1.追放からの覚醒
本日2話目の投稿です。21時にまた投稿します。
今日もパーティーでのダンジョン攻略が順調に進み、いつものお店で夕食を食べている時にそれは起こった。
「すまない。もう一度言ってくれ」
「あぁ?何度でも言ってやるよ!お前はクビだ」
…まさかパーティーリーダーのヴォルフからそんな事を言われるとは―――。だが驚いているのは俺だけでメンバーは無表情だ。まるで事前にこのことを知っていたみたいだ。
俺とヴォルフは同じ村出身の幼馴染みだ。15歳の時に冒険者登録をしてパーティーを結成した。その後三人のメンバーを加え紅の進撃として活動を開始し、今ではAランクパーティーとしてそこそこ有名になった。だが俺ともう一人を除く三人の職業は【覚醒】していてつい最近リアが【覚醒】を果たし、俺だけが取り残された。
「いつまで経っても【覚醒】しないお前は足手まといだ。俺たちはいずれSランクパーティーになる存在だ。だからFランクのお前はお荷物だ!」
「……」
ヴォルフの言い分は間違っていない。この世界は神からの祝福として職業とスキルを授かり俺が授かったのはテイマーだった。だが神の試練としてスキルは【覚醒】する。テイマーはFランクだったが【覚醒】すればSランクになれる素質が俺にはあった。だが同時に足りない物もあった。
「お前はいつになったら【覚醒】するんだ?」
「いつ【覚醒】するかは分からないが俺には素質がある。決してお荷物にはならないし、今までも役に立っていた」
「何だと!?ならもっぺんてめぇのステータスカードを見てみろよ!」
これまで数えきれない程見てきたステータスカードを、今一度目を凝らして見つめる。
名前:クレト
職業:テイマー(F【未覚醒】)
<覚醒条件>
・魔物のテイムに成功
・己とテイムした魔物だけで、格上の魔物を討伐
・複数テイムに成功
・交友関係が100人を超える
・ダンジョン制覇に成功
・??????
スキル:従魔術、意思疎通、アイテムボックス
従魔:サフィ、ノワール
これが俺のステータスだ。テイマーはFランクだけど覚醒条件が6つもあるからSランクに【覚醒】できる。だけどあと1つの条件が分からない。これさえ達成できれば俺だってもっと活躍できる。
それに従魔の、サフィとノワールが嫌な思いをしなくてすむ。職業がFランクのせいで弱い魔物だと陰で馬鹿にされているのを俺は知っている。すごい役に立っているし、家族同然のように愛情を持って接しているが従魔など信用できないと言われる。
「俺とお前は幼馴染みだが、もうお前を助けてやるのも限界だ。お前を追放するのはパーティーの総意だ、潔く受け入れろ。それにお前の代わりは既に見つけている」
「それは本当なのか!?ヴォルフだけじゃなくみんなして俺が役立たずだって言うのかよ!」
「実際そうでしょう?あなたが抜けた所で何も変わらない――むしろプラスになるわ。あなたの従魔は主人に似て役に立たないくせして、食費だけは一人前だからね」
「クレトさんを悪くは言いたくありませんが、ヴォルフさんの言ってる事は何処か間違っていますか?」
「お前を守るせいで、いつもミランダとリアが危ない目にあっている自覚が、お前にはないのか?」
ミランダは当初黒狼であるノワールを可愛がっていた。だけどノワールがミランダの思うように動いてくれなくて、徐々に仲が悪くなっていった。でも本当はノワールがミランダを思っての行動だったのに、それを分かってはくれなかった。何度も俺がノワールの代わりにそのことを伝えていたのに、ノワールが間違っているの一点張りで最後まで分かろうとはしなかった。
リアはパーティーの回復を一手に担っていた。メンバーはおろか従魔達も彼女には助けられていた。特にドラゴンであるサフィが一番多かった。ドラゴンと言っても小柄で人の頭くらいの大きさしかないため偵察の役を任されていたが、怪我も多くしていた。リアとは仲が良い方だと思っていたが、どうやら思い違いだったらしい。
アルフレッドに至っては、テイマーである俺をいつも目の敵のように思っていたはずだ。テイマー職の俺は自衛のスキルを持っていない。だからと言っていつも従魔たちに守ってもらるわけもなく、彼に守られることが多かった。それが気に喰わないのか、いつもヴォルフに文句を言っていたてその度に【覚醒】するまでは仕方ないと言い続けていた。
思い返してみると俺たちはけっこう仲が悪かったのか?でもパーティーの連携は上手くいっていたし、大きな怪我を負うようなことはなかった。ダンジョンだっていくつか制覇してきた。
「これで分かったろ、お前は役立たずだ。それに従魔は俺たちの命令を全く聞かず勝手に行動していい加減うんざりだったんだよ。だがそれも今日で終わりだ。ようやくリアが【覚醒】したおかげで、先に進むことができる」
「でも俺がいなくなったら情報収集や偵察、さらには食料などの調達を誰がやるつもりだ?」
「お前の代わりは既に見つけてあると言っただろ―――ちょうどいいタイミングで来たな」
そう言って店の入口に視線を移したので、俺もそちらに視線を向ける。すると一人の小柄な女性が真っ直ぐこちらにやってきているが、見覚えがない。
「クレトに紹介してやるよ。まぁ紹介した所でもうお前には関係ないけどな」
「初めましてクレトさん。この度、紅の進撃に加入するサラと言います!」
「…どういう事だ?」
「はぁ、わかんねーのか?お前の代わりだよ!サラの職業は盗賊でお前と同じでFランクの職業だよ。しかしお前とは決定的に違う所があるんだよ。わかるか?」
「……まさか【覚醒】しているのか!」
「正解だ!!サラは【覚醒】してBランクの盗賊になった。俺達と比べると低いが誰かさんと違って十分役に立ってくれるさ。そうだろサラ?」
「はい!精一杯頑張ります!!」
誰か冗談だと言ってくれよ、俺たちは約一年もの間頑張ってきたじゃないか。そしてこれからもこのメンバーでダンジョンを制覇して、ヴォルフの夢をみんなで叶えるって約束しただろ。俺が悪いのか?そんなにも【覚醒】した職業が偉いのかよ。
「これでお前とは最後だ。これからは新生”紅の進撃”としてその名を世界に知らしめる!お前の入る隙間はこれっぽっちもない」
「…そうか、なら最後に聞かせてくれ。俺とお前の関係はなんだったんだ?」
「俺とお前の関係か?そんなもん赤の他人だよ!」
「!!!」
俺たちは子どもの頃から共に頑張ってきたじゃないか。こんな簡単に関係が崩れるほど脆かったかよ。いつからお前はそんな風に変わっちまったんだよ。だがこれ以上言ってもこいつらの意見はたぶん変わらない――だから大人しく身を引くことにした。
「……そうか、今まで世話になった」
「ああ、何処へでも行きな。これからサラの歓迎会で俺たちは忙しいからな」
「歓迎会なんて恐縮です!これからよろしくお願いします!」
「期待してるぜ。困った時はリーダーである俺を頼りな」
「あいつよりは役に立つのは間違いないな」
「分からない事は同じ女性である私に聞きなさい」
「こちらこそよろしくお願いします」
誰一人して別れの挨拶を交えることはなかった。店の出口に差し掛かり未練がましく振り返るが、誰とも目が合うことはなかった。俺は今まで何のために頑張ってきたのか誰か教えてくれ。やるせない気持ちを抱えたまま、従魔たちを待たせている小屋へと歩いた。
小屋の中に入るとサフィとノワールが駆け寄ってきて甘えてくる。その温もりが今の俺には辛かった…。従魔たちを抱き締め赤子の様に大泣きした。信頼していた仲間に裏切られこれからの人生お先真っ暗だ。まだ16歳にもかかわらず自分の未来に絶望した――――。
その瞬間俺の体が光輝いた!……だがこの光が消えるのを冷静に待ち続けた。この輝きを俺は知っている、つい最近リアも同じ光に包まれていた。この光は長年追い求めてきた―――
【覚醒】の瞬間だ。
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