33 これはホラーじゃないか!(挿絵あり)
扉を開けて出てきたのは、見た目はフェーラプティスなんだが、雰囲気が全然違う。頬に赤みがさし、目がキラキラ輝いている。着ている服も白いエプロンドレスから、赤いエプロンドレスに変わっていた。一体この1週間で何があったんだ!
「フェーラプティスさんでよろしいでしょうか?」
俺は確認のために念のため聞いておく。
「そうですよ。あ、この前とあまりにも違うのでびっくりしましたか?もう、お仕事が楽しくって、それにエンさんが売ってくださったあの紅茶のおかげで、気分がよく作業ができました。」
フェーラプティスはそれは機嫌がいいようで、花びらが舞っているよう・・・まじで花びらが舞っていないか?妖精だからか?家事の妖精はそんなこともできるのか?
「さぁ。中に入って見てくださいな。」
フェーラプティスに連れられ、前と同じ部屋に通され、その部屋の中には色々な形をした鞄がテーブルの上に並べてあった。
「さあさあ、手に取って見てくださいな。」
自信作らしく、机の上の物をよく見ると、どう見ても人が持つための鞄の形になっている物ばかりだ。
「フェーラプティスさんちょっと聞いていいですかね。俺はどういった物を希望すると言いましたか?」
「沢山の人が使える鞄の形をしたものに収納の魔導を施して欲しいですよね。」
お、置き換わっている。俺はそんなこと一言も言っていない。自分の作りたいものだけを作ってしまう職人か。技術者ギルド!なんでそんな人物を紹介した!
「残念ながら俺はそのようなことは言っていません。荷馬車の代わりになる収納袋を騎獣に付けたいので、鞄のようにして作れないかと言ったのです。」
「はっ。」
なに、そのそうだった!みたいな顔は。それにしてもこの量は渡したワイバーンの革を全部使っているよな。どうしようか。
「フェーラプティスさん残念ながらこの取引はなかったことにしましょう。ワイバーンの革も全部使ってしまったようですし、こちらもあなたを信用して渡したのですから、契約書を作らなった落ち度はあります。ですから、革代は勉強代として請求はしません。その代わり、あなたへの信用はゼロになってしまったことだけ覚えておいて下さい。」
「ま、待って下さい。こ、紅茶は売ってくれますよね。」
フェーラプティスが涙目で訴えてくるが
「言いましたよね。あなたへの信用はゼロだと。そもそも、まだ売り出していない商品ですから、特別にフェーラプティスさんに売ったのはこの取引があったからです。」
フェーラプティスは『ガーン』と効果音がつきそうなほど落ち込み、徐々に黒く・・・黒い?
服が真っ黒になっている?服の色は変更可能なのか?
「ええ、私が悪いのですよ。久しぶりの仕事でしたし」
何か部屋の中も暗くなってきたような・・・。
「収納袋を鞄になんて素晴らしいとも思いましたし」
部屋の隅のチェストとか戸棚とかガタガタ言ってないか?
「あまり出回らないワイバーンの革を使っていいとも言われましたし」
窓ガラスからバンバンと叩かれている音が聞こえる。めっちゃ怖いんだけど、ゼルトのオッサン、俺にくっつくんじゃねぇ!
「ええ、私が悪いのですよ。」
もしかしてこれか!技術者ギルドの人が言っていた機嫌を損ねるなってやつは!これはホラーじゃないか!
俺とゼルトのオッサンはさっさと屋敷を後にした。とてもじゃないが、あれ以上は恐怖心でおかしくなってしまいそうだったからだ。
はぁ。帰ったら、ジェームズに謝らないとな。ワイバーンの革って一体どれぐらいするんだろう。俺に払えるかなぁ。
「ん?革代?やっぱり、フェーラプティスじゃだめだったか?」
ジェームズが当然のように言った。
「どういうことだ?」
「腕はいいが、客の要望には答えられない問題技術者だ。」
「はぁ?俺は普通に技術者ギルドに紹介されたが?なんでそんな問題技術者を紹介されたんだ!」
「普通はそんな変わった物を作ろうと思う技術者がいないからだ。まぁ。革代はエンが払う必要はないぞ。貴重な物を色々提供してくれるからな。そろそろ、北の方も街道は通行可能になってきている。準備をして3日後に出発してくれ。」
3日後か、この一週間で仕事の内容は頭に叩き込んだから、大丈夫だろう。
「わかった。」
「その前に、あのマタタビという物を10本頼む。」
ジェームズ。マタタビが、とても気に入ったみたいだな。よく、小枝をシガシガしている姿を見かける。
「エン。私もマタタビがほしいなぁ。」
いつからそこにいたんだ、アルティーナ!いくら言われようが、お前にマタタビは売らん!