35.キースの実力
本日2話目です。
ダンジョンに着くまではクレトの出番が少ないですが、ダンジョンではきっと活躍してくれるでしょう!
少し残酷な描写がありますので苦手な方はご注意下さい。
隊列を組み換え、ギルド職員を真ん中に集め護衛のために冒険者も数人おく。御者を守るために御者席にも座る。元々森で暮らしていたノワールは先頭の馬車に乗り、俺とサフィは後方を担当することとなった。どうしても街道と比べると道は悪いので、馬に負担がかかり過ぎないようにゆっくり目に移動している。
俺たちが通っている森は広大でここを抜ければナトヘンの街が遠目に見えてくるとキースが教えてくれた。何でも”永遠の旅”はこの森に来たことがあるそうでカリンさんとコリンさんが以前に大まかなマッピングをした地図を頼りに進んでいる。既に朝日は昇っているはずなのに鬱蒼と茂っている木の所為で朝陽が届いてこない。木の本数は少ないのだけど1本1本がとても大きいためより不気味な印象を受ける。
『そっちはうまくやっているか?』
『カリンちゃんとコリンちゃんと話してるけど、森の景色は見飽きてきた』
森暮らしをしていた奴が飽きたとは……人としての生活が染みついたってことなのか。まぁそれは置いといて他の人とも仲良くやれていて良かった。心配はなさそうなので次はルミアに連絡を取る。
『ルミアは退屈じゃないか?』
『退屈ではありますが馬車での移動はこんな感じではないですか?私以外のギルド職員は男性なので気を利かせてくれたのか、こちらには女性の冒険者がいますので大丈夫です』
『想定外のことばかり起きてルミアとは中々一緒にはいられず申し訳ないとは思っているが、そっちも冒険者とうまくやれているようで良かったよ』
『仕方のないことです。クレト君は私が一緒にいられないからといって我儘を言う人だと思っているのですか?こうしてお話できるだけで十分ですよ』
『そんな風には思ってないけど…』
『ふふっ少しからかっただけで―――』
『どうしたルミア!?』
『―――何でもありませんけどまた後で連絡します』
急にどうしたんだ?何か起きたならこっちにも伝わるはずだけど。声音からは特に危険が迫っている様には感じ取れなかったし、護衛の冒険者がいるから大丈夫だとは思うけど―――
『先程はごめんなさい。オリガさんから話かけられて、同時に二人と話すのは無理だったので…。彼女たちにスキルのことを教えても大丈夫ですか?このままだと私はおかしな人扱いされそうで……』
言われてみれば他人からは会話しているのは分からないので、笑ったりなど表情が変化すればこの人ヤバい子だと思われても不思議ではない。
『教えるのは構わないけどルミアが従魔だと思われるのは免れないけど大丈夫か?』
『その点は私が説明します。ではまた何かありましたら連絡ください』
『あぁ分かった』
どう説明するかはルミアに任せるが変な誤解を生まなければいいけど。
今の所は何事もなくお昼休憩を取り移動を続けている。キース曰く夕方頃には森を抜けるそうだ。予定では昼過ぎにナトヘンに着き街の中を巡る時間もあったのだが残念ながら無理そうだ。
「…人の匂いがする」
「カリン、コリンは周囲の警戒を。馬車を止めて下さい」
『みんな人の気配がするから気をつけて!御者の人に止める様に指示をお願い』
『わかりました』
『こっちも了解』
突如として平穏は崩れ、ノワールからの連絡を受け馬車を止めてもらい戦闘態勢を整える。サフィにも聞こえているからいいとして、一緒に乗っているエーガたちにも知らせる。
「なんやと!?まさか帝国人が待ち構えているのか。とにかく外に出るぞ」
「馬車は出来るだけ固まって待機してください」
エーガは迅速に行動してメンバーたちへ指示を出している。俺の言葉を疑うことなく信じてくれるのはそれだけ信用してくれているのだと思うと嬉しくなる。御者へ指示を出し俺たちも外へ出て先に降りていたキースと合流する。
「相手は凡そ10人前後で今回は盗賊らしき恰好をしていますが、わざわざ森の中で待ち構える馬鹿はいませんので帝国の騎士かお金で雇われた傭兵崩れと言った所ですかね」
「どちらにせよ攻撃してくるならわいらは返り討ちにするまでや」
「俺たちの足止めを謀るなら馬車を狙うか、誰かに怪我を負わせて移動を遅らせることをしてきそうですね」
既に偵察を終えていたのかスラスラと相手の情報を教えてくれた。金で雇われたのであれば生かして捕らえたいところだ。
「ここを通りたきゃあ金と女を置いてきなっ!」
「断ると言ったらどうしますか?」
相手が帝国人だとエーガよりもキースが適任なので彼が交渉役をしている。交渉と言っても一方的に要求を突き付けてくるだけだけど。
「断るってんなら奪うまでだっ!」
「話が早くて助かりますね。一人か二人は生け捕りでお願いしますね」
「…わかった」
『サフィとノワールは非戦闘員と馬車を守ってくれ』
『『は~い(承知した)』』
ノワールは相変わらず緊張感のない返事だな。
相手は各々剣や斧などの武器を所持していてすぐにでも攻撃を仕掛けてきそうだ。
「なんだぁ武器も構えずにもう降参か?」
「御託は結構。どこからでもかかって来なさい」
「ちっムカつく野郎がいるもんだ。おいっお前ら遠慮はいらねぇ、男は皆殺しだ!!」
「「「ヒャッハー」」」
おいおい今時そんな掛け声あるのかよ…。そんなことを考えている場合ではなく、俺も剣を構えて迎え撃とうとするがキースのパーティーメンバーには弓術士がいるみたいで、遠距離から弓を射ている。素早く弓を引き数人を射ち抜いて様から彼女の腕前が推し測れる。対するキースは散歩にでも出掛けるかの様に歩いている。Aランクパーティーのリーダーだから弱いはずはないが、事前に彼の職業を聞いていなければヒヤヒヤしている所だ。
「まずは生意気なテメェからだっ!」
「誰に雇われたは知りませんが今回ばかりは相手が悪かったですね」
相手の剣技はお世辞にも上手いとは言えないものだった。俺がそう感じる程なのでキースにとっては余裕で避けられるだろう。だが俺の予想を斜め上行く行動を彼はとった。振り下ろされる剣を指先だけで受け止めたのだ。これには相手も驚き動きが止まり、それを見逃すわけもなく腹に一撃を撃ち込まれた。以前サフィもサイクに同じことをしたがそれよりも遥かに重い一撃がくりだされ、軽鎧を粉々にし――――相手の命を奪った。
「相手が丸腰だからと言って油断するなど三流以下です。二流ならば死にはしなかったでしょう」
リーダーが殺られたことによって動揺がはしるかと思ったが、そのまま襲いかかってきたので、俺も剣で応戦して敵を屠っていく。彼我の実力差は明らかでものの数分でかたがついた。
「さてと人質は確保できましたか?」
「…ここにいる」
「流石ですね。あとは私がやりますので貴女は警戒を緩めない様にお願いします」
「…うん」
「貴方には誰から雇われたのかを教えてもらいましょうか」
最早俺らの出る幕はなくカリンさんが捕まえた人質に対しキースは尋問を始めた。非戦闘員に見せるのもどうかと思うので俺とエーガは少し離れたキース元へと行く。サフィたちには引き続き警戒を頼んでおく。
「僕は何も知らない!」
「本当ですか?早めに話した方が貴方のためにもなりますよ?」
そう言ってポキポキと指を鳴らすキース。人質となった彼は先ほどの光景を見ていたのかヒイッと声を漏らし後退りするが、残念ながら後ろには木がありカリンさんによって手足を縛られた彼に逃げ道はない。
「ほ、本当に何も知らないんだ!」
彼の言葉が言い切ったタイミングでドォンと音が響く。人質の顔スレスレにキースの拳が放たれ後ろの巨木を殴り倒した。流石はSランクの拳闘士。彼の拳は常人では考えられない程の威力と素早さを誇っている。
間近にいた彼は果たしてその一撃を視認出来ていたのだろうか。どちらにせよ彼の心を折るには十分だったようで―――
「ぼ、僕たちはと、とある人物から―――」
突如言葉の途中で彼は口から吐血した。そしてピクリとも動かない。
「何処からか我々を監視していたのか、何か魔法がかけられていたのでしょう。しかしこれで誰か後ろで手引きしていた人がいたことは間違いないでしょう」
どこまでも冷静なキースに対して身震いがした。エーガも同様なのか俺と似た様な表情をしていた。
次話はルミアと女性冒険者の閑話になります。