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閑話:紅の進撃②

 アルフレッドの意見は無視され彼らは攻略を開始することになったが、どこに進めばいいかわからない状況だった。


「とりあえず偵察を頼めるか?」

「できる範囲でしてきます」


 46階層は広大な草原エリアである。見晴らしはいいが、道などなくどこに向かえばいいのかわからず目印になるものが乏しい。幸いなことにコンパスは働くので道に迷うことはない。

 程無くサラが戻ってきたが表情は優れなかった。


「やはり周囲は草原ばかりでどの方角が正しいルートなのか分かりません」

「そうか……」


 どうするかヴォルフが考えるがいい案が思いつかない。地図を買うしかないのかと思い始めているが、彼らにはいや彼のせいで金銭的余裕がない。なぜなら―――。


「とりあえず飯にしないか?腹が減ってはなんちゃらだ」

「それを言うなら腹が減っては戦はできぬでしょ?でもたしかにその通りね。食料には余裕があるのかしら?」

「あぁ一週間分くらいは買い込んである」

「なら食事にしましょう!」


(腹が膨れればいい案がでてくるかもな)


 打算的な思考だったが現に彼もお腹は空いていた。レッドリオからダンジョンまでは馬車で一時間程かかる。昼には早いがダメと言うこともないので、彼がアイテムバックから食事を出すことにしたがそこで問題が発生した…。


「おいそれ大丈夫か?」

「あ?大丈夫ってどう…い……う…」


 最後まで言葉を発せず料理を凝視する。それは彼が一週間以上も前に買ったパンだった。だが買った時には見られなかったカビがある。

 通常一週間程度でカビは発生しないが温度や湿度によって変化する。彼はアイテムバックが時間経過しないと思い込んでおり、まだ熱い料理をそのまま入れていた。中は密閉で湿度が高くなりカビが発生しやすくなっていた。


「はぁ!?なんでカビが生えてるんだ…。まさか買った時に……いやそんなはずはない」

「大変言いにくいのですが、アイテムバックは時間経過しますよ…?」

「そんなはずあるか!!!Fランクのスキルは時間経過してなかったぞ!しかもこれを買うのに大枚を(はた)いたんだ」

「では彼が持っていたスキルはアイテムボックスだったんですね。Fランクにしては破格のスキルです!」


 サラだけは違いを理解していたが他の四人はそうではなかった。むしろ彼を誉めるニュアンスが含まれていたが誰も気づいていなかった。


「どういう意味かしら?」

「ええとですね…アイテムボックスは容量無限で時間経過しません。しかしアイテムバックは容量に限界があり通常通りに時間経過します」

「では何故アイテムバックは高いのですか?」


 ミランダはいち早く疑問を投げ掛けリアがさらに聞き返した。リアも知らなかった事実だったが、彼が大枚を叩いたと言っていたのを思い出し何故そんなものが高いのかと疑問に思った。


「それは単純に荷物が減るからのと、高難易度ダンジョンでしかドロップしないからです。私たち盗賊にとっては身軽になれますしいざという時に打てる手が増えます。特に商人にとっては喉から手が出る程に欲しがります。何たって一度の移動で多くのものが運べるのはそれだけで利益につながりますから!」


 興奮気味に話すサラを初めて見てそれ程までに価値のある物かと思ってくるメンバーたち。しかしまた新たな疑問が生まれる。


「じゃあ何でFランクのテイマー如きがそんなすげースキルを持ってるんだ?」

「多くの説がありますが、ずばりテイマーだからです」


 聞いたアルフレッドだけでなく誰も理解できなかった…。


「つまりどういうことですか?」

「あっすみません。要するにテイマーとはテイムした魔物――所謂従魔が全てと言っても過言ではありませんがその従魔も我々人間と同じ、いやそれ以上に多くの食べ物が必要です。しかも従魔が増えれば必然的に食べ物は増えますが非力なテイマーは多くの食べ物を持って移動など出来ません。なので通常はアイテムバックと同じ効果があるストレージスキルを所持していますが、中にはストレージの上位スキルであるアイテムボックスを持っている人もいます」

「……テイマーよりも商人の方が向いていませんか?」

「いえ商人になるのは簡単なことではないです。計算は勿論のこと価格変動を常に気にする必要があり、何が流行るかを見極める目がいります。あとはいかに利益を出すかなど腹の探りをしなくてはならず、安易に商人になると破滅が待っています」


 驚愕の事実に一同絶句した。彼らは当たり前のようにテイマーである彼の恩恵を受けていたが、それはとても恵まれていたことだと知らされた。しかし彼らはそれが当たり前だったので、それより劣る状況が受け入れられない。


「じゃあこれからダンジョンで泊まり込みをする時は、冷めた料理しか食べられないって言うの!?」

「一般的には携帯食料か材料を持ち運んでその場で調理します」


 携帯食料なんてまずいものは彼らの舌が受け付けないだろう。しかし冒険者予備校に通った人ならば誰しもが一度は口にしている……いや正しくは口にさせられただ。ダンジョンでの食事についての講習で毎回行られるもので誰もがまずいと感じ、中には吐き出すものもいる。では何故こんな不味いものがあるのかと言うと長期保存に適しているのがこれしかなく、味の改良をしようとすると保存期間が短くなる。だから早めのうちに慣れさせておくために食べさせられるのだ。

 そんな苦い思い出が甦ったのか渋い表情で尚も疑問を口にする。


「ではSランクの方々はどうされているのですか?」

「時間経過しないアイテムバックを買うか、アイテムボックス持ちの人をパーティーに入れるか、そもそもダンジョンで寝泊まりしないですね。Sランクともなれば買うことは出来ますし、毎回転移ポイントで帰還すれば食事の心配はしなくて済みますがその分攻略速度が落ちます」

「俺たちに買う余裕はあるのか?」


 これまで何も話さなかった、いや話すことができないでいた彼に問いかける。しかし彼は茫然自失した様に立っているだけだったが、内心では怒りが爆発していた。


(これを買うのにいくらしたと思っている!それなのにFランク如きのスキルよりも下だと!?ふざけんじゃねー、そんなこと認められるかよ)


「おい聞いてんのか!」

「無理に決まってんだろうが!これを買うのでさえ借金したんだぞ!!」

「…借金ってどういうことよ!!私たちのお金を全部それに使ったっていうの!?」


 あまりの苛立ちでつい口に出してしまったが、彼はパーティーのお金を全て使っても足りない買い物をしていたのだ。クレトがいた頃は彼に買い出しをさせるためにある程度のお金は彼が管理していたが、今はヴォルフが全額管理していた。パーティー資金は主にダンジョンで使うポーションや地図など、パーティー全体で必要となる物を買うために貯蓄しているものだった。勝手に使うことは許されていなかったし、まして信用して彼に預けていたのに使い果たすとは想像もしてなかっただろう。


「とりあえず帰るぞ。碌に飯も食えないじゃここにいても仕方ねぇー。街に着いたらしっかり話してもらうからな!」

「あぁ…わかった」


 ダンジョン攻略を意気込んでいたものの結局何も得るものがなく彼らは帰還していった。後に残ったものは風に揺れる草だけで、まるで彼らを嘲笑っているかのようだった。

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