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17.決闘

 予定通りに今日は買い物をしている。朝起きたら体が重かったが多少慣れてきている自分に驚いた。


 前回使用した消耗品や食糧などを一通り購入していき、テイクアウト販売も行っていたのでルミアと食べたサンドイッチも購入した。冒険者に必要そうな道具やアイテムはギルド近くにお店が連なっているので、左程時間はかからなかった。


 余った時間は久々に鍛錬を行うことにした。ギルドには訓練場が併設されていて、そこで素振りや対人戦闘などをよく行っていたが最近は素振りや筋トレしかしていない。王都とも成れば多くの人がいて対人戦の鍛錬には持ってこいだ。

 そうと決まれば早速訓練場へと移動する。やはり王都のギルドとともなればレッドリオと比べて大きさや人の数が段違いだ。相手を探そうと辺りをきょろきょろしていたら誰かがこちらへとやってくる。


「おめぇ俺様のこと覚えてるか?」

「うん?どこかで見たことあるような―――」


 ……思い出した!見覚えがあると思ったらサフィに腹パンを決められた男だ。


「思い出したみてぇだな。今日は守ってくれる彼女(メイド)はいねぇようで好都合だぜ」

「あのことを根に持ってるのか?どう考えても絡んできたあんたが悪いだろ」

「うるせぇーそんなもん知ったことか。暇なら相手してくれよな?」


 確かに相手は探していたが、あくまでも鍛練相手であって私闘相手は求めてない。しかし相手は待ってはくれないらしく、木剣を二本持ってきた。


「ほらよ、優しい俺様が木剣を持ってきてやったぞ。まさかここにきて逃げたしたりしないよな?」

「しゃーない相手してやるよ」


 わざわざ逃げ道を塞ぐために剣を持ってくるとは――。どれほどの腕前があるか知らないが、こうも堂々と喧嘩を吹っ掛けてくるあたり腕に覚えがあるのだろう。果たして俺の実力が通用するものかどうか――。


「ガハハハおめぇじゃ相手にもならねぇよ」

「やってみなきゃ分からんぞ?」

「まさか俺様のことを知らねぇのか?あんときは素手でやられちまったが、俺様の職業は剣士だ」

「なるほど、道理で自信があるわけだ」


 剣士ならば剣を使っての試合で負けることはほぼないだろう。負けるとしたら剣士よりも上位職業である、騎士や聖騎士なんかが挙げられるがそれを持ってるやつが冒険者になるとは思えない。


「さらに【覚醒】を果たしBランク職となった俺様に勝てるやつなんてここにはいねぇのさ」


 聞いてもいないのにペラペラと情報を教えてくれる。案外優しいやつなのか?

 長々と話してるせいで、訓練場で鍛練していた冒険者たちが野次馬へとジョブチェンジし勝っても負けても面倒事になりそうだな。だからと言って負けるつもりは毛頭ない。


「おいあれってサイクじゃねぇか?」

「あぁあいつか、実力はあるけどそれ以上に素行が悪いので有名な奴か」

「絡まれてる相手は……たしかメイドを二人も連れてたやつだな。すげぇー美人で、その内の一人がサイクを腹パンで沈めてた」

「なんて羨ましいやつだ。しかし見るからに弱そうだぞ?」


 二人だけでなく俺のことまで覚えてるとは――。にしても俺の見た目って弱そうに見えるのか、地味にショックだな。


「お前のことはわかったからさっさと始めようか」

「あぁそうだな。おめぇら何もしねぇならそこをどきな!」


 全く、訓練場のど真ん中でやる必要なんてどこにあるんだよ。そうまでして俺に恥をかかせたいものかね。


「ルールはなんだ?」

「魔法は禁止で致命傷になり得る攻撃も禁止だ」

「わかった。合図はそっちに任せる」


 木剣なら故意に狙わない限り致命傷にはならないはずだが、サイクと呼ばれていた男はニヤケ顔でこちらを見てくる。


「どっからでもかかってきな!初手は譲ってやる」

「それゃどうもっ」


 言葉を言い切るのと同時に駆け出した。先日ゴブリンキングと対峙したが奴の方が手強いように感じた。ランクはサイクの方が上だが体格や得物のリーチ、さらに気迫が違いすぎる。自分の職業に絶対の自信でもあるのかこちらを見下している。

 俺はそんなやつらに負けないために努力を重ねてきた…何が才能だ。そんなもの糞くらえだ!


 前傾姿勢から逆袈裟(ぎゃくげさ)の一刀を放つ。さすがは剣士、咄嗟に受け止めたようだがそれは防いだにすぎない。これで決まっていればそれまでだったが、次の手を考えておくのは当然で受け止められたならば力で押しきって体勢を崩す。狙い通りにいきそのまま腹に一撃を入れようとして―――――危険を感じ咄嗟に後ろへ飛んで避ける。もし避けてなかったら腹に一撃を受けていたのは俺だっただろう。


「思った以上にやるじゃねぇか。まさか今のを躱すとはな」

「魔法は禁止じゃなかったのか?」

「言い掛かりはよくねぇな。証拠でもあるのか?」


 チッ厄介だな。明らかにサイクは強化系の魔法を使っていた、でなければ俺の勝ちだった。日頃からここぞという場面で使っているのか、発動が滑らかでギャラリーの中でもそれに気づいたのは僅かだろう。

 ヴォルフが似たような魔法を使っていたから分かったものの、初見殺しもいいとこだ。さらに魔法の使用を認めないとは噂以上に素行が悪い奴だ。


「ガハハハ証拠がねぇのならそれゃあ言い掛かりだ」


 俺が黙ったことでますます調子づく。

 そこからは防戦一方になってしまい振り下ろす瞬間、剣と剣がぶつかる瞬間など嫌らしい所で魔法を使ってくる。剣の腕前よりも魔法をスムーズに使っていることの方が評価できるほどにだ。そのせいでこっちは常に動きの先読みや剣に力を込めていないといけない。


「最初の威勢はどうした?防いでばかりじゃ勝てないぜ?」

「確かにお前の言う通りだな」

「なんだ?勝てないからって諦めたのか」

「いや勝つさ。だから次の一刀で倒させてもらう」

「…笑えねぇ冗談は嫌いだが、次で終わらせるのは俺様も同じだ」


 緊迫した空気が流れどこか懐かしい気分だった。覚醒前は死に物狂いで覚醒条件を探していて剣の鍛練は勿論のこと格上の魔物に挑んだ回数など覚えていない。やはり鍛練はこうでなくてはな。


 先に攻撃を仕掛けたのは俺だったか――ほぼ同時に駆け出しすれ違い様に剣を一閃。互いの場所が入れ替わることとなり―――


「どうやら俺の勝ちのようだな」

「ゴフッ…まさか……負け…るとは……な…」


 奇しくも腹に一撃をくらい同じ運命を辿ることとなった。

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