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35 最悪だな

ジェームズside 1


 エンが行ってしまった。エンは不思議な少年だと思う。

 あの時、商業ギルドのギルドマスターに声をかけられなければ、きっと会うこともなかっただろう。



 夏のある日、ギルドマスターのあいつがいきなりフィーディス商会に駆け込んで来たと思ったら


「ジェームズ!俺はとんでもない失敗をしてしまった。」


 と、俺の執務室でいきなり泣き始めた。泣くほどのことなのか聞いてみると、色の白い砂糖を持ち込んだ子供がいるというじゃないか。砂糖というのは黒みがかっているのが普通だ。それが白い砂糖なんてそんな物が存在するなんて聞いたことがない。

 あと、ティオが連れてきた少年だから孤児ではないかという。孤児の少年がそのような物を手に入れる事ができるのであろうか。ティオに聞いてみる必要があるな。


 夕方、ティオの行きつけの店に行き、ティオが来るのを待とうと思って店に入れば、もうすでにティオが一杯やっていた。


「やぁ、ティオ。久しぶりだな。もう、一杯やっているのか?」


「ジェームズか、まぁ。今日は色々あってな。」


 ティオの向かい側の席に孤児院の院長をしている、ティオが冒険者をしていたときの弟子がいた。


「なんだ、孤児院で問題が起きたのか?」


「ああ、まぁ。ここではちょっとな。」


 なんとも、歯切れの悪い言いようだ。よほどのことがあったのだろう。


「それで、ジェームズ。わしに用か?」


「ティオ、午前中に商業ギルドに来ていただろう?ティオが連れてきた少年のことについて聞きたい。商業ギルドのギルドマスターに泣きつかれてな、俺も興味があるから一枚噛んでみようかと思ってな。」


「ああ、エンか。」


 子供の名前はエンと言うらしい。どうやら、赤子の時に孤児院の前に置かれていて、ただ、エンと書かれた名前の紙が置かれていたそうだ。

 それも黒髪の人族らしい。


「黒を持つ人族か・・・。エンという少年は白い砂糖を得る立場にあるのか?」


 ティオは苦虫を噛んだような顔になり


「3ヶ月前に分かったことなんだが、孤児たちの中でいじめられていたらしい。それまで、何も言わなかったから大人たちは全く気づきもしなかった。わしが孤児たちに魔物の討伐を指導していることは知っているよな。そこで、初めてわかったのだ。だから、大人たちはエンにどういう人物が接しているかも把握できてない。」


「誰かがそのエンという少年に接触しているのか?」


「わからないがそうとしか言いようがない。5歳からだと言ったんだ。」


「何がだ?」


「孤児院での食事が抜かれ、スープだけになったと。はっきり言って、孤児院のスープは水と塩と言っていいほど何も入っていない。それだけで、7年間生きれるかと言えば厳しいだろう。だから、誰かエンに食事を与えていた者がいたのでは考えたのだ。因みに孤児院の大人たちは気づいていなかったので、当然エンに食事を与えていたという者はいなかった。」


「ということは、誰かが、エン少年に食事を与え、珍しい白い砂糖を与えたというのか、それが誰なのかが気になるな。ちょっと、商会の方に来てその少年の詳しいことを教えてくれ。ティオの弟子も一緒に来るといい。うまい酒を用意しよう。」




 ティオと弟子を商会の応接室に連れてきて、最初にティオに少年の特徴を書きだしてもらい、首都周辺にいる商会の者たちに少年の行き先を調べてもらうことにした。


「それで、今日は何があったんだ?」


 きっと、この事がエン少年が孤児院から出るきっかけになったのだろう。


「先程の言ったが、毎年12歳になる子供に魔物討伐を指導していることは知っているよな。この3ヶ月は、わしが付いて指導をしていたのだが、問題がみられなかったのでな、今日から指導を外れて、この弟子の息子を指導員として討伐に行ったのだ。昼前に先程いた店にエンが来てな今日あったことを話してくれたのだ。」


 はぁ。とティオはため息を吐き続きを語った。

 どうやら、子供たちだけで、森の奥まで行ったらしい。

 そこで、一匹のグリーンウルフに遭遇し倒したあとエン少年を残したまま他のメンバーは先に行った。エン少年が追いつき見た光景は数匹のグリーンウルフとブラックウルフがいたらしい。

 それもメンバーが足りず一人はブラックウルフに食べられたと見られたということだ。エン少年がグリーンウルフを倒したあと、どう撤退をしようかと考えていたときに、そこのティオの弟子の息子にエンが背中から切られたらしい。そして、囮として置いて行かれた。


「最悪だな。」


 思わず声が漏れてしまった。ティオの弟子のうなだれ方がひどくなった。


「エン少年が無事だったということは、うまくブラックウルフから逃げられたんだな。」


「いいや。エンはブラックウルフを倒したと言った。」


「は?」


 子供がブラックウルフを倒した?ありえない。Sクラスの冒険者ぐらいしか対処できないぞ。


「先程、警官隊を連れてブラックウルフが出たというところまで行ってきたのだ。大分森の奥まで行ったところでな。何があったかはわからなかったが、大規模な魔術が施行されたことだけはわかった。あと、ブラックウルフにやられたと聞いた少年の武器がその周辺で見つけた。魔物の存在は確認できなかったが、少年の武器となぜか異様に冷えた空間と魔術の残滓が証拠として、弟子の息子は裁かれることになるだろうな。」


 コンコンコンコンと扉をノックされたことで部屋の空気が緩んだ。

 入るように促すと、孫のアルティーナが入ってきた。


「お話中、失礼します。お探しの少年ですが、街道を北に向かって歩いていったという情報が入りました。」


「一人でか?」


「はい。誰かが付き添っているということは見受けられなかったらしいです。どうされますか?」


「北か。トロスに行くつもりか。」


「北の中核都市ですか。」


「北に向かう運送を担当している者に声をかけて、少年を見つけ次第、少年の目的地を聞いて近くまで運ぶように指示をしておいてくれ。」


「わかりました。失礼しました。」


 アルティーナが部屋を出ていき、ティオに向かって


「エン少年はこちらで保護をしよう。どういう人物か直接見てみたいしな。さて、今夜は飲もうか。」



 翌日、ティオに付いて孤児院に出向き、エン少年が住んでいたというところを見に来た。丁度、警官隊と遭遇し、孤児院の院長の息子のドラクを未成年者の殺人未遂と保護者として危険地帯への誘導で逮捕状を取ったらしい。それを聞いたティオの弟子は目を閉じて表情は伺いしれなかった。


 叫びながら警官隊に連れてかれている青年の背中をみながら、ふと疑問に思ったことをティオに聞いてみた。


「エン少年はあの青年に切られたんだよな。無事だったということは、光の魔術が使えるのか?」


「いや、切られたところを見てみたら服の下に見たことない防具を着けていたから、傷は受けてなかった。光の魔法が使えるのは別の子だが、その子も孤児院に戻ることを嫌がり、教会に行くことを決めた。今回のことはいろんな者たちに影響を与えるだろうな。」


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