閑話:紅の進撃①
本日2話目です。
クレトたちがクロキスダンジョンを制覇した一方で、ヴォルフたち紅の進撃はというと……未だに46階層を攻略出来ずにいた。
40階層で連携の確認をとるといってすぐに帰ってきた翌日、彼らは45階層にいた。サラをパーティーに加えたが魔物と戦っていなかったので、それを確かめるために来ていたのだが――。
「ちょっとうろちょろしないでよ!狙いが定まらないじゃない」
「あまり怪我されますと、途中で魔力切れになりそうです…。ポーションを飲めば何とかなりますが、毎回使うとけっこうな額になりそうです」
アルフレッドは今まで守備メインだったので、倒す役目は近距離のヴォルフと遠距離のミランダだった。守る人間がいなくなったおかげで、アルフレッドは攻撃に参加するようになった。これまでミランダはヴォルフに当てないように注意していたが、今度はアルフレッドにも注意しないといけなくなった。しかも彼の戦闘は見なれてないので、次にどう動くか予測がつかず魔法の発動タイミングが思うように定まらずイライラを募らせていた。
一方リアは負担が増えていた。こちらもミランダと同様で、攻撃に参加する人数が増えたことにより怪我の回数が増えたのだ。何と言っても連携がとれてないのでお互いの動きが合わないのだ。つまり1対2の状況が、1対1対1になっているのだ。従って怪我をする回数が増えておりサラもよく怪我している。偵察で動き回りアルフレッドが攻撃に参加したので自分の身は自分で守るしかない。だがBランクの彼女にAランクの魔物は荷が重く、怪我につながっている。
とそこに新たな魔物が現れた。
「チッ、なら今日はこいつを倒して引き上げるぞ」
「しゃねーな」
彼らが対峙してるのはAランクのグリフォンだ。遠距離攻撃はミランダしかもっておらず、辛うじてヴォルフが斬撃を飛ばせるくらいで相性が悪かった。もしクレトの従魔であるサフィがいれば、状況は大きく違っていただろう。グリフォンが彼らに攻撃を仕掛ける時こそが倒すチャンスである。空を飛んでいる魔物は落としてさえしまえばこちらが有利になる。そう落とせれば―――。
結局時間だけが過ぎ、決定打が決まらずそのまま逃げ帰ってしまった。お世辞にもAランクパーティーとは言えない戦いであった。
ダンジョンから帰還していつものお店に集まってはいるが空気は重い。それもそのはずクレトを追放したのにもかかわらずまだ1階層も攻略が出来ていなかった。
「いつになったら次の階層にいけるんだ!」
口火を切ったのはリーダーであるヴォルフだった。思うように攻略が進まず彼は苛立っていた。
「全くだよ。ちゃんと後方支援をしてくれよな」
「私たちが悪いっていうの!?そっちこそ魔物の前をちょろちょろと鬱陶しいのよ!そんなにも私の魔法を当てて欲しいわけ?」
「てめぇの狙いが甘いだけだろ!」
同調するようにアルフレッドも言葉をかけるが堪らずミランダは反論する。お互いにうまいくいかずストレスがたまる一方で、鬱憤を晴らすかの様に仲間に当たっている。つまるところパーティーの雰囲気は最悪で特に新入りのサラは肩身が狭い。
「アルフレッドさん、さすがに言い過ぎでは…」
「ミランダさんも少し落ち着きましょう」
サラとリアが止めに入るがリアも苛立ちはあった。さすがにまずいと思ったサラが恐る恐る手を上げ皆の注目を集める。
「あのー、一つ提案があります…」
「何だ?」
たった一言だが下らない事だと容赦しないぞと視線が語っていた。怯みそうになるが気合いをいれ言葉は発する。
「これまで通りの戦い方をしませんか?」
「どういう意味だ?」
「ええと、ヴォルフさんが前衛でアルフレッドさんが後衛に戻ってはどうかと…。私がいない頃はそれでうまくいっていたのですよね?」
「俺は反対だ。守るのがどれだけしんどいのかお前には分からないから、そんなことが言えるんだよ!」
アルフレッドは即座に否定したが、ヴォルフはそうでもはなかった。むしろ肯定的にさえ捉えていた。
「待てアルフレッド。サラの意見は一理ある」
「私もその提案には賛成よ」
このままでは自分が不利だと思いリアに視線を向けたがそっと逸らされた。つまりは彼女も賛成側なのだろう。
「アルフレッドには悪いが今のままだと制覇は夢のまた夢だ。一度それを試してうまく行かなければまた考えよう」
「…チッ分かった。今回だけだからな」
味方が誰もいないため渋々引き受けることにしたが、その表情は明らかに納得してはいなかった…。
翌日、再び彼らは46階層に来ていた。
「戦闘は一度だけやってその後はすぐに街へ戻る。サラは魔物を見つけてきてくれ」
「あぁ分かった」
「わかりました」
そして彼女が見つけてきたのは前回苦戦したグリフォンだった。だが比較するのにはうってつけでサラはそれを狙ってグリフォンを見つけてきたのだ。これで結果がでれば攻略が順調に行くという狙いがあった。
「アルフレッドは防御メインで俺が奴らを引き付ける。ミランダは翼を狙って地上に落とせ」
「チッわーたっよ」
「任せなさい!」
「リアは俺かアルフレッドが怪我したら回復を、サラは周囲の警戒だ」
「分かりました」
「はい」
ここだけみればパーティーとして機能している様に見えるが、内心不満だらけである。
ヴォルフは自分よりもランクの低い魔物に苦戦しているのが信じられないでいた。これまでは苦戦などしてこないで倒してきた。なのにクレトを追放した途端に苦戦とはまるで自分が彼より劣っているみたいではと思い、さらに苛立ちが増していた。
アルフレッドに至っては嫌々従っている。本来はもっと攻撃に参加したいと思っている。しかし彼の技量では足手まといになるのだが、当の本人はそのことに気づいていない。
彼が攻撃参加にこだわるのはそれが格好いいと思ってるからである。魔物に勇敢に立ち向かい切り伏せる、正に彼が憧れる勇者の姿だった。
だが前回の戦闘が嘘の様にあっさりと倒すことに成功した。拍子抜けするほどあっさりと終わりサラ以外は驚いていた。
「こうも簡単に行くとはな…」
「………」
「魔法が当たるとスカッとするわね」
アルフレッドだけは納得いかなかった。ずばり自分が足を引っ張っていたことが証明される形になったのだから…。
「このまま攻略を進めますか?この調子でしたら余裕を持って支援できそうです」
「ですが私は何の準備もしていません…」
順調にいったのだからこのまま攻略をとリアは進言した。しかしそれに待ったをかけたのはサラだった。サラは偵察以外は大きなリュックを背負っていて、中にはダンジョンに必要なものが入っているが泊まるためのテントはおろか一泊分の食事すらなかった。攻略予定ではなかったので、必要最低限のポーションや予備の武器が入ってるだけだった。
しかし思わぬ援護射撃があった。
「それなら俺が準備してある。実はクレトを追放することを決めた時にアイテムバックを買っていた。この中には数日分の食料や泊まるために必要な物は揃っている」
「気が利くじゃない!ならこのまま行きましょう」
「ちょっと待てよ。地図もなく攻略って大丈夫なのか?」
いつの間に準備していたのか、そもそもいつ買ったのかさえ誰も知らなかった。ただ便利な物を買って攻略が捗ることしか考えておらず、値段や性能については考えていなかった………サラを除いては――。前回の従魔の件からサラはこのパーティーに疑問を持ち始めるようになっていた…。
そして意外にも冷静な判断ができていたのはアルフレッドだった。サラの実力では広大な46階層を調べ上げるのは無理だった。しかし彼の本心はただこのまま防御メインでいくのが嫌なだけであった。一旦街に戻り、どうにか自分が攻撃に参加できないかを考えたかったのだ。
だが悲しきかな。パーティーは多数決で意見が決まることが多く、少数派である彼の意見は却下された。
しかし今回ばかりは彼の意見が正しかった。残念ながら彼らはこの後すぐに街へ戻ることを余儀なくされ、自信に満ち溢れていたヴォルフは後悔することとなる。