33.真夜中の交渉
サフィにルミアを起こすのを代ってもらい外に出る。既に”獣の魂”と”永遠の旅”のメンバーたちは戦闘態勢に入っているが見た感じ全員まだ動いてはいない。
「エーガ状況は?」
「それがよぉ松明らしき灯りは多く見えるけどよ、襲ってくる気配もなければ取り囲もうともしねぇ」
「何だそれ?てっきり盗賊かと思ったけど」
「イリーカに様子を探らせけど身なりからして盗賊ではないらしい」
「ますます分らんな」
エーガの説明を聞けば聞く程謎が深まるという訳の分からない状況だ。ルミアも起きてテントの外に出てきたので、今のうちに手早く片付ける。
「悪いんだが上空から見てもらえるか?出来れば大雑把な数と潜んでいる方角も頼む」
「承知した」
今は少しでも多くの情報が欲しいため夜目を持っているサフィに偵察を頼んだ。しかし一向に襲おってくる気配が感じられないため俺たちに遠慮して夜営している可能性もあるのか?
「なぁ夜営している可能性はないのか?」
「それはないし。うちが見に行ったら武器を構えていて、鎧らしき物を身に着けていたし」
「訓練にしてもこんな時間にするのはおかしいか…」
エーガに聞いたつもりだったけどイリーカが答えてくれたが、やはり目的が不明すぎる。
「…多分奴らは騎士」
「…統率がとれている」
そこへ偵察に出ていたカリンさんとコリンさんからの情報がもたらされた。
「つまりは盗賊ではないと言う事ですか。襲って来ないのであれば朝まで様子見でもいいのですが、果たして彼らは道を通してくれますかね」
「なんやキースは心当たりでもあるんかぁ?」
「昨日の襲撃時には約100体程のゴブリンがいましたよね?今更ですが何故それ程の数がいたにも関わらず上位種が存在しなかったのかと思いましてね。考えられる可能性は人為的に連れて来た。そして何故か襲ってこない盗賊擬き。さらには囲むことすらせずにただ国境へ続く道を塞いでいるだけ。これらの観点から考えられることは我々の妨害でしょう」
「つまりはどういう事や?」
「ここまで言われてわからんとはほんまリーダーは馬鹿やし。ようは帝国が邪魔をしているってことやし」
「ええ十中八九そうでしょうね」
なるほどな、昨日からの不可解な襲撃は帝国が関わっていたのか。そう言われれば現状の説明もつくが、わざわざ妨害してくるとはよっぽどダンジョンを渡したくないのだろうな。そうまでする価値がニンヘルダンジョンにあるというのか?
「空から様子をみた感じ数は50人ほどで妾たちが進む道のみにしかおらなんだ。馬も人数分はありそうじゃたし盗賊にしては小奇麗じゃったぞ」
「これで決定的ですね。それでリーダーはどうしますか?」
「正面から殺り合うのは愚策。だからと言って朝まで待った所で街道が通れるとも限らんかぁ…」
帰ってきたサフィにお礼を言ってノワールと共に警戒に当たってもらう。ギルド職員を中心にして固まっていていつでも動ける準備は整ってはいるけど、今すぐか朝まで待つかの議論となっている。国境までは割と余裕を持って到着できる予定ではあったが足止めがここだけとは限らないため果たしてどうするのが正しいのか。
「一先ず交渉でもするか?可能性は低いと思うけど道を譲ってくれるかもしれない」
自分で言っていて有り得ないとは思っているけどこのまま時間を無駄にするのもとは思う。それに俺たちは寝ていたからいいけど他のメンバーは見張りをしていて十分に睡眠がとれていないはずだ。このまま硬直していても何もメリットはない。
「交渉と言うよりも出方を窺うのは良いかもしれませんね。確か帝国は人族至上主義の国のはずです。言い方は悪いかもしれませんが何方か獣人の方が交渉にいれば帝国人かどうか分かるでしょう。それから女性もいれば盗賊かどうかの区別も付くでしょう」
「それならわいが行こう。あとはもしもの時に逃げられる奴がええなぁ」
「なら俺とノワールはどうだ?万が一の時はノワールに乗って逃げられるし俺と従魔は離れていてもスキルのおかげで連絡が取れる」
「ほな決まりやな!」
「では残ったメンバーは私が責任を持ってお守りします」
「なら早速行くぞクレト」
ノワールには事後承諾になってしまうがいいよって言ってくれるはずだ。
「わかった!」
案の定引き受けてくれた。エーガ、俺、ノワールの三人で騎士団と思われる人たちがいる所へと向かう。
エーガと話し合いまずはエーガが声をかけることになった。もしこれで獣人嫌悪されれば帝国人であることには間違いないだろう。その後は俺と交代して話をすることとなった。ノワールにはランタンを持ってもらい俺たちの少し後ろで控えてもらう。
「エーガには嫌な役を任せてしまうな…」
「なに気にするな。どうせダンジョンへ行けば嫌でもそういう目にあうからなぁ」
そうこうしているとお互いの距離が縮まり松明のおかげで、遠目でも相手の顔が見える程まで近づいた。相手は十数人程立っておりリーダーらしき人物が前へと進み出てきた。
「止まれっ!それ以上近けば攻撃する」
「わいらは冒険者や。この先の街へ行きたいからそこを退いてくれ」
「獣風情が一丁前に人間様の言葉を話すとは不届きな者がいたもんだ」
うわーここまでいけばむしろ清々しいな。周りの連中も薄ら笑いしている。エーガには悪いがこれで帝国人なのは間違いない。あとはここをいつ去ってくれるかだ。
「夜分に移動するこちらが悪いのは重々承知だが一刻も早く次の街まで行きたいので、通してもらえますか?」
「言いがかりは止めてもらいたいな、我々は街道を塞いでなどいない。通りたければ勝手に通るが良い。まぁその際うっかり敵と思って攻撃するかもしれないがな。ハッハハ」
こっちが下手に出れば好き勝手なことを言ってくれる。どう考えても道を塞いでいるだろうに。
「では俺たちはこの道を迂回して通りますので、これにて失礼します」
「わざわざ夜中に移動するとは余程急いでいるのだな。夜道は何が起こるか分からんから十分注意されたし」
「ご丁寧にどうも」
意味あり気な言葉を言われたがこれ以上言っても無意味だろうから一度皆と合流することにした。さずがに後ろから攻撃されることはなかったが、奴らのノワールを見る目は何処か下卑ていた。途中からは背後に隠して見えないようにはしていたけど―――
『ずっと私を見てきて気持ち悪かった…』
どうやらノワールも気づいていたらしい。そういう視線は男が思っているよりも女性は敏感だからな。とは言え彼女は魔物なのだけど、それを言うとこちらに飛び火しそうなので黙っておく。
「全くこれだから人族至上主義はいけ好かん。今一度どうするかを考えんとなぁ」
「しかし朝になれば反対側から商人やら冒険者が来ると思うんだけど、その時はどうするつもりだ?」
「見てみぬ振りかわいらみたいにして塞ぐかやな」
キースも交えてどうするかを検討するためにもいち早く夜営地点へと戻る。