2.覚醒と擬人化
本日3話目です
眩しい光が収まった途端、すぐさまステータスカードを確認した。
名前:クレト
職業:テイマー(S【覚醒】)
<覚醒条件>
・魔物のテイムに成功
・己とテイムした魔物だけで、格上の魔物を討伐
・複数テイムに成功
・交友関係が100人を超える
・ダンジョン制覇に成功
・未来に絶望する
スキル:従魔術、意思疎通、アイテムボックス
従魔:サフィ、ノワール
ついに俺は――【覚醒】を果たした!!またも雫が頬を伝い落ちていくが、さっきとは真逆の意味で零れ落ちた。しばし一人の世界に浸ってしまい従魔たちを忘れていたが喜びを共有しようと涙を強引に拭った。
だがそこに居たのは従魔ではなく人間だった…。しかももの凄い美女が二人もいる。もしかして絶望のあまり夢を見ていたのか。
「ようやく妾たちに気づいたか。何とも情けない顔をしておる」
「サフィちゃん失礼だよ。ご主人様はそれ所じゃないんだよ」
「そうは言うても、ノワールよ。さすがにあの顔はまずいぞ」
「…そうだね。ちょっと、いやかなり?人に見せてはいけないかも。特に子どもが見たら泣いちゃうよ…」
言いたい放題言ってくれるが会話の中に違和感があった。サフィちゃん?ノワール?つまり――
「……従魔が人に化けたのか!?」
「主よ、その言われようは傷つくぞ」
「私たちはご主人様が【覚醒】した恩恵で、スキルを授かったんだよ!その一つが擬人化っていうスキルでこうして人の姿に変身できるようになったの!!どう?凄いでしょ!」
「ノワールよ、落ち着くのじゃ。妾たちは主の従魔で間違いないがどこか落ち着ける場所に移動せんか?」
意味不明すぎるのでサフィの言う通り状況を整理するべく、宿屋に戻るのがベストだ。
「そうだな、宿屋に戻って冷静になろう。その前に一つ確認させてくれ」
「なんじゃ?」
「ご主人様どうしたの?」
「本当に君たちは俺の従魔なのか?体のいい夢を見ているのではと疑っている…」
「何じゃそんなことか。ならば証拠を見せてやるのじゃ」
ニヤリと口元を歪めたサフィに見て思わず一歩後退ってしまう。証拠とは一体何だと思考を巡らせていると…急に彼女たちが光輝いた。まさか【覚醒】!?―――よく見ると白く光っているだけで【覚醒】の場合は七色に光輝き神々しく感じられる。
光が収まり目に飛び込んできたのは、かけがえのない従魔――家族たちで見間違えることなどあり得ない。サファイアの様に美しく輝いている龍鱗。ドラゴンは凶暴で恐ろしいものとされているが、大きくかけ離れた愛くるしい瞳。
図体は大きいわりにいつも俺の腹に頭を擦りつけて、甘えてくるノワール。漆黒の毛並みを撫でるととても気持ち良い。何年も共に過ごしいつも支えられてきた。 再び抱き締め三度雫が零れ落ちた。
『主が泣き虫だったとは知らなんだの』
『その言い方はご主人様が可哀想だよ』
先程までとは違い直接頭の中に流れ込んでくる感覚に覚えがあるが相変わらず好き放題言ってくれる。でも間違いない、これは俺が持っている意思疎通のスキルだ。今までは鳴き声しか聞こえず、何となくしか言いたいことが分からなかった。
『理解できたかの?』
「あぁ、疑って悪かった…」
『ならば宿屋に戻るぞ。腹が減って辛抱ならん』
『わーい!早くごはん食べに行こう!』
「待て待て。魔物の姿だと、宿屋の中までは入れないから擬人化?だったか、そのスキルで人間の姿になってくれ」
「…これでよいか?何ボケっとしておるのじゃ」
何度見ても不思議な光景であるが、これまで覚醒条件を満たすために様々なことを調べてきた。当然スキルについても散々調べ上げたが人になれるスキルなど聞いたことがない。
二匹、いや二人は足早に行ってしまい急いで後を追う。二人が視界から逸れたおかげで、漸く思考が現実に追いつきだした。それまではただ美人が二人いる認識だった。
サフィの印象は大人の女性だ。背丈は俺より少し低いくらいだが、女性で170㎝を超えているのは珍しいと思う。しかもまるで美の女神だと勘違いしそうな程、整った顔立ちをしていてスタイルもいい。また蒼龍の色を受け継いでいるのか、胸の辺りまである髪はサファイアに負けない美しさがある。ドラゴンの時は当然何も着ていないのに服を着ている。裸だと困るので助かるが何でメイド服なのかは後で絶対に聞こう。
逆にノワールは可愛いらしい印象を受ける。サフィと比べると頭一つ分低いが、その小柄な体型が可愛らしさを強調している。ノワールもスタイルはいいが胸はサフィの方が大きいように思える。サフィと同じで黒狼の色を受け継いでいるのか、ショートヘアーの髪は漆黒で美しい。そして彼女もメイド服を着ている。
「遅いぞ。主がいないと妾たちは部屋に入れないのじゃ」
「悪い、今行く」
パーティーを組んでいたが、メンバーとは別の宿屋に泊まっていた。メンバーが泊まっている宿屋には従魔用の泊まる場所が無く、外に放置なんて有り得ないので俺だけ別になったのだ。今思い返せば俺がいない時に今回の根回しをしていたのだろう。
部屋に戻ろうとしたら「当店は連れ込み宿ではないので困ります」と言われた。たしかにそう思われても仕方ないので、何とか説明をして部屋に辿り着いたが最後にどっと疲れた…。
「食事をしながらでいいから話を聞かせてくれ」
「よかろう。して何から聞きたい?」
机の上にアイテムボックスから出した料理を並べていく。何故テイマーがアイテムボックスなんてスキルを持っているのかと聞かれることが多い。理由はシンプルで従魔が多くなる程食事の準備が大変になるからだ。従魔のいないテイマーなど一般人と変わりないのでアイテムボックスが必要なのだ。ちなみに俺のアイテムボックスは時間経過しない。テイマー職でもアイテムボックスは珍しく、大半は時間経過するストレージ持ちばかりだ。
―閑話休題―
「そうだな……二人は俺が【覚醒】したからスキルを授かったと言っていたが、そんな話聞いたことがない」
「まぁ当然の疑問じゃな。なんせこれまでFランクをSランクへと【覚醒】した人物がいなかったみたいだからの。とは言っても妾たちも詳しいことは知らん」
「ご主人様が【覚醒】した時に私たちは神様からそう教えてもらったの。それでスキルとその使い方なんかも教えてもらったんだよ!」
「つまり神様から【覚醒】したご褒美でスキルをもらったと。普通は俺のスキルが強化されるはずなんだけどな…」
【覚醒】後にスキルが強化されるのは常識だ。例えば筋力強化のスキルが身体強化に、剣術スキルが剣豪スキルになったりする。個人差はあるが一つは強化される。
そう思ってステータスを見るがスキルは何も変わっていなかった。……ノワールよ、それは俺が食べようと狙っていたやつだ。ちょっと食べ過ぎじゃないか?
「二人のスキルは擬人化以外には何を授かったんだ?」
「それは秘密じゃ。ここぞというときに見せてやるぞ!」
「ご主人様のエッチ…」
…人のスキルを詮索するのはマナー違反なのは十分知っているが、主人である俺には教えてもいいじゃないか。そしてノワールの言い方は誤解を招くからやめて欲しい。
「そうか…なら期待しておく。なら…あと…は…」
「疲れて眠いのじゃろう。続きは明日にでも話そう」
「ご主人様おやすみなさい!」
食事を取っていい感じにお腹が膨れてきた反動で、睡魔が襲ってきた。特に今日は精神的な疲労が大きい。サフィとノワールの声が微かに聞こえたが、睡魔に勝てずそのまま眠ってしまった。
「何があったかは分からんが妾たちが主を支えていくぞ」
「もちろん!悲しむご主人様なんてもう見たくないから…」
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