28.たまの息抜き
本日から仕事始まりですが皆様も体調には十分お気をつけ下さい!
―――翌朝目を覚ますと左右にはサフィとルミアの寝顔が見えた。もう驚かない自分に驚いた。
ノワールは何処にいるか頭を動かし探そうとしたら枕に違和感を覚える。動ける状態ではないので手だけで確かめると、手触りが良くふかふかでどこか覚えのある感触―――まるでノワールの毛並みのようだ。
昨夜は彼女たちの話し合いが長かったせいで先に寝てしまったはずだが、ノワールの上で寝てなどいない。まだボケる歳でもないのだが全く思い出せない…。
『ノワールは起きてるか?』
『起きてるよ!』
『悪いが説明を頼む』
『あの後に――――』
―――要約すると俺が先に寝てしまった所為でこれ以上の話し合いは無意味と悟った彼女たちは公平を期すためにじゃんけんで決めたらしく、結果ノワールが負けたそうだ。でも不服に思った彼女は狼の姿で無理無理丸くなり、挙句俺の枕を奪いそこで寝たそうだ。
『わざわざ無理する必要はないだろ…』
『私だけ一人なんて寂しかったんだもん……ご主人様が起きたから私も起きだすね』
そう言って光出すとふかふかだった枕が、もっちりと弾力はあるものの温もりを感じるものへと変化した。そして上を向くとノワールと目が合う。
「ご主人様おはよう!」
「あぁおはよう。起きるんじゃなかったのか?」
「起きてるよ?」
確かに目が覚めてるという意味では起きているが、膝枕状態では説得力に欠ける。別にこのままでもいいかと脳裏を過ぎるが、何のために王都へ戻ってきたかを思い出す。
「二人も起きてるんだろ?」
先程からごそごそと動き出してはいる。それが左右両方ともなれば間違い様はなく、ノワールが膝枕状態になってからは密着具合が増したことで確信へと変わった。
「む…ばれておったか。おはようなのじゃ主よ」
「おはようございますクレト君」
「おはようサフィ、ルミア」
おかしい……朝の挨拶をしたから起きだすかと思えば動く気配が感じられない。
「不服そうな顔をしておるがまだ朝の挨拶は終わってないぞ?」
「そうなんですか?クレト君には何か特殊な挨拶があるのですか?」
俺も初耳なんだけど!?険しい表情をしていたのかよしよしと頭を撫でられるが、逆の立場だとどうも恥ずかしいな。普段撫でているけどノワールも同じ気持ちなのだろうか。つい思考が明後日の事を考えだしてしまうが現実へと戻される。
「相変わらず主は鈍いの。どれこっちを向くのじゃ」
「ん?」
よく分からないけどこのままだど無駄に時間を浪費するためサフィの方を向く。すると何故か顔を固定され見つめ合う形となり―――この後どうなるかはさすがの俺でも理解した。
未だに見つめ合うのは恥ずかしいため目を閉じ受け入れ態勢を整える。直後唇に柔らかい感触が触れる。しかし数秒経っても離れる素振りがなくサフィの背中を軽く叩くと、その意図を察してくれて二人の距離が開く。
「もっと情熱的にしてくれてもよいのだぞ?」
「それは勘弁してくれ…」
「三人はいつもこんなことをしているのですか?私なんてあれ以来してもらっていないのに…」
「ルミアを蔑ろにはして―――」
「では証明してください!」
話ながら振り向こうとしたら被せるようにして言葉を重ねるルミア。言質頂きましたとでも言いたげな表情していて早まったかと思うが、時既に遅し。
目を閉じいまかいまかと待ち受けている。しかも胸元で手を組みムードもばっちりではあるものの、これは俺がする流れか――――深呼吸してから肩に手を置きそっと触れる。しかし満足してもらえなかったのかいつの間にか後ろへと回されていた手が、背中と頭に来ており離す気はないらしい。さすがに情熱的とはならなかったがサフィよりも長く、およそ倍くらいに感じた。
「普段できない分、私には多くしてもらわないと不平等ですからね」
「離ればなれになることが多いけど平等に接しているつもりだよ。ルミアのためにも今回の依頼は是か比でも頑張らないとな」
「妾たちも忘れるでないぞ」
「もちろん忘れるわけないだろ」
その後ノワールとも挨拶を終えてベッドから起き上がった。
「ルミアは今日も仕事か?」
「えぇ仕事ですがお昼からです」
軽く身だしなみを整えながら今日のことを考える。ルミアの出勤まではまだ数時間あるため皆で話をすることとなった。
「国境のダンジョンは荒野って話だけど、難易度や魔物については何も説明がなかったよな?」
「そうじゃな、何階層あるかも不明じゃから制覇までどれ程時間を要するかも未知数じゃ」
「もっと説明を聞いてから引き受けるべきだったな…」
「ですがギルマス直々の依頼ですから、それだけ蒼黒の絆に期待してる証拠です」
まぁ今さら断るつもりはないけど次回からは依頼内容を確認してから受けないとな。
「長くなるとルミアとは会えなくなるな…」
「そうですね…いつ帰ってくるのか分からないのは正直辛いです。ですが意思疎通で連絡は取れますよね?そう言えば何回かスキルを使いましたが全然繋がらなかったのはどうしてでしょう?」
どうやら俺たちがダンジョンを攻略している時に意思疎通を使っていたそうだが誰にも繋がらなかったみたいだ。しかしダンジョンから帰還した時には繋がったから距離の問題ではない。考えられるのは―――
「きっとダンジョン内にいるとダメなんだろう」
「距離の問題ではないのですね」
「流石に王都と国境の距離を考えると絶対繋がるとは断言できない。もし無理だったら手紙を書いて送るよ」
「はい、待ってますね」
ルミアだけ寂しい思いをさせるのは申し訳ないが、何かいい方法がないものか―――。
暗い話になりかけたのをサフィとノワールが察して話題を変えてくれた。王都での出来事や流行などを話していたら出勤時間になった。
「俺はルミアと一緒にギルドへ行って、その後買い出しに出掛けてくるから二人は休んでてくれ。いつ召集がかかるか分かったもんじゃないからな」
「ならばお昼を食べたからもう一眠りしようかの」
「私はお風呂にでも入ってゆっくりする!」
俺はボックタダンジョンで消費したポーションや食料などの買い出しと、魔石の売却をしていなかったのでそれをしにいく。本当はルミアとの短いデートなんだが。
「行きましょうか」
「ええありがとう」
宿屋を出て左手を差し出すと一瞬驚いた表情をしたもののすぐに手を握り返された。
ここ最近はダンジョンやら緊急招集で休む暇がなかったが、四人で集まってわいわいするのは楽しいものだ。またすぐにでもダンジョンに行くことになるが、ちょっとばかしこの幸せを味わってもいいだろうと二人ギルドへと続く短い道を歩きだす。
さすがに全然進んでませんので近日中に次話を投稿します!