31.ゴブリンの襲撃
俺たちは現在幌馬車に乗って国境にある――――ニンヘルと名付けられたダンジョンへと向かっている。馬車は3台用意されパーティーごとに乗車して、三人いるギルト職員もそれぞれ別れて乗っている。王都から国境までは約3~4日かかるが御者を雇ってくれたので道中は幌で休んでいる。魔物が現れれば動くがそうそう頻繁に襲われることもなく雑談に花を咲かしている。
「ルミアが俺たちと一緒になったのはエミリーさんの計らいかな?」
「たぶんそうだと思います。まさか私も行くとは思っていませんでしたが、こうしてクレト君と一緒にいれて嬉しいです。勿論サフィさんやノワールさんもですよ」
「取って付けたようなセリフじゃな。だがまぁ知らない職員よりかはルミアで良かったの」
「ふふふサフィちゃんは素直じゃないね。本当はみんな一緒で嬉しいんでしょ?」
「なっ!?別に妾はそんな風に思ってなどないぞ」
「そうなんですか……私はご一緒できて―――」
「嘘じゃ!本当は妾も嬉しいぞ!!」
やっぱりサフィちゃんは素直じゃないねとこぼすノワールはどこか楽しんでいるように見える。だがみんな一緒で嬉しいと言う意見には全面的に同意だ。
しかしルミアは仕事として国境に向かっている。国境から一番近い街――――タドリングと国境を行き来する。ここはギルダース辺境伯が治める地であり国境までは馬車で半日程の距離で、俺たちがダンジョンで手に入れた物をそこへ持っていく役割だ。別に職員じゃなくてもよくないかと思ったが、ギルト職員の方が何かと融通がきくのと、冒険者だと依頼期間が不明なため無闇に依頼を頼めないのだとルミアに説明してもらった。
なので基本的にはタドリングの宿屋で生活をするのだが、毎日行き来するわけではないので冒険者と一緒に仮説テントで寝泊まりしてもいいらしく、ダンジョン以外ではほとんど一緒に生活をする。
「まぁまぁサフィも落ち着いて。嬉しくてはしゃぎたくなるのは分かるけど暴れると馬に負担がかかるぞ」
「主までそう思っておるのか!?」
「冗談だよ。ただ少しからかっただけだ」
「サフィさんも慌てることがあるのですね」
「もう知らんっ!」
みんなしてからかい過ぎたためかそっぽを向いてしまったが、ただの照れ隠しだろう。本気で嫌がる時はけっこう暴れるからな…。
「そう言えば今夜は夜営になるためパーティー単位で見張りをすることになっている。俺たちは一番ランクが低いから負担の少ない最後を担当する。大所帯なので全方位をしないといけないからバラバラになって見張りをするからな」
「私起きてられるかな?」
「いやいや起きてもらわないと困るよ!暇だったら意思疎通で話かけてきてもいいぞ。ただし見張りを疎かにはしないでくれよ」
「はぁ~い」
「…承知した」
ちゃんとサフィも話を聞いてくれていたみたいだ。ルミアたち職員は当然見張りをする必要はない。
「クレト君たちは今回のニンヘルダンジョンを制覇できそうですか?たしか成功報酬としてSランクダンジョンへの攻略資格が得られるのですよね?」
「ぶっちゃけ制覇できるとは思っていない。確かに荒野は俺たちにとって有利だけど、何階層あるか不明な点ともし罠が多い階層が来たらまずい。だけど成功報酬のためにも頑張りたいけどな」
「私は罠解除なんて無理だからね!罠を無視して突っ切る?」
「危険だからダメだ。最悪、転移魔法陣でどこかに飛ばされることだってあるんだからな」
「もしそんな階層があったら妾の取っておきをみせてやるぞ」
「……まさかここぞという時に使うって言っていたスキルか?」
「どうして先に言うのじゃ!」
どうやら図星だったらしく盛大なネタバレを仕出かしてしまった。ようやく機嫌が戻ったのに再びご機嫌斜め状態だ。どうしたものかと途方に暮れていると思わぬ所から救いの手が差し伸べられた。
「サフィさんも乙女チックな所がありますね。普段クールな人がいじけちゃうとつい微笑ましく見えるのは私だけでしょうか?」
「ううん私もそう思うよ!あれはね甘えたい時のサフィちゃんなんだよ」
「憶測で語るなっ!妾はただ、こう――もっと主に褒められたいのじゃ!!」
救いの手とはなんだったのかルミアとノワールにも内心を見透かされていたサフィは耐えきれなかったのか自ら自爆した。気まずい空気を破るかの様に外が騒がしくなり始めた。
「冒険者の方々!敵襲です。相手はゴブリンですが数が多いです」
御者の言葉で気持ちを切り替え外を見ると行く手を阻むかのようなゴブリンの群。SとAランクパーティーがいるから特に危ないってことはないけど数がな…。100はいないと思うけど街道で待ち伏せしていたのか?
考え事をしていると突如サフィが光輝き外へと出て行った。
「おいっ!どこへ行くんだ」
『殲滅する故ゴブリンの足止めを頼む。妾が合図したら一斉に後方へと退避するのじゃ』
何を勝手にとは思ったがここはサフィに任せるとして、俺は彼らに説明をしにいかないとな。
「二人はこのまま馬車で待機していてくれ。すぐに片付くから御者さんは馬が暴れないようにお願いします」
返事を聞かずに降り、前方にいるパーティーと合流する。しかし既に乱戦状態となっているがリーダーたちは後方にいた。
「状況はどうですか?」
「ゴブリン共がうじゃうじゃと湧いておるわ。わいらなら余裕やけどこんな長閑な街道で出くわすとはな」
「私も彼の意見に同意ですね。ゴブリンは何処でも出現しますがこうも数が多いのはきな臭いですね。集落が形成されているのか、はたはた近くのダンジョンでスタンピードが発生しているのか、難にせよ倒すのには変わり在りません」
エーガやキースは余裕そうだけど襲撃の原因が理解できないようだ。余談だが彼らとは話す機会が多くなって食事も一緒に行ったりして、呼び捨てで呼び合う仲になった。
「サフィ―――俺の従魔が殲滅する様なので合図したら一斉に後方へと退避してもらえますか?」
「何か考えがあるようやなぁ。わいはゴブリンを相手にするのが面倒やからいいで」
「私も早く倒せるならかまいません」
「ありがとう。奥まで行かないようにメンバーへの指示を頼む」
サフィが何をするのかと疑問に思ったわけだが、わざわざドラゴンになってゴブリンの側面へと陣取ったことから恐らくブレスを吐くのだろう。生身の人間が食らったら一溜まりもないので避けてもらわないといけない。
彼らの連携や指示は素早く乱戦から防御主体へと瞬時に切り替わり全くゴブリンを寄せ付けない。
『あと10秒後にブレスを吐く故退避するのじゃ』
『殲滅したらあとでいっぱい褒めてやるからな』
「後方へと退避をお願いします!」
サフィからの合図に応えすぐさま退避を指示する。事前にリーダーから行き届いていたおかげで5秒とかからず安全圏へと下がりその数秒後にゴブリンめがけで一筋の光が貫く。しかしそれは瞬く間にゴブリン共を文字通り消し去り、運よくブレスから逃れた奴もいたが弓矢によって倒された。
「凄まじい威力、さすがはドラゴンといった所やな」
「ええその通りですね。一瞬身震いがしましたよ」
一度見ている俺ですら圧倒されたからな。けどこれで襲撃は収まったので原因究明のためにこの後の行動を話し合うことになった。
何やら事件の匂い!?