20.ギルマスと従魔たち
予約投稿を忘れていました。ごめんなさい。
有効な打開策が見つからず、明日二人を連れてくる約束をなあなあに取り付けられ退出を許してもらった。終始彼女のペースで半ば押しきられた感は否めないが、決して悪い人ではなさそうに見える。
「大変じゃったな」
「明日はギルドに行くってこと?」
「そうなるな。行くのは昼からだけどな」
二人と合流してことの顛末を伝えてる真っ最中だ。ルミアが従魔になったことを話しても驚く様子は見られなかったが、予期していたって言うのか!?
気を取り直してダンジョン攻略は明後日からにして、明日はエミリーさんの所へ行ってその後は最終確認を済ませて翌日に王都を立つ予定だ。
ルミアも帰ってきて明日は昼からの仕事だそうで、それならばと皆で一緒にギルドに行こうと言う話になり、今日も疲れた体を早めに休ませた。
翌日いつもより遅めに目が覚めたものの、約束の時間には十分間に合うためのんびりとご飯を食べ雑談に興じていた。
「さてそろそろギルドに行きますか」
「そうじゃな」
話がひと段落つき時間を確認するとちょうどいい時間だったので出かける準備を始める。俺たちは特にこれといった準備は必要なかったが、ルミアは制服に着替えて行くらしい。
ギルドに入りルミアを先頭に再び執務室へと向かう。
「ルミアです。蒼黒の絆のメンバーを連れて来ました」
「入ってちょうだい」
昨日同様に入室の許可をもらい中へと入る。忙しいのか机の上には昨日見られなかった書類が積まれていた。
「ソファで座って待ってもらえるかしら?ルミアちゃんは紅茶の準備をお願いね」
「…わかりました」
同じ場所に座り両隣にはサフィとノワールも座った。紅茶の準備を終えたルミアが「遅かった…」とでも言いたそうな顔をしていたが紅茶を並べ終えてサフィの隣に腰を落ち着かせる。
「急な仕事でも入ったのですか?」
「まぁそんなとこかしら、すぐ終わるからちょっと待ってね」
ギルマスともなれば忙しいものかと思ったが、言葉通り数分区切りがついたようだ。
「待たせて申し訳ないわね。話は聞いてると思うけど私がエミリーよ」
「俺の左側にいるのがサフィで反対側がノワールです」
「なるほどなるほど。見た目は普通の人間と見分けがつかないとは興味深い」
まじまじと見つめられてるがどこ吹く風と言わんばかりに紅茶を飲んでいるがノワールは茶菓子に夢中である。
「鑑定で視ない限り魔物だとは分からないわね。人間の姿に違和感はなかったのかしら?」
「…言われて見れば普通に歩けたの」
「私もそうだね」
急に二足歩行になれば戸惑うはずだけど前からそうだったかの様に普通に動けていて、俺もそんなものだと納得していた。
「剣術のように擬人化のスキルにはある程度、人としての動き方が分かるのかもしれません」
「君の意見は一理あるわね、スキルにもまだ謎が多いからね。それじゃあ次は魔物になってちょうだい!」
「この部屋は誰も入ってこないんですか?」
「大丈夫よ。私の許可なく入ることは無理よ」
含みのある言い方に聞こえたが気にせず話を進めていく。
「まずはサフィから頼む」
「承知した」
いつもの様に光輝くと蒼龍が姿を現し膝の上に着地して、ルミアが俺の横へと移動した。何故に?
(『抜け目がないの』
『サフィさんだってちゃっかりクレト君の膝の上になんか座ってるじゃないですか?』)
「わぁすごいわね!一瞬で姿を変えられるのね!」
まるで猫のように膝の上で丸くなるドラゴンはシュールだな。手持ち無沙汰を感じ龍鱗を撫でると蒼龍だからか少しヒンヤリとしている。よくよく考えたらドラゴン状態のサフィを撫でることはほとんどなかったな。
「借りてきた猫の様ですね」
「ドラゴンにしては温厚ですから」
エミリーさんも似たようなことを思っていたみたいだ。一般人がドラゴンなんかを見たら卒倒しそうだが流石はギルマス、物怖じせず食い入る様に凝視してドラゴンを困らせている。
「お触りはOKですか?」
『どうなんだ?』
『ダメじゃ!』
「残念ながらダメみたいです」
「あぁー残念。でもまだ私にはノワールちゃんがいるわ!」
「お触り厳禁です!」
かわいらしく体の前で腕をクロスさせているが、即刻拒否とは相当嫌なのだろう。当のエミリーさんはこの世の終わりみたいな顔をしているがどんだけ触りたいんだよ…。仲を深めればワンチャンスあるかも?
「…ではノワールちゃんも魔物の姿を見せて下さい!」
めげないなこの人は。この場で元に戻ると机が邪魔なので離れた所へ移動してもらう。その隙に擬人化を使い今度はサフィがノワールのいた場所へと移動する。
「フフフ皆さん仲がいいですね」
「あははは」
人前では照れくさく感じてしまう。負けじとノワールは無理やりソファとテーブルの間を通り抜け足元までやってきた。
『紅茶が溢れるだろ』
『ご主人様には撫でる義務があるの!』
いつから発生したんだよ……俺としても撫でるのは好きだからいいけどさ。気持ちよさそうに目を細めていて、エミリーさんが親の仇の様な目でこちらを見つめるが怖くて目を合わせられない…。
「黒狼もここまで手懐けるとはクレト君がすごいのか、それともお二人が変わり者なのかどちらでしょうね?」
「ん!?ノワールも危険な魔物として認識されてるんでるか?」
「え?テイマーなのに知らないの?黒狼は狼種の頂点よ?」
マジで!?めっちゃ強いじゃんノワール!
「ルミアも知ってた?」
「ギルド職員ですので勿論理解していましたよ。どうしてクレト君は知らなかったのですか?」
「…魔物についてはあまり調べてなかったんだよ。ダンジョンに出現する魔物は知ってるけど生態系までは不勉強で」
まさかノワールがそこまで強いとは……何処と無くドヤ顔してるように見えるが大人しく撫でられる姿を見ると、威厳は全く感じられない。
「君にはテイマーの才能があるみたいね」
「クレト君はSランクのテイマーですからね」
「まぁ!君は実に興味深いね」
舌なめずりをしてまるで獲物を狙う獰猛な虎を彷彿させる。身の危険を感じとり背中に嫌な汗が流れる。
「取って食ったりはしないわよ。さすがの私でも黒狼とドラゴン相手じゃ分が悪いからね」
さっきまでの危険がまるで嘘のように飄々とした風を装ってはいるが、その瞳の奥には隠しきれない欲望が渦巻いているように思えてならない。この人は魔物に興味があるのだろうか?
「もし珍しい魔物をテイムしたら教えてね。今日の所はわざわざ来てもらってありがとう。私は仕事がまだ残っているから片付けないと――」
「…では失礼します」
一礼して部屋を後にするが「またね」と手を振る彼女は、どこか確信に近い根拠があるのだろうか…。