8.三人からの好意
「……あ…じ」
「ご………さ……」
んーなんだ?……どうやら横になっていたら寝てしまったのか。
「おはよう…悪い寝てた。話は終わったのか?」
「あぁ色々と話すことができたぞ。何でもルミアが主に話したいことがあるそうじゃ」
「何だ?とりあえず下まで降りるよ」
「その必要はない。外で待機しておる、ノワール呼んでもらえるか?」
「は~い!」
「…急にごめんなさい。どうしても今話しておきたいことがあったの」
部屋の外にいたのかすぐに入ってきた。二人は内容を知っているのか、温かい目でこちらを見ている様に感じる。
「サフィさんとノワールさんからクレト君の経緯を勝手ながら聞かせてもらいました。私が聞き出したことなので、二人を責めないで下さい。……あの時は何も言わずにいなくなってごめんなさい」
「ルミアさんが謝らないで下さい!辛いことや苦しいことはありましたが、サフィとノワールのおかげで今は楽しい日々を送っていますので」
「本当は私が支えてあげたかった。でもあの時は自分のことを優先してしまいました。過去の分を取り戻す意味も含めて、これからはクレト君を助けていきたいです……これはその決意です」
「…ッ?!」
辛い思いをしているのは自分だけだと勘違いしていたけどルミアさんも心の中では抱えて込んでいたみたいだ。お互い過去のことを忘れる、とまではいかないが再出発のいい機会だと思う。
決意…?何か宣言するのかと思ったら急に近づいてきて、何事かと身構えると唇に柔らかいものが触れた…。
「…まんまと先を越されてしもうたな」
「まだ私もしてないのに!」
「ふふっいつも一緒にはいれませんので、これで一歩リードさせてもらいます」
「ガルルッ…」
「こんなところで狼になるでない!」
「この目で見ても信じられない光景ですね。いえ信じてなかったわけではないのですが、本当に人間ではないのですね」
まさかルミアさんとキ、キスをしたのか!?一瞬だったので分からなかったが決意で口づけとはどういう意味だ?まさか、いや、でも――
「主も早く正気に戻るのじゃ」
「大丈夫だ。俺は大丈夫だ」
「はぁー全くとんだ女狐じゃな。妾たちもうかうかしておれんの」
「いいもん。私はご主人様からしてもらうから!」
「私は今でもクレト君のことが好きです。今度は居なくならないし、クレト君が困っていたら助けるから覚悟しておいてね!」
俺もルミアさんのことは好きだけど、それは人としてであって異性としては考えたこともなかった。あの頃は自分のことで精一杯だったけど今はどうだ?ルミアさんは二人とはまた違った魅力的な女性で、外見だけでなく中身もそうだ。意識した途端顔が赤くなってるのがわかる。思考もオーバーヒート気味だ。
「少しやり過ぎましたか?明日も仕事がありますので私はこの辺で失礼させていただきます」
「主……はまだ固まっておるか。仕方ない妾が家まで送ってくぞ。ノワールは主が再起次第、説明してやるのじゃ」
「…分かった」
「サフィさんありがとうございます」
(ノワールもまだまだ子どもじゃな。妾より長生きしてるわりに色恋はてんで弱いと見える。じゃが今回はルミアが一枚上手だったの。妾も積極的になるべきか?)
「あれ?ノワールだけか?」
「遅いよ!もうルミアちゃんは帰って、ご主人様の代わりにサフィちゃんが家まで送っていってるよ」
「すまない…急なことでパニックになっていた」
「そんなんだからルミアちゃんに先越されるんだよ!」
「返す言葉もありません…」
誰だってあの場面では驚くだろう。思い返すとまた顔が火照ってくるが、返事をしていないことに気づく。サフィが戻るまでノワールのご機嫌をとろう……断じて先送りではない。
ノワールの頭を膝に乗せて撫で続けているとサフィが帰って来た。
「お帰りサフィ。俺の代わりにありがとうな」
「…添い寝で許してやろう」
「わ、わかった。ノワール起きろ」
「う~ん…あれ?私寝ちゃてた!?あまりの気持ち良さに……ってサフィちゃんこれはその、抜け駆けじゃないから!」
「まぁよい、主よさっきの言葉忘れるでないぞ」
「大丈夫だ問題ない」
実際は問題大有りだけど、サフィに損な役割を任せた俺が悪いので甘んじて受けるが、別の意味で心配だ。
三人で話を擦り合わせると、ルミアさんは当時のことを気にしていて、ガールズトークの時に吹っ切れてあの行動に出たらしい。それよりも二人が自ら正体を明かしたことに驚き、彼女を信頼してくれたのだろうか?
「これから共に過ごすのじゃから問題あるまい」
「サフィの中では確定事項なの?」
「この国は一夫多妻でも大丈夫じゃろ?妾たちを蔑ろにせねば、じゃがな」
「彼女からは悪い匂いがしないからいいけど…油断ならないよ」
匂いで判断できるなんて初耳だ……狼ならできるのか?にしても一夫多妻って俺に三人を幸せにできるのか、そもそも二人は俺のことを主人としてでなく男としても好きってことか?自分で言うと気持ち悪いな。
「今は三人を養う余裕もなければ住む家もない。俺がもっと立派な人間になってからじゃないと不可能だ」
「ならば何か目標を決めたらどうじゃ?」
目標か、そうだな……よし!
「決めたぞ!俺一人の目標ではないけど、俺たちでスクディンダンジョンの制覇をしよう!最初は無謀だと思っていたけど、それくらいできてこそ真の男だ!!」
「悪くはないの。妾たちだけでなく主にも頑張ってもらわんとな」
「私も頑張るよ!」
今の俺たちはSランクはおろかAランクダンジョンでさえ、攻略条件に達してないのでCランクダンジョンの制覇から順に達成していく必要がある。具体的な目標が決まるとやる気も高まってくる。
ルミアさんには明日伝えて、告白の件は勝手だけど待ってもらう。明日からはダンジョン制覇に向けて、必要な道具や情報収集を行って一日でも早く達成できるように頑張ろう。
不確かな覚醒条件を探すよりもよっぽど楽に思えてくる。
「明日からは忙しくなるけど、これからもよろしく頼む」
「任せるのじゃ」
「任せて!」
この三人ならどんな困難にでも立ち向かえると確信を持って言える。
明日からも頑張るため一日の疲れをお風呂でとり寝ることにした。
「主よ忘れていないか?」
「うん?……忘れてないよ」
「本当か?まぁよい、約束は守ってもらうぞ」
「約束ってな~に?」
「妾だけ主から何もされてないからの。ノワールはさっきしてもらったから次は妾の番じゃ」
すっかり忘れてた、何て言えるわけもなくサフィが潜り込んできた。風呂上がりのせいかいい匂いがする…。
俺の理性には頑張ってもらうとしよう。なーにダンジョン制覇に比べれば何てことはない……はずだ。
「くっつき過ぎだ!当たってるから!」
「ベッドが狭いからじゃ。それにこれは妾のご褒美じゃぞ?主は妾をもっと労うのじゃ!」
「いいなぁ…サフィちゃん明日は交代してほしいな」
「よいぞ。むしろ一日交代ならば平等ぞ!」
「ナイスアイディア!じゃあおやすみなさい!」
俺の平穏は何処へあるのか……未来の俺よ頑張ってくれ。今夜はサフィを抱き締めながら眠りに就く……ことなどできず一人敵と闘い、激闘は寝落ちという結果で終わりを告げた――。
ここまでゆっくり進む予定ではなかったのですが…。次話からはダンジョン絡みの話になる予定です。
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