9.告白
翌朝目に飛び込んできたのは天使の寝顔だった。…これは夢?たしか…昨日はサフィと寝たのだったな。幸せそうな寝顔で起こすのが躊躇われるけど、此方を何とも言えない表情で見つめる眼差しに、起こすことを余儀無くされる。
「そんな顔をするな、今夜はノワールと一緒だ」
「言質取ったからね!」
寝惚けていたせいかノワールの頭から項垂れた耳を幻視し、軽はずみに約束してしまった。はぁこれで今夜も激闘待ったなし。
「サフィ朝だ起きろよ」
「…おはよう主」
「おはよう。顔を洗ったら下で朝食を食べようか」
朝食時に今日の予定を話し合い、二人はギルドの2階にある資料室でCランクダンジョンについての情報収集。アイテムボックスを持っている俺は食料やポーション、他に必要になりそうな物の購入をするため二手に別れた。
ついでに二人にはルミアさんへの伝言を頼んだ。昼食は皆で集まって報告会をする予定なので、そこに彼女も参加してもらいたい。Cランクダンジョンは複数あるので、どれを制覇するかを集めた情報と照らし合わせて決める必要があり、一つでも制覇すればBランクダンジョンへの攻略資格が得られ、冒険者ランクがCランクへと一気に上がる。
ダンジョン以外では主に森や草原での魔物討伐、薬草採取などでもランクは上がるが、ダンジョン制覇と比べると遅く、その上Cランクまでしか昇格できない。良くも悪くもダンジョンが全てなので、Bランク以上からは制覇が必須と言える。
どうせ買うなら美味しいものをと思い、宿屋の人にオススメを聞いて数多くの食事を買い揃えつつ王都の流行や物価など教えてもらった。
ポーション系は体力回復と傷を治す回復薬をメインに買った。二人は魔法は使えないはずだけど、何かの役に立つかと思って数本魔力回復薬も買っておいた。
その後は雑貨屋を巡って必要な物を買い揃え、ギルドへと足を運ぶ。
ギルド内は相変わらず人が多いけど気にせず2階へと上がる。資料室内のみだけの閲覧は手狭になるので、2階のフロア内であれば持ち出し可になっており、机が並んでいる中の一つに座る。先客で三人の女性が座っていたので周囲の視線が刺さる。だがここは話し合いの場としても使われるので、各机には防音の魔道具が置かれている。
「お待たせ。ルミアさんも急にすみません」
「ちょうど休憩時間でしたので大丈夫ですよ」
「それじゃあいつも通り、食べながら話を進めようか」
「妾から説明するぞ。Cランクダンジョンはキャビル、カルビエ、クロキスの3つじゃ。キャビルとカルビエは全15階層でクロキスは全20階層で構成されておる」
クロキスだけ階層が多いのか。
「続けるぞ。どのダンジョンも順調に攻略すれば5日~7日程で制覇できるが妾のオススメはクロキスダンジョンじゃ」
「うん?一番階層が多いのにか?」
「クロキスは階層が多い反面罠が全くないダンジョンじゃ。メンバーで罠感知できるのは主とノワールじゃが技量が高くないと解除に時間がかかる。故に魔物だけ倒せばなんとかなるクロキスがいいのじゃ」
なるほどな。俺の罠感知や解除はお世辞にも高いとは言えない。高難易度ダンジョンでは発見すら困難だろう。
「地図は売ってたか?」
「制覇済みかつ低難易度じゃからか、無料で配布されておる。しかもドロップするものはあまり良くないときた」
「タダなのは有難いな。目ぼしいドロップ品だけ回収して、最短コースで制覇するか」
「魔物のレベルもCランクまでじゃから妾たちで余裕ぞ」
「ならあとは移動手段だけど話は聞いてるよな?」
ルミアさんは攻略に参加しないから抜きにして、ノワールはひたすら食べている。説明役は全てサフィに任せているが、ちゃんと頭に入っていないと困るぞ。
「もぐもぐ……ちゃんと聞いてるから大丈夫だよ!また私が二人を乗せて行くよ!」
「そうか、なら移動はノワールに任せて魔物の相手は俺とサフィで受け持とう」
「妾が最短コースを調べておく故主はルミアと話をしておれ」
「ありがとうサフィ」
サフィには頭が下がるよ。ノワールも食べてばかりいないで、手伝ってくれたらなぁ。
「昨日の件ですが、俺もルミアさんのことは好きです。でもサフィとノワールのことも好きです。今までは従魔という存在で家族の様に接してきましたが、人の姿となり人の言葉を喋る彼女たちには家族愛よりも、一人の女性として好きな気持ちが高まりました」
「クレト君たちを見てればわかります。大事にされてるしお互いに愛情を持って接してる。最初は羨ましいと思ってました」
「だからルミアさんだけを愛することはできません。俺は三人とも好きです。屑みたいなこと言ってますが、序列をつけるのは無理です…」
人の告白に対して、他の女を愛してるけどお前も愛するなんて自分勝手過ぎるのは十分承知だ。でもこれが俺の本心で一人だけ選ぶなんて不可能だ。
「つまりは三人となら付き合えて、結婚できるってことですか?」
「…そういうことですね」
「すごい失礼なことを言ってる自覚はありますか?一夫多妻の大半は貴族で、平民では極僅かしかいません。何故だかわかりますか?」
「失礼は承知で四人で暮らしていけるだけのお金は稼ぐつもりです。さらに勝手なお願いですが、俺たちがスクディンダンジョンを制覇するまで待ってほしいです。自分に自信をつけて三人に釣り合う男になってみせます」
「惚れたら負けとはこの事なのでしょう…。独占できないのは残念ですが、サフィさんとノワールさんでは私も認めざるを得ないです」
平民で一夫多妻なんてしてたら破産するのが目に見えている。だけどダンジョン制覇をすれば一攫千金は夢ではない。博打を打つみたいで気が引けるけど、これが一番現実的だ。死んだら元も子もないけど…。
「それはOKてことですか…?」
「はい、ですがあまり待たせないで下さいね?お二人も一緒にクレト君を支えていく家族としてよろしくお願いします」
「よろしく頼むぞルミアよ」
「よろしくねルミアちゃん!」
てっきり断られると思っていた。さすがの俺もこんな条件を飲んでくれると思う程自惚れてはいない。
「真面目なクレト君にしては悩んだのではありませんか?」
「えぇ…それゃあ悩みますよ。好きな人が三人もいるなんて、付き合う前から浮気しますって言ってる様なものじゃないですか…」
「これ以上増えたら困りますけどね」
暗に増やすなってことですね、フラグじゃないですよね?
「今は宿屋暮らしですけど、お金を貯めたら家を買いたいですね。そのためにもランク上げを頑張ります!」
「クレト君ならできる、何てわかった様なことを言うつもりはありません。誰もなし得なかったことをするのです。相応の覚悟が必要だと思いますが必ず帰ってきて下さいね」
「もちろんです!ルミアさんを幸せにしてみせます」
今まで以上に気を引き締めて頑張ろう!もう俺一人だけの人生ではないのだから。
「休日に私ともデートはして下さいね?ではそろそろ休憩が終わりますので、ダンジョン攻略頑張って下さい」
「分かりました。数日は泊まり込みで制覇してきます」
「皆さんお気をつけて」
ノワールの移動速度を考えれば3日程で制覇はできると思うが、魔物との遭遇率次第では多少前後する。
「此方も終わったぞ。特に複雑な道はなかったぞ」
「早かったな。休憩を挟んだら行くか」
クロキスダンジョンは王都から馬車で数時間の距離にあるが、ノワールにかかれば一時間くらいで着くはずだ。
"蒼黒の絆"として初めてのダンジョン攻略になるわけで、ここからが俺の――――俺たちの新しい一歩だ!
ハーレム展開は好き好きがあると思いますが、この様な形で書かせてもらいました。
良かったら評価、感想お願いします。
執筆の励みになります。