34.見張り
夜営地へと戻り話し合った結果、取り敢えずは寝ることとなった。理由としては現時刻が夜中の2時か3時くらいなのでしっかり休めていないメンバーがいるのと、朝になれば反対側の街道から誰か通ってあの騎士らしき人たちが去ってくれるだろうという淡い期待があるためだ。あとはこちらには非戦闘員であるギルド職員と御者がいるのと人数差が大きいのも要因だ。
俺たち”蒼黒の絆”が多く睡眠が取れたので予定よりも早いが見張りを交代することとなった。
「慌ただしい一日になったな」
「そうじゃな。早う依頼を終えて王都へ帰りたいの」
「私はどっちでもいいかな?」
他のパーティーが寝る準備を終えるまで少しばかり雑談をしていたが、サフィにしては後ろ向きな言葉だと感じた。ノワールは相変わらずだけどな。
「王都に何かあるのか?」
「いや特にはないの。ただ王都での生活が妾にとってはとても新鮮に感じるだけじゃ」
「私たちが人として生活するとは思ってもいなかったからね」
「まぁ人生何があるか分からないってことだな。さてとそれじゃあ俺らは三方向に別れて見張りをしようか。正面は俺がやる、と言いたいが俺よりもサフィの方が適任だからお願いしてもいいか?」
「かまわんぞ」
「ありがとう。俺とノワールは後方と側面側の見張りな」
「は~い」
いつ帝国人が襲ってくるか不明なのでいち早く敵に気づけるサフィに頼った。ノワールでもよかったのだが、サフィの方が責任感があると判断したからだ。今回は俺たち以外にもエーガやキースのパーティー、それにルミアも寝ているのでいつも以上に気が抜けない。
『もし誰か近づいて来て敵か味方か判断がつかない時は、多少に手荒に攻撃してもいいけど死なせたりはしないように』
『心得ておるわ。奴らも手出しするつもりがあるのならとっくに襲って来てるじゃろ』
『パッと見は強そうには見えなかったから、多分あの偉そうな人よりもご主人様の方が強いよ?』
『ノワールの直感を疑う訳ではないけど、見た目だけで判断して足元をすくわれないようにな』
『そこまで私は馬鹿じゃないよぉ』
『主は油断するなって言いたいのじゃろ』
『その通りだ』
夜目を持っている二人なら夜でも万が一は無いとは思うけど、相手は帝国だからな。昼間のゴブリンの件はどうやってゴブリンを誘き寄せのか不明なため、俺たちの想像もつかないことを仕出かすかもしれない。慎重になり過ぎるのもよくないとは言うが今回ばかりは仕方ない。早く朝になって―――いや無事に国境へと辿り着きたいものだな。
夜の見張りにとって一番の敵は睡魔と冷え込みだ。幸いこの辺りは夜でも凍えるような寒さではないため目下問題なのは眠気だ。じっと座っていても眠くなるだけなので周囲の偵察も兼ねて歩いたり渋めのお茶を買っておいたのでそれを飲んだり、サフィやノワールにも軽食や飲み物を持っていたり、意思疎通で雑談したりしていると薄っすらと空が明るくなり始めた。
「もう朝だし。うーん良く寝たし」
「早いな。いつもそんなに早起きなのか?」
「たまたま目が覚めただけだし。見張りありがとうだし」
どうやら一番早くに起きたのはイリーカさんだった。彼女とは面と向かって話す機会は少なかったので少し緊張する。
「イリーカさんたち―――」
「イリーカでいいし。うちらは別々のパーティーやけど今は同じ目的を持ったパーティーやし」
「じゃあ俺もクレトでいい。イリーカたちの成功報酬って何なの?ちょっと気になってね」
「うちらは単純にお金だし。王国はそこまでだけどそれでも獣人差別はあるんだし。うちらのパーティーはみんな同じ村出身で決して裕福とは言えない村だし。だから少しでも村の人に恩返しがしたいのと、未だ誰も制覇できていないスクディンダンジョンを制覇するための魔道具を買うためだし。うちらが制覇すれば少しは獣人差別が無くなると思っているし」
「立派な目標だな」
ただそれしか言えなかった。俺たちは最初の頃ただ何となくで制覇しようとしただけだ。今は俺を慕ってくれている彼女たちのために頑張ろうとしているが、結局は個人的なことだ。イリーカたちのような立派な目的ではない。
「クレトは獣人を何とも思わないし?」
「俺はテイマーだから獣人どころか魔物にも嫌悪しなかったな。むしろそれだと俺はテイマーとして失格だろうな。だから何とも思わない」
「みんなそう思ってくれれば良かったし…。それよりも蒼龍と黒狼をテイムとは凄すぎだし!しかも二人ともめっちゃ美人やし」
前半部分はうまく聞き取れなかったけど二人が美人なのは俺もビックリだった。それよりも性別が女性だったのも二人が擬人化を使った時に知ったことだ。サフィは普段クールで俺に甘えてくることはあまりなかったから雄だと思っていた、何て口が裂けても言えない。
イリーカと話していると他の人たちも起きだしてきたので、ここまでとなった。
「カリン、コリン寝起き早々悪いですが偵察を頼みます」
「「…わかった」」
「彼女達が戻り次第移動をしますので、皆さん準備をしておいて下さい。御者の方々はいつでも出発できるようにしておいて下さい」
リーダーのエーガはどうしたのかと思い探すとどうやらテントの片付けに勤しんでいる様だ。偵察から戻るまでは少しばかり時間があるのでルミアに挨拶をし、俺も片付けを手伝うことにした。
「…まだいた」
「…どうやら反対側は通行可能」
片付けを終えたタイミングで戻ってきて状況を教えてくれた。予想通りいなくなっていることはなかったか。
「ご苦労様です。どうしますかリーダー?」
「こんな所で無駄な争いは勘弁やから遠回りになるが迂回していく。なるべく向こうには気づかれないように多少大回りで行くでぇ」
「では彼らには戻ると見せかけて森の中を抜けて行きましょう。幸い森と言っても馬車で通れないことはないので大丈夫でしょう」
「なら非戦闘員は真ん中に固めて一列になって進むのはどうです?」
「クレトの案で行こうか。それじゃあ皆に声をかけて出発じゃ」
森の中を抜けるのは魔物がいるため危険を伴うが致し方無い。何事もないことを祈るばかりだ。