85 言葉のニュアンスが違う
「マジか。マジだったのかー。ん?でも今までそんな事言われたことないぞ?」
「成人する準備段階になったんだろ?」
「は?準備?」
「エン。去年から全然成長していないよな。」
「うるせー。」
身長は13歳から全く伸びてない。だから、未だに見た目が10歳ぐらいのままだ。
「だから、体の中で成人する為の準備に入ったんだろ?角が生える時めっちゃ痛いらしいぞ。」
角!角が生えるのか!
「あと、皮膚を完全鱗化すると早々傷つかん。あのグアトールの剣を素手で受け止めていたからな。」
完全鱗化・・・どこかの変身ゲームみたいになってないか?それもSランクの冒険の剣を素手で受け止めるって、スゴ過ぎないか?
それってマジで人外じゃないか。
「はぁ。」
思わずため息が出てしまった。取り敢えず服を着て外套を羽織る。ゼルトが目の前にスープの入った木の椀を差し出してくれたので、受け取り一口すする。相変わらずの塩味のスープだが温まる。
「で?今日はどうするのか全く聞いていないのだが?どうする予定なんだ?」
「元々今日行くはずだった町に行く。昨日行った町から100キロメル西に行った町だ。その町で今日は小さな祭りがあるんだ。」
そうゼルトが教えてくれたがこの時期に祭りか。
「何の祭りだ?」
「海の神に豊漁を願う祭りだ。」
「海の神ってことは港町に行くのか?」
ゼルトは少し考えるように首を傾げ
「港町・・・と言うより漁村だな。エルトというところだ。」
漁村かそう言えば肉は食った記憶はあるが、魚はないよな。やっぱ鮮度の問題か。魚食えるといいな。
はっ!海藻が採れれば出汁がとれるんじゃないのか!昆布でもいいし、魚介の出汁も美味いよな。
塩味のスープと固いパンを食べて再び騎獣に乗って出発した。
そして、昼前には海が見えて来た。高台から下るように海に向かっている道が一本、眼下に見える。その先の海に面した平らなところに集落があるのだが、上から見てみると大きな湾があり、集落あるところだけが平地で、それ以外が山となっている。これってカルデラじゃないよな。
しかし、大きな湾の中に集落があるため外海の影響を余り受けない、港町には良い地形ではないだろうか。
「なぁ、もう昼になる時間になってしまったが、今から露店を出して問題ないのか?」
「祭りの本番は夜だが、祭りは昼から始まるらしい。」
夜が本番って花火大会みたいだな。どんな祭りか楽しみだな。
町と言うより集落の入り口に降り立ったが、祭りという雰囲気ではなかった。木でできた家というか小屋というかそんな建物が50軒程が海岸にほど近いところに集落として存在しているが、そこにいる人達の顔は一様に暗い。強いて言うならお通やかと言うぐらい暗い雰囲気を醸し出していた。
「おっさん。これ祭りの雰囲気じゃないぞ。その情報間違ってないか?」
「そ、そうだなぁ。飲み仲間のヤツが教えてくれたんだがなぁ。」
本当にその情報が正しいかどうか判断できない。露店を出したいがそんな雰囲気ではないので、近くにいた村人に聞いてみる。丁度、家から出てきた人族らしき爺さんが籠を持って前を歩いていたのだ。
「お爺さん。ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」
見た目通りの子供らしく聞いてみた。
「どうしたのかな?見かけない子だね。」
「今日この辺りでお祭りがあるって聞いたけど、何処に行けばいいのかな?」
「祭り?海鎮祭のことか?」
ん?何か言葉のニュアンスが違う気がする。
「今日、確かに祭りはあるが、子供が見ていいものでもないし、外の者が見てもいい気はしないかもしれんなぁ。」
「どういう意味?」
「んー?もしかして、何も知らずに来たのかな?」
「あー。すんません。俺が祭りがあるらしいと聞いたもんで、その海神祭について教えてもらえませんか?」
俺の後ろからゼルトが爺さんに声を掛けてきた。爺さんは今までゼルトの存在に気づいていなかったようで
「おお、こんな子供が一人で来たのかと思ったが、ちゃんと保護者がいたのだね。」
悪かったなガキで、爺さんはゼルトの隣に居るソルにも気がついたのかソルに駆け寄り
「英雄ソルラファール様。このような田舎に来ていただけるとは、ありがたいことでございます。」
そう言って地面に膝を付いて、ソルに頭を下げている。
「俺はそこのガキの付添だ。気にするな。それから、今日ある祭りの事を教えてくれ。」
「ええ、もちろんですとも。しかし、この籠の中身を持って行かねばなりませんので、歩きながらでもよろしいですか?」
そして、爺さんは歩きながら祭りの内容を話してくれた。
「今日の海鎮祭は今年一年の海の安全な漁を行うための贄を捧げる儀式なのです。」
にえ?ニエ・・・贄だと!
脱字の訂正致しました。ご指摘ありがとうございます。