21.ノワールって天然!?
資料室のあるフロアへと移動しそこでルミアは仕事ため別れた。残った俺たちは明日の打ち合わせを行うことにした。
「明日の早朝にボックタダンジョンへと赴く。ノワールがいれば1時間くらいで着く予定で今回は10階層毎に帰還をするつもりだ。ここは武器の材料がドロップしやすいためダンジョンを中心に多少発展していて宿屋もあるらしい」
「快適な攻略になりそうじゃな」
「それでも数回はダンジョン内で寝泊まりはするけどな」
ほとんどクロキスダンジョン攻略とやることは変わらないので確認を済ませるだけで終わった。
「そう言えばノワールはすごい魔物だったんだな!」
「ふふんすごいでしょ!サフィちゃんと比べるとそこまでだけどね…」
「なにその分経験の差があるじゃろ」
「…年増ってこと?」
「戯け!折角励ましてやろうとしたのが台無しじゃ」
なんやかんや口では文句言ってても和気藹々としていて仲の良さが感じられ、ノワールは丸くなったなと思う。
「最終確認も終わったことだし俺は宿屋で明日のために英気を養っておくけど、二人は何処か出かけるか?」
「どうするかの…」
「サフィちゃんと英気を養うために買い食いに行ってくる!」
「妾もか?…まぁよかろう」
養うどころか逆に疲れないのか?でもノワールはそうでなくてはな……サフィには苦労を掛けるがノワールのお守りを頼もう。
「ご主人様にお願いがあるの」
両手を胸の前で握り潤んだ瞳で見つめられ、さらには身長差のせいもあって上目遣いでかわいすぎる。まさかノワールがここまで大胆だったとは知らず、公共の場でキスを強請ってくるとは…。しかしここは従魔の願いを叶えてあげるのが主人の役目だ―――かわいさのあまり俺がしたいわけでは断じてない。肩を掴み目を閉じる。最高のシチュエーションだと自画自賛して――――
「お金ちょうだい!」
心が砕けた……。絶対に今パリンって音がしたよね!?笑ってないで俺を慰めてよ!超恥ずかしいじゃん、勝手に舞い上がっただけで馬鹿みたい。あぁぁぁ穴があったら入りたい…。
「ねぇご主人様はどうしたの?」
「今はそっとしてやれ、心に深い傷を負ったばかりじゃ」
「???」
一先ずノワールのお願いを叶えてやることにして宿屋で引きこもろう…そうしよう。
「…明日は攻略だから程々にな」
「うん!ありがとう!」
「主も気力を回復しておくのだぞ」
「あぁ大丈夫だ」
「大丈夫かな?」
「なに帰ってから主を甘やかせば問題ないぞ」
ベッドで横になり疲れた体と精神を休ませ攻略のために寝だめをしておこう。だが真っ昼間のため眠気があまりなく一先ず横にだけなっておき、ふと昼間の出来事を思い出す。
「ノワールが狼種の頂点だったとはなぁ」
つい口に出してしまったがけっこう驚いたものだ。魔物の強さや種類も調べておく必要があると痛感させられた。ひょっとして蒼龍もすごい龍だったりするのか?
ダンジョン攻略が落ち着いたら調べてみようかな。横になってると程よい眠気がやってきたので抗うことなくうけいれた。
「…ん?知らない景色だ」
「起こしちゃった?」
この声はノワールか…てか顔が近い。これは膝枕をされているのか、しかも頭ナデナデのオプション付きだ。
「急にどうしたんだ?」
「昼間のご主人様が不憫に思えたから慰めようとね!迷惑だった?」
「いや嬉しいよ、ありがとうノワール。サフィはどうした?」
どうして女性の膝はこんなにも柔らかいのだろうか…もしや哲学的問題か!?
「サフィちゃんはルミアちゃんを迎えに行ってるよ」
「そうか、程よく寝てたみたいだな。正座は辛くないか?」
「う~んちょっと痺れてはいるかな」
「ありがとうなもう起きるよ」
痺れるくらいなら数十分前からしてくれたみたいだな。名残惜しいが起きてベッドに腰かける。
ノワールも自由になり立ち上がろとして―――思ったよりも痺れていたせいか前のめりに倒れ、それを支えようとするが体勢が不十分でうまく受け止められなかった。
結果どうなったかと言うとベッドに押し倒された―――俺が。
「えへへ痺れて動けないよ」
「その割りに嬉しそうだな」
「そんなことないよ~」
「もうすぐ帰ってくるんだろ?また見られると――!?」
「……静かにしない口はふさいじゃうんだからね」
――既に塞がれましたけど!?不意打ちは卑怯だぞ、心の準備をしていないと色々ともたないから。
「事後承諾みたいな感じはどうなんだ?」
「まだ静かにしないの?もしかして誘ってる?」
「この有様をだな―――ッだから待てって!」
「待たないよ~」
全然起き上がれないんだけど……力入れすぎじゃない?二人が帰ってきてこの現場を見られたら終わる。仕方ないがノワールには多少痛い目を見てもらうしかない。
足は自由に動くので痺れてる足めがけて足で触る。ハハハ効果は抜群のようだな!
「ご主人様こそ卑怯だよ!う~足の踏ん張りがきかない…」
「何だと!?がんばれがんばるんだノワール!!」
「……無理」
事態が悪化しただと!?いち早く起こそうとするが、どうやら時間切れのようだった。
「今帰ったぞ」
「ただいま帰りました」
「……あぁお帰り。帰って早々悪いが助けてくれ」
「「………」」
「これは事故だから!!」
沈黙は怖いからやめてくれ。ノワールも諦めてないで自力で起き上がろうな――ん?おまえ、まさかわざとか!?
「クレト君英気を養うとはそういう意味なんですか?」
「ちゃうねん!」
「状況証拠が揃っていますよ?」
「ノワールの足が痺れてるんだよ!」
「ほぅーいい情報ぞ」
すまないノワール。俺は無力だ…。
「サ、サフィちゃんな、何をするの!?」
「なに痺れてる足をマッサージしてやろうとな。優しい妾に咽び泣くといい」
「それは別の意味で泣く羽目になるから―――ま、待って、あぁぁぉぁぁぁ」
「痛い痛い!?肩がはずれそう…」
とんだ二次被害だよ…。冗談抜きで痛いんだけど、ノワールもやばいのか瞳に雫がたまり今にも零れおちそうだ。さっきのは縁起じゃなくて本当に動けなかったのか、疑って悪かった。
「クレト君から目を離すとろくなことがありませんね」
「全く困った主じゃ」
「…すみません」
その後落ち着くまで時間がかかり、思った以上に俺とノワールがダメージを受けダンジョン攻略は一日延期となった。