30 何で騎獣を使わない?
あれから、アルティーナが付いてまわる様になった。教育係なので、それは当たり前だと思うかも知れんが、そうではない。ベッタリだ。どんなに付きまとわれようがアルティーナにマタタビはもう売らん。
冬に入れば客足は遠退く。北国だから降雪量もすごいが、真冬になると外気温は氷点下20度ぐらいの日々が続く。そうなると、滅多に外には出ない。
仕事はどうしているかと言えば、何もしていない。いや、店番は表の店舗に一人いる。滅多に客が来ることはないがな。朝の在庫管理もするが、商品の出入りがないので、それも直ぐに終わる。なので、仕事がないのだ。俺なら春に向けた企画を練るところだが、それは絶対に口にはしない。また、一人でやらされるのが目に見えている。
だから、俺の右側にアルティーナ、左側にキアナが陣どっており、何かと要求を言ってくる。
端から見ているオッサンがうらやましそうにして去って行くが、ガキに物を要求してくる女性はどうなんだ?ダメだろ。特にキアナ!ルギアから金を儲けられなくなったからと言って、何かと理由をつけて甘いものを要求してくるのはダメだろ。
アルティーナもなんでそんなにベッタリだくっついて来るのだ。大好きなお祖父様のところに行け。
仕入れのため南の方に行っている?ああ、そうだった。ジェームズは冬の動けなくなる前にギラン共和国を出て、南の国へ仕入れに行ったのだった。ジェームズなぜ俺も連れて行ってくれなかったのだ。
仕方がなく俺は暇すぎて、この前ポチしたオセロを出す。キアナとアルティーナを対面に座らせ、ルールを説明しやらせてみる。はぁ、やっと一人で座れる。
こいつらが獣人だということをすっかり忘れてしまっていた。勝負事になると熱くなりすぎて、お互いの胸元を掴み出した時点で気がついた。これは、人選を間違えたと。よくあるじゃないか、異世界でオセロの受けがいいっていうやつ。獣人は頭より先に手が出てしまうようだ。
結局、二人は俺の横に戻ってしまった。もう、ため息しかでない。
そんな、何もない日々を過ごし、雪解けの季節がやってきた。これで、まともに仕事が出来ると思ったら、ジェームズから呼び出しを受けた。
「エン。今日から運搬業務な。」
は?衣服部門全然仕事していないけど?
「ジェームズ。今日からなっと言われて、そうですかと言える仕事じゃないだろ。何も準備していないぞ。」
「大丈夫だ。それも仕事の内にはいる。ゼルト入ってきなさい。」
「あ、ハゲのオッサン。」
「ハゲじゃない!」
いつか荷馬車に乗せてくれた、蜥蜴人のオッサンだった。
「取り敢えず今日は必要な物の購入に行こうか。」
俺は前から気になっていたことを聞いてみた。
「その前にさ、一度聞きたかったのだけど、何で、荷馬車を使っているんだ?騎獣なら、上空飛行するからすごく早いよな。何で騎獣を使わない?」
「エン、バカだな。騎獣じゃたくさんの物を運べないじゃいか。」
「収納袋があるのに?オッサンが持ってたヤツはたしか倉庫1棟分だったよな。俺、中核都市行くのに5日掛かったけど、騎獣に乗ったら半日だった。運搬も騎獣を使えば超早いよな。」
ジェームズとゼルトが口を開けて固まった。え?考えつかなかったのか。じゃ、何に収納袋を使っていたんだよ。
「えっと。それだけ入るのなら、荷馬車の何倍も運べるよな。それに手を入れて思いうかべれば取り出せるのなら楽だよな。魔物に襲われるのも減らせるよな。ゼルトのオッサンは何を収納袋に入れていたんだ?」
「え?普通に討伐した魔物だ。金になるからな。」
「ジェームズ、フィーディス商会の会長としてはどうだ?最初の投資はかかるが、荷馬車より多くの物を運べ、運搬が早く、襲われ荷を失うリスクが少ない。どう思う?」
「思いもよらなかった。荷物は荷馬車で運ぶ物だし、収納袋は魔物を入れる物だと思っていた。確かに投資がかかるが、それ以上のメリットがあるな。」
「俺は収納袋がどのように出来ているかは知らないが 騎獣に付けられる箱型か鞄型にすればいいのではないだろうか。」
「おお、それはいい。じゃ、エン。技術者ギルドに行って説明してくれ。」
や、やってしまった。あまりにも便利な物があるのに使っていないことに無駄を感じて口を出してしまった。
「ジェームズ。俺は見習いだ。従業員ではない。説明は従業員にしてもらってくれ。」
「何を言っているんだ。言い出したエンが一番分かっているじゃないか。適任者はエンだよな。」
俺は見習いだと言っているじゃないか!俺は全然関係がない業務内容をするべき立場ではない!