76 水龍は悲しい生き物だった
『ああ、上の街のことか?水龍の言い出した事だ。ダンジョンの上に街を創るから、そこもダンジョンに含めて欲しいと。』
「「「は?」」」
ルギアたちは知らない事だったらしい。
俺は情景を変える。毎年行っていた、しだれ桜がある寺に。もう、目にすることがないと思っていた桜だ。
「天津は何の為に街をダンジョンにして欲しいと言ったんだ?」
『美しいな。・・・水龍か。あれは悲しい生き物だったな。黒のエルフに言われたらしい。己の死か大切な者たちの死かと。
己が生きる道を選べば、作り上げた国が滅ぶと言われたと。己が生き続ける限りエルフに命を狙われると。
だから、己が死んでも守れる街を創りたかったが、一人では無理だと気づいたらしい。そこで、我のダンジョンを利用しようと思い付き我に提案をしてきた。街をダンジョンとして守りきれば、我にとって有効だろうと。
確かに、理に適ったことだ。ダンジョンに人が入って来ないとダンジョンの意味をなさない。しかし、常に人が居るダンジョンだとダンジョンの格が上がり続ける。だから、水龍に頼まれた主要な街は全て我のダンジョンの支配下にある。』
・・・思ってみない規模がダンジョンに侵略されていた。主要な街とはフィーディス商会のある街か?天津せめて一緒にいた仲間ぐらいには言っておくべきだったんじゃないのか?3人が頭を抱えているぞ。
「それだと、ギラン共和国全土にダンジョンが広がっていると言っているように思えるのだが?」
『そのとおりだ。200年もあれば十分だった。そして、水龍は自ら死を望んだ。』
ダンジョンマスターのその言葉にルギアは椅子を倒しながら立ち上がった。
「どういうことだ。」
ルギアの声は唸っているかの様に低く、ダンジョンマスターに殺気を放ちながら言っている。ダンジョンマスターはその質問に答えず俺を見る。あ?はいはい。
さて次は何処にしようか。うーん。あんまり出掛けるタイプじゃなかったしなぁ。思い浮かぶのが、毎日通勤した乗車風景だ。まぁ、いいか。人が居ない電車の中を映し出す。
『これは面白い。』
ダンジョンマスターは立ち上がり、窓から流れる風景を目を細めながら見ている。
『これが金属の箱に乗るというものか。』
「それで、天津が自ら死んだというのはどういう事だ?」
確か教会で聞いた声は殺されたと言っていた。
『正確には違う。殺される状況を自ら作り出したということだ。我に四方から魔物をけしかける様に言ったのだ。そうすれば、首都の守りが薄くなり必ず殺しに来るだろうと。
そして、水龍は原型がわからぬほどの姿になっていた。』
ん?ルギアは眠っているようにと言ったはずだ。
「おかしい、聞いていた姿と違う。」
『それはそうだろう。途中で我が割り込んだからな。まるで、血肉一つもこの世界から無くさんばかりに攻撃をしていたからな。それではあまりにも水龍が哀れすぎる。姿を綺麗な状態に治し、この国から出ていくように言えば、直ぐに出て行ったな。』
ああ、これで天津の不可解な死がわかった。何処からともなく顕れた魔物。それに対処するためにルギアたちが首都を離れなければならなくなった。天津が死ぬ為に用意をした場だった。
そして、殺されたにも関わらず、眠っているような姿だったこと。天津が死んだあと直ぐに姿を消したエルフ。俺の目の前にいるダンジョンマスターがいることで全ての道筋がついた。
最後の質問のために出張で行ったパリの情景にする。街が一望できる高台からの情景だ。
「天津が完成させたかった街並みだ。創りたいと言っていた凱旋門にエッフェル塔だ。ここからだとよく見える。なぁ。天津はなぜ殺されなければならなかったか知っているか?」
『似ているが知らない街だ。水龍が殺される理由か。それは知らん。黒のエルフなら知っていただろうがな。』
やはり、天津は殺される理由は誰にも言っていないのか。そうだろうな、自分を殺すように仕向けたぐらいだ。
「ありがとう。俺からの質問は以上だ。」
俺は魔術を解除する。周りの風景は整えられた庭の風景に戻った。
『おや?ヤマタノオロチはいいのか?』
ダンジョンマスターに以外そうに問われたが、初めっからその質問には意味が無いことぐらいわかっていただろう。
「大した質問じゃないからいい。アリスが教えたのだろ?俺しか倒せないような魔物にするために。」
『まぁ、そんな感じだ。今日は楽しませてくれたお礼に一つ教えてやろう。死ぬ未来しか残されなかった少女が必死になってエルフが不要物として見下したダンジョンに言葉を刻み続けた黒のエルフ。獣人を人族をエルフから守るために国を築き上げ、己が生きるよりも自分を慕う者たちを生かす為に死を選んだ水龍。お前たちの共通点はなんだ?』
共通点?まさか転生者ということか!




