお願いしたい所なのだが、ずっと国境に馬の世話のために居てもらうことは無理で、ならば行きだけでも頼めないかと思ったけど、帰りは誰も護衛をする人がいない。じゃあ護衛を頼めばいいじゃんと思うが、運良く冒険者が見つかるとは限らない。すぐにでも見つかれば馬車で行けるけど、タドリングへ着いてから考えればいい話ではある。
昼下がりの街道を進んでいると突然の馬車が急停止し、うとうとしていた俺は床に叩きつけられた。何事かと思いすぐに外を覗くと、どうやらまたも盗賊と出くわしたみたいだ。さっきから全く他の馬車や人とすれ違うことがなかったからおかしいとは思っていたけど、まさかこの辺は盗賊の溜まり場なのだろうか。
「おい兄ちゃんたちよー、ここを通りたくば通行料を払ってもらおうか」
小汚ない服装に無精髭が生えた、如何にも盗賊って雰囲気をした大柄な男が行く手を阻む。さらに道を塞ぐように半円状に手下共が散らばっている。
「貴方達は誰に唆されたのですか?素直に吐けば痛い目を合わずに済みますよ」
「随分と生意気なことを言うじゃねぇか。あぁん俺たちはここいらを縄張りにしているだけで、どこの国にも関わっちゃいねぇ」
「へぇーなるほど。では力ずくで聞き出すとしましょう。私はリーダーに用がありますので雑魚はお任せしてもよろしいですか?」
「わいがリーダーなのに…まぁ任されたで」
何やら盗賊のリーダーは国との関係を仄めかしていたが、キースも気づいているようで直々に相手するみたいだ。
盗賊たちはざっと見た感じ30~40人くらいいる。さらによくよく見たらぼろい恰好をしているにも関わらず武器の類いは、それに似合わずしっかりとした物を持っている。盗賊だから商人や冒険者から盗んだって線も考えられるけど、全員が装備しているのは不自然でしかない。訳ありの盗賊か、はたまた裏で手引きされたのか―――捕らえれば分かるだろう。
「左側は受け持つから、エーガは右側をよろしくな」
「クレトまで俺に指示を出すとはなぁ。わいってリーダーに向いてないんやろか?」
「今頃気づいたし」
「わいはパーティーリーダーをしているのにか!?」
こんな状況なのに余裕そうだな。まぁSランクパーティーが盗賊に負けるとは思わないから実際余裕だろう。仮令数の利で劣勢になっていても、圧倒的な個の力には勝てないこともある。例えばドラゴンがそれにあたる。騎士団のような実力者を多く集めれば勝てるだろうが、今回の様に寄せ集めが揃った所でこちらの優位は崩れないってことだ。
それを証明するように次々と盗賊共が殺られていく。しかし追い詰められた鼠は時にして予想外の行動をとることがあり―――
「ちっこうなりゃ奥の手だっ!」
「悪あがきは見苦しいですよ」
「はっこれを見てもそう言い切れるか?」
粗方こちらは倒し終わってキースの方を見れば拳程の魔石を取り出した。普通魔石は輝いていないはずだが、彼の持っているそれは黒と言うよりも禍々しい輝きを放っている。
「…貴方はそれの危険性をご存知ですか?」
「何を言うかと思えばくだらないことを、お前らにとっては危険かもしれんがこっちにはそうでもないっ!」
そう言って地面に投げつけると幾何学模様の魔法陣が描かれた。そしてまるで地面から這い出てくる様にして魔物―――ワイバーンが現われた。翼竜は竜種の中でも下の方に分類されるがドランゴンとして扱われる。サフィみたいな小さいドラゴンではなく何倍、いや何十倍もの大きさを誇り最低でもBランクはある魔物を、どうやって呼び寄せたのだろうか。
「あれは封魔石と呼ばれる特殊な魔石です。その名の通り魔石に魔物を封じ込めるもので、高い危険性があり王国では使用及び所持すらも禁止されています。封じるにはある特定の魔石でしか行えず、魔物を弱らせる必要があるのですがどう考えても彼らには不可能です。つまりは誰かが渡したことになるのですが、はぁまたもこうなりますか」
キースが説明をしてくれたが、簡単に言えば気軽に持てる代物ではなく別の意味でも持てる物ではないのか。どういった原理かは不明だけど早急に倒さないと危険だ。
ワイバーンは暴走しているのか、それとも命令された行動なのかは不明だが召喚者である盗賊のリーダーを踏み付けた。強靭な脚で踏み潰されれば一溜りもなく易々と命を奪い取るも、何度も何度も踏み付けていて恨みでも晴らしているかの様に見えた。
「証言者がいなくなったのは残念ですがこれで帝国が関わっている決定的な証拠になりましたね」
何処までも冷徹なキースは納得した表情をしている。
「何でそう言い切れるんだ?」
「おやクレトは知りませんか?封魔石の元となる魔石はダンジョン制覇の証である魔石です。王国では厳重に管理しているため平民は一生に一度見れるかどうかで、永久的に魔道具を動かせる貴重な代物をこの様に使うことは決して有り得ません。ですが帝国では魔石を砕き様々な魔道具に運用出来ないかと実験が行われたそうですか、結果的には失敗に終わりました。しかしどうにか使えないかと研究をしていると噂で耳にしましたが、どうやら本当でしたね」
「そもそも封魔石自体聞いたことがないんだけど」
「その昔、人類では勝つことのできない魔物を倒すために生み出されたと言われています。封印するにはエネルギーが必要なのか、先程述べた様にダンジョン制覇の証である魔石でしか行えません。強い衝撃を与えると封印している魔物が復活するため、誰にも触れられない場所に今なお眠っているとされていますが、定かではありません」
キースは博識で分かりやすい説明をありがとう。それにしても帝国は余計な物を開発したもんだな。
ワイバーンは満足したのか咆哮をあげこちらへと狙いを定めてきた。
もう後数話で国境に辿り着く予定です。ダンジョンでは彼らとは別行動になる予定なので、ここで活躍をしてもらってます。