13.ノワールとの約束
更新お待たせしました。本日から7時投稿に変更します。
約束の時間よりも前に起き早めに彼女を待つことにした。夕食時で多少混雑していたが、何とか席は確保できてほっとしたのも束の間、彼女が姿を現した。
「こんばんは、待たせてしまいましたか?」
「いえ今来たばかりですよ」
カップル定番のやり取りを交え照れ臭くなる。
ダンジョンでの出来事を俺が話し二人が補足する感じで、ルミアさんは終始聞き手に専念してくれた。
「とまぁ何とか制覇は出来ましたが、最後はサフィに全部持ってかれましたよ」
「ふふっサフィさんもクレト君に褒めてもらいたかったのですね」
「なっ!違うわ」
「サフィちゃん早口になってるけど図星かな?」
「……」
2対1は分が悪かったのか無言で切り抜けようとしたみたいだが表情からまる分かりだ。サフィはけっこう表情にでるから分かりやすいなぁー。
「それにしても【覚醒】の恩恵はすごいですね。クレト君もどこか変化はありましたか?」
「そうですね…意思疎通の範囲が広くなりましたね。偵察を頼んだサフィとリアルタイムで話せるのは助かりますね」
「確かに便利だったの」
気のせいか早口で会話に割り込んできたな。余程話を変えたかったのだろうか。
正確な距離はわからないが明らかに繋がっている距離が長くなった。そのおかげでダンジョン内では大助かりしたものだ。
「明日もダンジョンですか?」
「特に予定は決まっていないです」
「ちょうど明日はお休みなのでお出かけしませんか?」
「四人でですか?」
「いえクレト君とです」
つまりデートってことか!?ここで浮かれるとあとで大変な目にあいそうなので表情を引き締め、そっと二人の様子をうかがう。
「妾はよいぞ」
「私もいいよ」
おっとあっさり了承された。てっきり「ずるい」とか「妾たちも行きたい」と言われるかと思い拍子抜けだ。ルミアさんに気を使ったのか?
「いいのか?てっきりダメって言われるかと」
「妾はそこまで狭量ではないぞ?まぁ埋め合わせはしてもらうがな」
「サフィちゃんの言う通り!」
最初からそれが狙いだったのか、埋め合わせって何をするんだ?
「お二人ともありがとうございます。ではクレト君明日の9時頃に宿屋前に集合でいいですか?」
「ええ構いません。二人はその間何してる?」
「ノワールと王都観光でもしておるぞ」
「美味しいもの巡りだね!」
「…お手柔らかに頼むぞ、妾は其方と違って人並みしか食せんからの」
一度ノワールの限界を見てみたいが先に財布が尽きそうで怖い…。大食い大会とかやってれば是非参加させたいものだ。
「そろそろお開きにしますか?今度は家まで送っていきますよ」
「…いえサフィさんとお話したいことがあるので、また頼めますか?」
「よいぞ」
「……じゃあ悪いけど頼むな」
「うむ!」
まさか断られるとは―――二人きりで話したいことでもあるのだろうか。
「俺たちは部屋で休んでるからな。ルミアさんはまた明日楽しみにしています!」
「承知した」
「私もです。おやすみなさい」
見送りの挨拶をしてノワールと共に部屋へ戻りベッドに腰掛ける。ただ二人のことが気にはなって悶々とする。
「そんなに気になるの?たぶん明日には分かると思うよ」
「ノワールは何か知ってるのか?」
「ううん知らないよ?女の勘ってやつかな」
「…当てになるのか?」
女の勘とは何とも曖昧だが否定できないのも事実だ。明日分かるなら今は忘れよう。
昼寝をしたせいで眠くはないが特にすることもなくどうしたものか。
「ご主人様昼間のこと覚えてる?」
「うん?…夜まで待ってほしいってやつか」
「そうそれ!せっかくこうして二人きりなんだから、ねぇ?」
くっノワールの誘惑が半端なく、背中に撓垂れ掛かってきた。さっきまでは色気よりも食い気だったのでこのギャップはやばく手を回してきて逃げ道を塞がれた。サフィといいノワールも俺が逃げるとでも思ってるのか?……強ち間違ってはいないけどさ。
「鼓動が伝わってくるよ」
「それゃ動いてるからな」
俺は何を言ってるんだ、むしろ動いてなかったらやばいだろ!想像以上に混乱しているがノワールは待っちゃくれない。
「えい!」
「…!!」
待て待て、顔面から押し倒されるってなに?ベッドじゃなかったら顔面強打ですよ!?
「ふくがほきい」
「ごめんね。よいしょっとこれで大丈夫だね?」
確かに息は確保できたが、見つめ合う形となり別の意味で大丈夫じゃない。てか何で俺だ下なんだ?普通逆じゃね。狼だから肉食系女子ってやつなのかもしれないな……自分で言っていて意味が分からん、テンパり過ぎてるな俺。
「このまましちゃう?」
「…そういうことは大人になってからだ」
「私は大人だよ?」
以前は年齢に触れることさえ禁忌みたいだったのに、自ら大人アピールしてくるなんて女心は分からんな。
「俺がまだダメだからな?」
「…ご主人様はヘタレだよ」
グッここにきて精神攻撃とは……ヘタレの何が悪い。諦めてくれたのか馬乗りから横に移動してきた。
「サフィちゃんが帰ってくるまで待つ?それとも寝ちゃう?」
「さすがに寝てるのはどうかと思うぞ」
「フフッご主人様ならそう言うと思ってたよ」
よく分からんが試されたってことか。なんの意味があったのか理解出来ないんだが。
「昼間はサフィちゃんとキスしてたみたいだけど、私にはないの?」
「急に話を変えてきたな…。したと言うかされたと言うべきか――」
「でもおでこにはご主人様からしたよね?」
「仰る通りですね、はい」
さすがの俺でも次の言葉は予想できる。私もおでこにしてと―――
「私はここに欲しいな」
おかしい…想像の斜め上だ。こことはどこって誤魔化したいが、人差し指であざとく唇に手を当てる姿を見て、そんなセリフは吹き飛んでしまいなんちゅうかわいいさだよ、普段はのほほんとして食べることに一生懸命なのにこういう姿を見ると、やっぱり女の子だと思い知らされる。
だからと言って自分からするのは恥ずかしい。これがヘタレの原因か?世の男性はかっこよくするのか、いや待てよかっこいいやり方ってどうやるんだ?昔読んだ物語にキスシーンがあったような……思い出せ!
―――あれはたしか……顎に手をあてくいっと上に向けさせ、互いに見つめてから―――唇を奪う。
「…これでもうヘタレとは呼べまい」
「えへへご主人様の初めて奪っちゃた」
「そうだけどそうじゃない!」
「ご主人様からしたのは初めてでしょ?」
「……言われてみれば確かにそうだな」
ルミアさんの時は彼女からでサフィの時もそうだったし、今回はおでこではないので初めてではあるか。変に意識したせいか顔が熱を帯び始める。
「顔が真っ赤だね!」
「ノワールもだけどな」
「…ッ!デリカシーがないんだから…」
恥ずかしかったのか胸元に顔を隠すようにして抱きついてきた。しばし静寂が流れるが心地好いとさえ感じた。
やがて満足したのか抱く力が弱まり改めて見つめ合う形となった。
「私はご主人様と出会えて本当に良かったよ。あの時は敵意剥き出しだったのに、私のことを見捨てないでくれてありがとう。大好きだよご主人様」
まぁノワールとの出会いはいいものではなかったからな。こうして一緒になるとは夢にも思わず人生何が起きるかわかったものではない。
上目遣いで訴えかけてきたので、目を閉じ先程よりも長く二人を繋ぎとめた。