26.緊急招集
筆がのったためもう一話投稿します!
王都へ戻る道すがらルミアから説明を受けていた。
『ダンジョンが確認されたのは2日前です。国境警備隊が地鳴りを耳にして周辺に異常がないか調査したところ発見されました。国家間ではダンジョンに立ち入るのを禁止しているらしく、詳しいことは分かっていません』
『国境を跨ぐようにしてとは面倒だな』
カラフルーマ王国とジュエリーム帝国は戦争や紛争などは起きていないが、同盟国という訳でもない。しかしどこにでも過激派は存在しており相手国を侵略しようとする輩はいると聞いたことがある。カラフルーマ国王は穏健派として民にも知れ渡っているがダンジョンが絡むと別だ。
ダンジョンからもたらされる恩恵は下手をすれば国家予算にも匹敵しかねない。まぁランクやドロップ品によってはマイナスな面も存在する。旨味の無いダンジョンでも放っておけば魔物の氾濫が発生し多大な犠牲や被害が生じる。
そこで新しくダンジョンが発見されたら内部調査を行い、すぐにでもダンジョン制覇するのが決まりとなっているが、果たして今回のように国家間に発生した例がないためどうなるかは想像もつかない。
多分互いに取り決めや調査を行っている段階だろうが、王都から国境までは馬車で3~4日はかかるはずだ。
『妾たちを呼んだ理由は何だと思う?』
『うーん…普通に考えたら情報集めか攻略要員だろうな。制覇目的ならもっとランクの高い人に頼めばいいからな』
『その新しいダンジョンへは入ることになるのかえ?』
そこなんだよな。ダンジョンの転移ポイントは他のダンジョンに入るとリセットされてしまう。つまりはまた一から攻略し直しになり大変面倒くさいのだ。たかが1階層くらいの情報収集を任せられたら断りたいが、ギルマス直々のお呼びとあれば断ることができるのかは定かではない。
『個人的には今の攻略を投げ出すだけのメリットがあれば受けてもいいとは思ってるが、まずは休養をとりたいな』
『私のご飯…』
今にも泣き出しそうではあるものの走る速度は落ちてはいない。現在一刻も早く戻るためにルミアの連絡を受けてすぐに行動に移した。ノワールには人の姿になったばかりではあったが、擬人化をといてもらい王都へと続く道をひた走ってもらっている。サフィはドラゴン形態で俺が抱え込んでいて、夜目で夜道の警戒を任せ、俺は手に灯りを持って道を照らす役割をしている――――重要な役割で決してやれることがない訳ではない。
『ギルマスの部屋に着いたら準備するから、それまで辛抱してくれ』
『うん…がんばる』
心なしか元気が無さそうだが、王都までの道は半分を切っている。サフィと共にノワールを励まし、一人ダンジョンについて考えを巡らせる―――。
『ルミア、王都を目視出来たが門は開いてるか?』
『さすがに夜は閉じていますので、その横にある詰所で冒険者証を提示すれば入れる手筈になっています』
『分かった』
夜でも篝火のおかけで王都が遠くからでも見えた。東西南北の門は全て、夜になると閉鎖される。
門へと近づくと何事かと城壁の上が慌ただしくなっている。ノワールに接近しすぎないように止まってもらい大声で呼び掛ける。
「ギルマスに召集された蒼黒の絆だ!至急中へいれてくれ」
「確認するために従魔から降りて一人で門まで来い」
門番に従い二人には待機してもらい、こっそり食べやすいパンや肉などを出してあげるとノワールの目が輝いたように見えた。
一人で詰所まで歩き冒険者証を見せると、ちゃんと情報が行き届いていた様ですぐに入る許可がおりた。意思疎通で二人を呼びギルドへと続く夜道をノワールに乗って走り抜ける。
何でもギルマスからの指示でそうしろと言付かっていたらしく、否はなく人出が少なかったこともあり素直に従った。
『爽快爽快!』
何処かで聞いたことがあるが―――気のせいだろう。
あっという間にギルドへと着くと事前に連絡を入れていたので、入り口前ではルミアが出迎えてくれた。
「急にお呼び立てしてごめんなさい」
「ルミアが謝ることはないよ。それでエミリーさんはこの前の執務室にいる?」
「ええそうですが…そのー言いにくいのですが――」
『言いにくいなら意思疎通でいいよ』
『その手がありましたね。何でもお二人の擬人化スキルを堂々とお使いになってほしいそうです…』
どういうことだ…隠してるのは面倒事を避けるためで、何故それをギルマスに言われなければいけないんだ。サッパリ分からん。
『それは命令なのかそれとも―――』
「命令ではないわ。私なりの考えがあってお願いしているのよ」
ギルマスが姿を現し冒険者はおろか職員すらも驚いている。俺はルミアとの会話を盗み聞きされたのかと別の意味で驚いた。
「ではその考えを教えていただけますか?」
「えぇそのつもりよ。大まかな二つあって一つ目はテイマー職の待遇改善の一助になってほしいこと。二つ目はあなたが隠すのを面倒くさいと思っているように感じたからよ」
後者はすごい個人的なことだな…。
確かにテイマー職は底辺職として有名だしほとんどの人は最初から低ランクだけどそれと俺がどう関係するんだ?
「わからないって顔をしているわね。私はテイマー職ってだけで蔑んだり諦めてほしくないのよ。生まれながらのランクや職業はとても重要だけど、一番大事なのは努力よ。まぁあなたが一番身に染みているとは思うけどね」
「仰る通りに俺は努力をしてきましたがそれとこれは別問題では?」
「率直言えばあなたには希望の星になってほしいのよ。口では頑張っていると言っても目標となる人がいなければ、いつか挫折するわ。あなたは特別よ」
いちいち最後に俺のことを付け足さなくてもいいのだけど。
「あなたにもメリットはあるわ。ずっと隠し続けるのも大変でしょ?冒険者には私からお願いしておくわ」
そう言って1階のロビーをぐるっと見渡すと何人かはさっと目をそらし俯く中、見覚えのある顔がそこにいた。ギルマスを見る瞳は怯えているようにも見え、他の人も何かしらされたのだろう。
「あらあら怯えてどうしたの?私が悪政を行っているみたいではなくって―――ねぇサイク?」
「滅相もないです!」
「そうよねぇ私はただお願いしてるだけだものね」
お願いが脅迫にしか聞こえないのは俺だけか?
隠し通すのは大変だけど、ギルマスが面倒な輩を排除してくれるならいいかもしれないとは思ってる。それに擬人化のことを聞かれても俺も詳しくないから答えようがない。
『二人はどうだ?もし公で使うとつきまとってくる連中がでてくるかもだけど』
『ふむ…妾はどちらでもよいの』
『私はコソコソ隠すのは嫌かな……ご飯食べにくいし』
意外にも反対意見はなく―――ボソッと言ったつもりだろうがちゃんと聞こえてるからな。
「エミリーさんが責任を持ってるくれるならその提案を受け入れますが、スキルの詮索をしないこととつきまといやプライベートを侵害されればこちらもそれ相応の対応をします」
「ええいいわよ、但しやりすぎはやめてね。みんなも聞いたわね!彼ら蒼黒の絆についての詮索は禁止とします。もし破ったら私との話し合いがまってるから覚悟してね」
これまた話し合いで済むようには思えない発言だな。ギルマスとは契約を結んだが無意味になったな……始めから狙っていたのだろうか。
「それじゃあ本題を話すために執務室へ行きましょうか?ルミアちゃんは先に行って飲み物や軽食の準備をお願いね」
「…わかりました」
毎度のことながら任せきりで、ルミアもそれを半ば諦めてるのか受け入れている。これが俗に言う上下関係というやつか!
「いつまでその姿でいるのかしら?」
『使ってもいいぞ』
二人が視線でどうするかを訴えてきたため了承すると、見慣れた光が発生するが、それを知らない人たちにはそうはいかなかった。
「何だ!?襲撃か?って魔物がメイドになってる!?」
「おいっ!蒼髪の方はサイクに腹パン決めたやつだぜ!まさか魔物だとは……てかどうやって人になってんだ?」
「あの時のお姉様!!気高いドラゴンだなんてますます素敵!」
まぁ驚くのも無理はないが、ここにいてはエミリーさんが宣言したとはいえ必ず聞いてくる奴がいるから、彼女の後を追い執務室へと場所を移す。
スキルを明かしたのは別の意味もありますが、それは次回明らかになる予定ですのでお楽しみに!!