23.ボックタダンジョン②
2階層もまた同じ景色で先行きが不安になる。しかし出現する魔物のランクが低いのはまだしもの救いだ。
『一旦休憩にしよう。もしかしたらいいアイディアが思い浮かぶかもしれん』
『…地道に攻略するのが近道じゃろ』
正論過ぎて返す言葉もない。
『二人には負担をかけるな…』
『主を助けるのが従魔ぞ、皆で協力すれば負担軽減になるじゃろ』
『 その通り!』
それぞれがお互いを支えあっていく――まさに家族だな。弱気になっていた気持ちを切り替え先を見据える。
都合良く画期的はアイディアが見つかることはなく、サフィの案内の元俺とノワールがついていく形で攻略をしていった。幸いそう多くの魔物に襲われることもなく同じくらいのペースで3階層へ続く階段が見つかった。
ただ3階層にはセーフティエリアはなく一番始めにあるのは4階層だ。
『いつもなら夕食をとるような時間だが、この階層にはセーフティエリアがない。どうせ休むなら魔物に襲われない場所がいいから、このまま攻略を続けて4階層で休むことにするから』
二人も異論はないらしく小休止だけとり攻略を進めていく。
見慣れた景色が続きこれまた同様にサフィの案内で進んで行く。だが今回ばかりはそううまく行かず初めて見る魔物と出くわした。
『あの魔物は…たしかクリティカルラビットだったか』
サフィの調べた資料に書いてあった魔物だ。兎型の魔物で体格は本来のウサギと同等だが人間で言う額の部分から角が伸びており、その名の由来にもなったご自慢の角で心臓目掛けて突撃してくる。その角は安々と心臓を貫けるだけの長さと強度を誇っている。ランクはDと左程高くはないが、一撃でもくらうと正に致命傷になり得る。
しかし逆に心臓のみしか狙わない変わった習性のため対処は比較的容易のためランクD認定とされている。
「「キキッ!」」
『数が多いから気をつけろ!』
『妾が背後から攪乱する故正面は任せたぞ』
数十匹はいるだろうか。囲まれてはいないが正面から対峙する形となり進路を塞がれている。ノワールから降りて迎撃の姿勢を取るが、サフィのおかげもあり集中的に狙われることはないが、心臓目掛けての攻撃は肝が冷える。俺は剣で切りつけているがノワールはいつも通り爪で攻撃を行っているが、たまに嚙み殺している……味はしないのだろうか?絶命すればポリゴン状に霧散するからきっと大丈夫なのだろうとは思うが―――。
サフィも爪で攻撃をしているがブレスを吐けば瞬殺できただろう。しかし本人曰く意外と体力面で疲れるらしい。連発も可能ではあるが使い過ぎると動くこともままならないかもしれないらしい。らしいと言うのも限界まで使ったことがないからであるが、何となくこれくらい使うとまずいってのはわかるみたいだ。
戦闘時間は僅かではあったが普段休んでいる時間帯であることと、一撃性の高さから緊張感が増し長く感じられた。
『クリティカルラビットは人間に対しては心臓を狙ってくるけど、魔物相手でもそうなのか?』
『そうじゃな。あ奴らは本能的に急所がわかるのだろう』
『私はご主人様の心臓を打ち抜く狼だよ!……冗談だから二人してそんな目で見ないでよ!場を和ますために言っただけなのに…』
あながち半分以上は本気で言ってると思ったけどな。きっとノワールも疲れているのだろう、そっと頭を撫でるとさっきまでのイジケタ雰囲気はどこへやら積極的に頭を擦り付けくる。ここがダンジョン内でなければ思う存分撫でたいところではあった。
『さて早いとこセーフティエリアを見つけようか』
その後もクリティカルラビットやコボルト、さらにはオークなどと遭遇した。魔物は多く見つかるが肝心な冒険者がほとんど見当たらず結局サフィに階段を見つけてもらうこととなった。階段のある場所は平地よりも盛り上がっていて空からだと見つけやすい。さらにはどのダンジョンも同じ形らしく一度見れば分かる。ただし洞窟などのエリアではそううまくはいかない。地図か地道に経路をマッピングして階段を目指す。
恐らく外の時間は深夜あたりのため冒険者はどこかで休んでいると思われる。
特定のエリアを除くダンジョン以外では常に明るくなってはいるが明確に外の時間と連動しているのか、夜行性である魔物と多く出くわし自ずと疲労も増していく。
『ようやく4階層には来たものの果たしてセーフティエリアはこの階層のどの辺りにあるものか…』
『すぐ近くにあるといいがの』
『早く寝たいね』
俺たちの願いは虚しく、すぐに見つかることはなく凡そ半分以上を攻略して見つかった。