71 愛情表現を否定されたの?
ダンジョンの最下層から入り口に戻れる転移陣で戻ってきたが、ルギアの様子がおかしい。多分、アリスが言っていた天津の事が引っかかっているのだろう。
俺がいるよりもソルが側に居たほうがいいと思い、明日手伝いに行くとだけ言いギルドの外に出た。
天津は生きる事より死を選んだと言っていた。天津が幸せになる生きる道は本当に無かったのだろうか。
未来は絶対じゃない。無限に広がる道を選択して歩いて行くのが未来じゃないのだろうか。
その未来が見えてしまうのも辛いな。きっと自分の生きる道を探そうと未来を見る度に、自分の死を見せつけられたのだろう。生きるか死ぬか。
まだ見ぬエルフの王を殺さないと俺が死ぬと言った。しかし、俺とエルフの王に接点など無い。未来のどこかで接点ができるのだろうか。
俺の知るエルフはアイリスのみだ。だが、アイリスは人権というものを無視された存在だった。今さらエルフがアイリスを迎え入れるとは考えにくい。
一つ有るとすれば、天津だ。天津がなぜ殺される事になったのかが分かれば、接点が出来てしまうのかもしれないが。
「エン。見つけたの!」
「グフッ!」
この声はヴィーネか!俺は後ろを振り向きタックルをかましたヴィーネの頭を鷲掴みをする。
「いつも言っているよな。突撃してくるなと。」
「え?愛情表現を否定されたの?」
「これの何処が愛情表現なのか聞きたい。」
「全身全霊をもって表現しているからなの!」
「何処がだ!嫌がらせにしか感じない。で、何の用だ。」
ヴィーネは後ろから俺の首に抱きつき・・・絞まってる、絞まっているから!
「エンが居なくなって探していたの。皆心配しているの。」
ぐ、苦しい。ヴィーネの手を掴み首から外す。
「居なくなっていない!ジェームズにはダンジョンに行ってくると言って、数日戻らないときちんと言って商会を出たぞ。」
「え?ヴィーネは聞いていないの。」
「ヴィーネには言っていないからな。」
そう言って俺は歩き出す。大切な者か・・・。俺にはわからないなぁ。ライラは同じ孤児院で育った幼馴染っていうだけだし、ヴィーネは助けただけで居座られている。
ジェームズは世話になってるから大切な者入るのか?ルギアとソルは仲間扱いされていたけど、何か違うような気がする。
何が大切か全く分からんな。
そして、短い秋が過ぎ厳しい冬がまたやって来た。真冬の運搬業務はどうするのかと聞けばゼルトがトカゲ人なので、寒さが苦手なゼルトは冬季休暇というものが出されるらしい。俺の付添いであるゼルトが休暇をとると言うことで、冬場は雑貨部門で働くようにジェームズから指示が出された。
しかし、物の持ち運びは禁止され、座っているだけでもいいと言われてしまった。確かに冬場は客は少ないだろうが、座っているだけって、まるで閑職にまわされたみたいだ。
しかし、運搬業務が無くなるわけではない。冬場に客が少なくなるが食料品などは、各支店に補充をしなければならないのだ。
それはどうするのかと聞けば、別の担当者数人で賄えるから大丈夫だと言われてしまった。
付いていきたいと言えば、エンに対処出来ないから駄目だと言われた。
俺に対処出来ないってなんだ?
仕方がなく諦め、只今雑貨部門の裏方で座っているのだが、なぜか右側にヴィーネが左側にフェーラプティス座っている。
そして、店側では客が大声で叫んでいる。
いつまでヴィーネはここに居座るつもりなんだ?フェーラプティス、仕事はどうした?
あの客はいつまで粘るつもりなんだ?かれこれ半刻は大声で、叫んでいる。
はぁ。うるさい。去年は負けてしまっただとか、あんな良いものがあったのなら私に出すべきだったとか、最も良いものを出せとか言っているがなんの事だ?
ジェームズはドアの隙間から客と従業員のやり取りをニヤニヤしなから見ている。
「ジェームズ、あの客は何を言っているんだ?」
「ああ、お得意様の伯爵夫人だ。去年ここでドレスを買ったのだが、エンが売ったネックレスがあっただろ?大粒の真珠のそれも形が丸く美しいネックレスだ。小粒の真珠が散りばめられたドレスより、プレゼント用にと用意されたネックレスの方が話題性があってな。伯爵夫人はそれがご不満だったようだ。」
去年俺が売ったネックレス・・・ジェームズ、スマン。あれはネット通販のB級品の傷あり、小粒の商品で安売りをしてあったものだったのだ。それが大粒で丸くて美しいだって?
確か昔の天然真珠は真珠貝に偶然に入ったゴミが真珠として存在していたようだ。形が歪で小さい物が多かったらしい。もしかして、養殖真珠は存在しない?存在しないものを俺は売ってしまったのか。