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閑話:紅の進撃③

今回は少し短めです。

 いつものお店に戻った紅の進撃のメンバーたちはヴォルフを問い詰めていた。


「早速言い訳でも聞かせてもらおうか」

「単純に荷物持ちがいなくなったから、それの穴を埋めるために買った。借金したのは悪かったが、今までの稼ぎならすぐに返せる額だと思ったんだ」

「なんもわかってねぇな!俺たちが言いたいのは、黙って買ったことだ!!」

「そうよ!買ったことに文句はない…わけではないけど、それを黙って買ったことに対して怒ってるの」

「どうして相談されなかったのですか?」


 問い詰められ、ぽつぽつとその経緯を語りだす。

 彼がアイテムバッグを買えたのはたまたま商人から声をかけられたからであった。最初は胡散臭いと思っていたヴォルフだったが、さすがは商人と言うべきか巧みな話術で徐々に興味を惹かれていった。

 商人は情報に(さと)いものだ。紅の進撃も隠そうとしていなかったので、クレトが追放されそうになる話を掴んでいた。そこに目を付けたとある商人はチャンスと言わんばかりにヴォルフに近づき、アイテムバッグを高値で吹っ掛けた。


 クレトに雑用をすべて押し付けていたヴォルフにそれを見抜くことが出来ず、逆にクレトの代わりになるアイテムを発見し、大手柄だと思い込んだヴォルフは誰にも相談することなくまんまとその話に乗ってしまったのだ。その後彼を追放したのだ。


 その発言にパーティーメンバーの三人は納得したような表情を見せる。誰一人としてその判断に疑問を持つ者はいなかったようであった。

 ただサラだけはどこか別のことを考えているように見えた。



「理由はわかったけどよー、結局それを使い続けるのか?」

「保存食なんてごめんよ。リアかサラは料理覚える気ない?」

「私には料理の才能がありません…」

「私も一朝一夕では無理です。それに材料が増えると、その分他の荷物を削ることになります」


 しかし彼らにはアイテムバッグは合わなかった。これまで当たり前のように食べていたものが、急に食べられなくなるなどプライドの高い彼らに受け入れるなど無理な話だ。

 ならばどうするか?


「ならもう売っちまおうぜ。俺たちには必要ない」

「ですが私としては運ぶ負担が減って助かります…」


 アイテムバッグをすぐに売ろうとするなど、普通のパーティーなら考えられないだろう。しかしクレトの恩恵を十二分に受けていた彼らには、下位互換であるそれは魅力的に感じなかったのだ。まさに贅沢な悩みと言える。


「すぐに売るくらいでしたらお金を稼いでからでもよくないですか?」

「たしかにリアの意見も有りかもね」

「なるほど…まぁ売るのはいつでもできるか」


 アルフレッドの意見が変わり売ることは一旦保留となった。


「勝手に買って悪かった…」

「次はねぇならな!してこれからどうするよ?」


 形式上は自分の非を認めて謝ったヴォルフではあったが、内心どう思ってるかは推し量れるくらいに不服そうな顔をしていた。


「私に提案があります」

「何だ?」


 そして空気を変えるかのように再びサラが提案を行った。前回のことがあるのでアルフレッドは少し身構えてしまう。一方でヴォルフも前回のように尖った言い方ではなかった。むしろ縋るような眼をしており、現状を良い方向に変えてくれるのであれば助かるといった心境だった。


「借金返済したら王都周辺にあるSランクダンジョンに行きませんか?スペーイドダンジョンに比べれば1階層毎の広さは少なく、未制覇ダンジョンなので制覇できれば富と名声が約束されます」


 そして彼女がもたらした案は何とも言えないものであった。せっかく45階層まで来ているのにここで諦めるのかと思う一方で、未制覇ダンジョンの制覇という言葉はひどく魅力的に聞こえた。


「それにスペーイドダンジョンには罠の類がなく、私の出番がありませんから」

「ここで攻略を断念するのは惜しいけど悪くはないんじゃないかしら?」

「俺もいいぜ!」

「私も異論はありません」


 皆一様にその提案にのった。目先の制覇よりも未制覇ダンジョンを制覇した時のことを考えていたのだ。自分たちならできると思い込んで―――まんまとサラの思惑に嵌まってしまった。


(よくもこんなのでAランクパーティーになれたもんですね…)


 しかしこのまま抜けるのももったいないと思っていたサラは、とある作戦を思いつきそれを実行することにした。未制覇ダンジョンはほとんど攻略情報がほんどない。この泥船(パーティー)で手探りに攻略していくなど天地がひっくり返っても不可能であるとサラは確信していた。餌としてぶら下げられた富と名声を前に、何の疑いもなっく飛びついた”紅の進撃”はそう遠くない未来に王都へ向けて出発する。


 そしてその時こそ”紅の進撃”の最期の時になるとは知らずに…。

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