19.契約と契約
契約をするか多少悩んだが俺にデメリットはなさそうに思える。不都合な契約なら結ばなければいいだけで、このまま何もしないとエミリーさんに言い触らされる恐れがある。
「契約内容を聞いても構いませんか?」
「もちろんよ。あなたたちのことを他言しないかわりに秘密を教えてほしい、ただそれだけよ」
「ルミアはどう思う?」
「私はその条件でいいとは思います」
俺もいいとは思うが彼女の余裕の表情は何だ?
「俺、サフィそれからノワールの三人で蒼黒の絆という名前でパーティーを組んでいますので、蒼黒の絆にとって不利になる情報を他言及び筆跡でもしない条件ならお教えします」
「ええわかったわ。それじゃあ契約を行いましょう」
あっさりと認められると逆に裏があるのではと疑いたくなるが、全て疑っていては話が進まないか。ここは自分とルミアの直感を信じよう。
「契約内容を伝えるから問題がなければ水晶に触れて”我契約を交わす者なり”と言えば完了よ」
「割りと簡単ですね」
「それじゃあ始めるわね。”我エミリー・フォン・フォレステアは蒼黒の絆にとって不利になる情報を他言並びに筆跡しないことを誓う。汝クレトは契約を結ぶ者とする”」
「”我契約を交わす者なり”」
その瞬間水晶が光輝くが目を覆う程ではなかったが単純に驚いたが、それよりもエミリーさんが貴族だったことの方が驚きだ。ルミアは知っていたのか驚いた表情はしていなかった。
「これで契約は完了したわ。ルミアちゃんも契約しておく?」
「ルミアのことは信頼しているので必要ありません」
「なら早速と言いたい所だけど、ルミアちゃん紅茶のおかわり頼めるかしら?」
「はぁ分かりました」
エミリーさんがマイペースすぎるが、ちょうど俺もおかわりが欲しかったところだ。
ルミアにお礼を言って渇いていた口を潤し話すための準備をしておく。
「俺から話す前にどうしてサフィとノワールのことがわかったんですか?」
「あぁそれは私のスキルよ。鑑定というスキルを持っていて君の従魔欄をみて知ったのよ」
「鑑定を防ぐ方法はありますか?」
「噂ではダンジョン産のアイテムに鑑定を妨害できる物があると聞いたことがあるけど、実物を見たことはないわ。現状不可能に近いけど鑑定持ちは滅多にいないから心配する必要はないわよ」
さすがはダンジョン、何でもありに思えてくる。滅多にいないとは言うが見破られた身としては楽観できない。
「一先ずは気にしないでおきます。もし何かしら対策があれば教えてもらいたいです」
「いいわよ。さて次は君の番だけど何から聞こうかしらね?やっぱり従魔についてかしら」
「俺の従魔はドラゴンのサフィと黒狼のノワールの二人です」
「ほぉー君は珍しい魔物を従えてるわね。俄然興味がわいてくるわ」
それからは聞かれたことについて話したが、ルミアに話したこととほとんど同じ内容にだった。
「擬人化とは長生きしている私でも初めて聞いたわ。是非直接見たいものね」
「機会があれば――」
遠回しに見せろってことだろうがおいそれと人前では出来ない。その事を承知してるのかしつこくは言ってこなかった。
「ルミアちゃんとは意思疎通で話せるのかしら?」
「……試したことはないけど、従魔としか無理じゃないですか?」
「ならルミアちゃんも従魔にしたら?」
さらっと爆弾発言をしたぞこの人は。ルミアもポカーンとして「頭大丈夫?」とでも言いたそうな顔をしてる。全くその通りだ。
「そこまで不思議がること?従魔と一口に言っても奴隷の様に縛ることはないのよね?」
「まぁたしかに奴隷と同じ点は主人に危害を加えることが出来ないことだけで、絶対服従ではなく自由もありますが、人を従魔にするなど聞いたことがないです」
「それを言うなら擬人化だって聞いたことないわよ?ルミアちゃんはどう思う?」
前提条件として人間にも従魔術って通用するのか?魔物の中には人に近い個体もいるが―――いや待てよサフィとノワールだって人間の姿をしているが普通に従魔術のスキルは発動している。固定観念に囚われているだけで可能なのでは―――しかし人としての倫理観がそれを善しとはしていない。そんな葛藤を軽くあしらうようにルミアははっきりと告げた。
「かまいません。私だけ仲間外れは嫌ですので」
「抵抗はないの?」
「知らない人なら当然ありますが、クレト君は信頼していますから」
まるでさっきのお返しと言わんばかりに同じ言葉を述べるルミア。言われる側は照れくささを感じるがそれ以上に嬉しさが込み上げてくる。
「両者の同意が得られたってことで今すぐやりましょう!」
「最後の確認だけど本当にいい?」
「はい。私も家族の一員になりたいです」
家族の一員は断じて従魔じゃないから!そんな目で見ないでくれます!?ルミアが少し……かなりおかしいだけだから。
「人それぞれだから私はいいと思うよ?」
「もはや突っ込まんよ…」
「従魔術をお願いします」
まさかお願いされるとは――。
「じゃあこれから俺が呪文を詠唱するから"誓います"って言ってもらえればいいから」
「わかりました」
「"我クレトはルミアを従魔と認め、汝ルミアはクレトを主人と認めることを誓うか?"」
「"誓います"」
特にこれといった光やなどは起きないが、これで二人の間にたしかな繋がりが結ばれた……はずだ。ステータスプレートを確認すると
名前:クレト
職業:テイマー(S【覚醒】)
<覚醒条件>
・魔物のテイムに成功
・己とテイムした魔物だけで、格上の魔物を討伐
・複数テイムに成功
・交友関係が100人を超える
・ダンジョン制覇に成功
・未来に絶望する
スキル:従魔術、意思疎通、アイテムボックス
従魔:サフィ、ノワール、ルミア
ルミアも従魔に追加されていた。この目で見ても人間が従魔になるなんて信じられない。
『ルミア聞こえるか?話したい時は相手のことを思い浮かべて心の中で喋れば伝わるから』
『……こんな感じで大丈夫ですか?ちゃんと聞こえてますか?』
『あぁちゃんと聞こえてるよ』
意思疎通も使えることがわかりこれで信じざるを得ない。
「どうなら成功したみたいだね。どうかね感想は?」
「率直に驚きですね。従魔の概念が崩れそうです」
「クレト君との明確な絆ができて嬉しいです」
喜んでくれているなら俺が気にしても仕方ないか。従魔になっても関係が悪化することはないし、むしろ良好になっていくと思う。ひょとするとこれも【覚醒】の恩恵なのだろうか。
何はともあれこれでここにきた目的は果たしたはずなので退出させて――
「じゃあ今度はサフィちゃんとノワールちゃんに会わせてもらえるかな?」
まだまだ時間がかかりそうだな…。思わずため息がこぼれどうやって帰ろうか考えを巡らせる。
魔物と従魔術を結ぶ時は名前を与え相手が認めたら成功します。知性のない魔物でも本能的に従うことを容認すれば大丈夫となります。