44 そんな暇はない
それからの商品運搬業務の工程はスムーズだった。翌朝に辺境都市を出て、周辺の3つの町を回って、首都に帰る別ルートの帰路沿いの町に商品を運んでいく。あの、巨大な魔物なんていなかったのではないかと思うほど、何も問題はなかった。
そして、4日後には首都に戻ってきた。多少の・・・あの辺境都市の一件がなければ全行程が最速6日で可能な事がわかり、それを知ったジェームズが次の予定を入れようとしたところで、俺は待ったをかけた。
「待て、ジェームズ。キアナに託した伝言を聞かなかったのか?」
「ああ、聞いたぞ。何が問題なんだ?」
「問題だらけだ。で、全支店の購入履歴はあるのか?あるなら、それを管理するヤツを指名してくれ、俺は絶対に見習い以上の仕事はしないからな!」
「くくく、わかった。で、何が問題だ。」
「まずは、商品の入庫単位だ。なぜ、全てが1個ずつなんだ?野菜を1個しか仕入れしない支店なんてないだろ。俺が回ったところでも最低の入庫数は10個だった。
例えばだ、野菜のトーマが最低発注個数が10個だとする。しかし、15個欲しい支店もあれば、30個欲しい支店もある。だとすれば、小さい箱は5個入で大きい箱は10個入と決める。なら10個欲しいところは大きい箱を1つ。15個欲しいところは大きい箱を1つと小さい箱を1つだ。と言うふうに、いくつかをまとめた単位を作ってほしい。
今は大分、食品部門も手が空いただろう?出来る人はいるはずだ。あとは、支店ごとに箱にでもまとめて収納鞄にいれることだ。そうすることで、時間の短縮と運搬担当者が商品の仕分けまでしなくてすむ。一層のこと仕入れ部門をつく・・・あ。」
ジェームズがすっごい笑顔で俺を見ている。やばい。これは・・・。
「エン、仕入れ部門を作ろうか。それで、詳しい指示をそこでだすといい。」
「ジェームズ!待て、俺は見習いだ!見習い。」
「しかしなぁ。一番分かっているのはエンだからなぁ。仕方がないよな。」
またしてもやってしまった。俺は見習い以上の仕事はしないと言ったのに
仕入れ部門の部門長には食品部門にいたネズミ獣人の女性がなり、食品部門、衣類部門、雑貨部門から2人ずつ、仕入れ部門に移動してきた。あとは、運搬業務をしていた20名がそのまま仕入れ部門に入ってきてた。しかし、ここで新たな問題が出てきた。運搬業務は外部からの仕入れも担当していたのだ。
ちょっと待て、そんな事は聞いていないぞ!なぜに本店の仕入れまでもここで管理をしなければならないのだ。ついで?ついでじゃない!
そして、本店の仕入れと支店への運搬業務を担う仕入れ部門が出来てしまったのだ。
「エン。何かうまいものを食わせろ。」
俺が多忙な毎日を過ごしている中、ルギアが訪ねてきた。俺のこの状態見てよくそのような事を言えるな。
俺は倒れそうなぐらいに積まれた書類の山に埋もれていた。
「そんな、顔で見るな。ほら、休憩だ休憩。」
どんな顔だ。目の下に隈があるのがいけないのか?それは仕方がないだろ。やってもやっても終わらんのだからな。
「そんな、不満そうな顔をするな。本当にそういうところはアマツに似ているな。唐揚げ弁当でいいから出せ。」
あ?なんだそれは、ルギアは唐揚げ弁当が食いたかっただけだろ。俺はルギアに片手で荷物の様に抱えられ部屋を連れ出された。
「お、ヒッデー顔だな。」
連れて行かれた部屋にはなぜかソルがいた。
「ソルは書類の山は片付いたのか?」
「ははは、そんなものノリスに後を任せた。」
このオッサンやるべき事を放置したようだ。よく、ノリスから逃げられたな。
「早く弁当を出せ。」
ルギアに催促され、唐揚げ弁当と焼き肉弁当を2つずつ出す。もちろん、金は請求した。
「エンの分もだ。食って寝ろ。」
「あ゛?昼寝をしている暇はない。」
ルギアとソルは顔を見合わせ笑い出す。なんだ?何がおかしいんだ?
「昼は過ぎているんだから昼飯ぐらい食べろ。」
「食べると眠くなるからいい。」
「くくく、俺が食べさせてやるのと、どちらがいいんだ。」
「拒否をする。」
一食ぐらい食べなくても死なないのに、このままだと本当にルギアに食べさせられそうなので、仕方がなくのり弁を出し、食べ始める・・・。
ルギア side
「寝たか。食べながら寝るなんて本当にガキだな。」
ソルがエンの寝姿を見て懐かしそうに笑っている。
今日、あの事があって以来、顔を合わす事がなかったソルが首都のギルドに来たかと思えば、ジェームズがため息を吐きながらやってきて、エンを休ませてくれないかと、言ってきた。どうしたのかと聞けば、新しい部門を立ち上げたので、エンにやらせたら仕事漬けになってしまったらしい。休む様にジェームズが言ってもジェームズがやれと言ったのだろと言って書類の山に埋もれているらしい。失敗したと言ってジェームズが項垂れていた。
どこぞかで、聞いてような話だな。
フィーディス商会に行ってみれば、本当に書類に埋もれたエンがいた。仕事を邪魔すると不満そうな顔をしていることも、食事をすすめると『そんな事をしている暇はない』と言っていることもアマツと同じだ。思わずソルと顔を見合わせ笑ってしまった。
「ルギア。ガキなんていつ出来たんだ?」
ソルが尋ねてきたが
「それについては俺もこいつも否定しているぞ。」
「ははは、そうかそうか、やはりアマツは面白いな。はぁ。俺はアマツが殺されたと思っている。そう思っているから、ルギアもこいつの近くにいるんだろ?グアトールはどこまで修行の旅に行ってしまったのか。この事を知れば飛んで戻ってきそうなのにな。」
ギリリと奥歯を噛みしめる。アマツの死は不可解だった。病死だとあいつは言ったが、その後から姿を消したあいつがアマツを殺したと思っている。
だが、真実はわからない。