7.話し合い
後半はルミア視点になります。閑話としては短いので本編と混ぜての投稿にしました。
昼過ぎから出掛けた買い物は、辺りが暗くなり始めた頃ようやく終わりを迎えた…。まさか女性の服選びがここまでかかるとは想定外だった。それなのに結局はメイド服を着ている。曰く買った服はプライベートやここぞという時に着るらしい。
ルミアさんに時間指定をし忘れていたので、彼女が来るまで夕食は待つことにしたが一人駄々をこねたので軽食を渡してやった。俺とサフィは果汁水だけ飲んでいる。
「遅くなりました…。わざわざ待ってもらってすみません」
「こちらが誘ったので待つのは当然ですよ。お仕事お疲れ様です、適当に頼みますのでつまみながら話しましょう」
「わかりました」
待ち時間にも考えてはいたけど、時間だけが過ぎ結局何を話せばいいのか決まってない。二人は遠慮してるのか口を開くことはなかったので、一番気になっていたことを聞いてみる。
「そのー、ルミアさんはどうして急な移動になったんですか?」
「あの頃はごめんなさい。ギルドマスターにしか移動を告げていなかったの。言いにくいことだけど…そのヴォルフ君がしつこく迫ってきたからなの」
「それなら断ればすんだ話じゃないですが?」
「私だって最初は断ったよ!でも「どうしてダメなんですか?」、「俺のどこが嫌なんですか?」ってすごい剣幕で言い寄ってくるから…」
そんなことが起きていたとは知らなかった。ましてヴォルフがルミアさんを好きだったことも初耳だ。美人で別け隔てなく接する彼女は魅力的だと思うが、振られて尚言い寄るとは相当だ。
「何と答えたんですか…?」
「それは…その……好きな人がいるからと…」
「ルミアさんは好きな人に想いを伝えなかったんですか?さすがのヴォルフも恋人になった人は諦めると思いますが…」
若干顔が赤く見えるのがお酒でも飲んだのかな?もしかしてずっと片思い中だったりするのか。
「デリカシーが無さすぎじゃ」
「…すみません。プライベートに首を突っ込み過ぎました」
「クレト君が謝ることはないわ。私は想いを伝えずに去ってしまったのだから」
どうやら踏み込みすぎてしまったみたいだ。
気まずい空気を書き消すかのような明るい口調で、今度はこちらのことを聞いてきた。
「クレト君の方はあれからどうなったの?女性を二人も侍らしてるし、メイド服を着させてるみたいだけど」
「誤解です。二人は俺の仲間で、服装に関しては二人が自分の意思で着てるんです!」
「たしかサフィさんとノワールさんだったかしら?二人はクレト君とどんな関係なの?」
やけに含みのある聞き方で疑っているのか二人に聞き出す始末だ…。従魔だとばらすのはまずい。別に彼女が言い触らすとは思っていないが、ギルド職員なのでもし何かあった際は上からの指示には逆らえないはずだから。
「主よしばし席を外してもらえぬか?」
「急にどうしたんだ?」
「ガールズトークだよ。それくらい察しないとー」
ブルータスお前もか!俺だけ除け者にして一人で泣いちゃうよ…。真面目な話なの?
「わかった…。部屋にいるから話が終わったら呼びに来てくれ。ルミアさんもいいですか?」
「えぇ構いません」
俺には味方がいなかった。部屋へと戻る俺の背中にはきっと哀愁が漂っているのだろう……誰も慰めてはくれないが。
こんな展開になるとは思ってもみなかった。久しぶりに会ったクレト君と雑談するだけだったのに…。それにしても成長したクレト君はますます格好良くなっていた!二人も恋人がいるのは納得がいかないけど。
「妾は遠回しな話が嫌いぞ、故に直球で聞く。|お主は主のことを好いておるのじゃろ?」
「…ッ!?」
ど真ん中ストレート過ぎない!?確かにその通りだから余計に答えにくい。会って間もないのにどうして分かったのかしら?そんなにも顔に出てたのかな……もしかしてクレト君にも気付かれてるんじゃ――
「主は鈍いから気付いてないと思うぞ。何をそんなに驚く?ノワールも見てれば分かるじゃろ?」
「初々しくてかわいいけど、ライバルが増えるのは複雑かな」
心の声をよまないでくれるかな!
「で、どうなんじゃ?素直に認めるか?」
「うぅ…そうです!好きで悪いんですか!?」
「逆ギレだ!恥ずかしさを誤魔化してるつもりでも、顔は真っ赤だよ?」
そういうことは思っても口に出さないのが優しさってものでしょ!私をいじめて楽しいの?ノワールちゃんは見かけによらず、Sっ気が強い。
「落ち着け責めてるわけじゃない。主の関係を知りたかっただけじゃ」
「それを言うなら結局あなたたちとクレト君との関係はなに?」
「そうじゃな、まずは何故王都に来たのか説明しよう――――」
――――私がいなくなったせいでクレト君に迷惑をかけてしまった?それに【覚醒】を果たしたことはとても喜ばしいのに、素直におめでとうとは言えない。クレト君のためを想って姿を消したのに、これじゃまるで私が原因で―――。
「泣くでない。何度も言うが責めてなどいない」
「そうだよ。悪いのはご主人様を追放したメンバー何だから」
「ここでようやく本題じゃ。主が【覚醒】したおかげで妾たちにも変化が生じた。その一つが擬人化というスキルじゃ」
「……擬人化ですか?聞いたことがないですが、ニュアンスからして人になるスキルと言ったところでしょうか。まさか……お二人は人ではないのですか?」
「察しがよくて助かるぞ。妾はドラゴンでノワールは黒狼ぞ」
「ガオー…なんちゃって」
つまりドラゴンと黒狼をテイムしたってこと!?彼はFランク職のはずだったのにそんなことが可能なの…?とても信じられない。長年職員として働いてきたので、嘘をついているどうかは何となくわかるけど二人から嘘は感じられなかった。
【覚醒】して従魔がスキルを授かったことも驚きなのに―――。頭の整理が追いつかないのにノワールさんのそれはツッコミ待ちなのかな?
「まぁ理解できないのは無理もない。妾たちも驚いたのじゃからの」
「うんうんあれはビックリしたね!でもご主人様と会話ができて嬉しかったよ」
「お二人はクレト君を慕っているのですね。私にはその資格があるのでしょうか?」
「それを決めるのはお主、いやルミアぞ。妾たちが口を挟むことではないが、過去を悔いているならこれからの行動で変えていくのじゃ。過去の出来事は変えることは出来ぬが未来は変えられるのじゃ」
「私は――」
「答えを急かすでない。ゆっくり考えてルミア自身で決めるのじゃ。ちょうど妾たちは王都で活動をするのじゃからな」
過去を顧みても仕方ないけど同時に過去をなかったことになどはできない。でも私は今を生きている、前を向いて過去の後悔を取り戻そう。そう考えれば少し吹っ切れた様に思えてきた。
「私たちよりも先を行くのは許さないからね」
「あら決めるのはクレト君じゃないかしら?」
「うぅ…」
二人のおかげで決心がついたけどそれはそれ。せっかくこうしてまた巡り会えたのだから、くよくよするのはもうやめよう。
「サフィさんノワールさん、これからよろしくお願いします。そしてこれまでクレト君を支えてくれてありがとうございます。でも私も負けませんからね」
「うむ、妾も負けぬぞ」
「私も負けない!」
ふふっ、恋のライバルができたのになんだかとても楽しい。二人の様にいつでも傍にはいれないけど、チャンスを見つけてアプローチをしていこう。早速この後にでも――。
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