107 小さいは余計だ
野次馬共は仕事に戻ってもらい。食堂に併設されている共同の休憩室に場所を移す。午前中は使用している人が殆どいないので、ひと目にはあまりつかないだろう。
俺の横には大きなアイスを抱え込んでスプーンでアイスを頬張っているヴィーネが座っている。反対側にはフェーラプティスが微笑みながら座っているが、目が笑っていない。
キアナとアルティーナは仕事に戻し、アイリスは中庭の手入れの続きをしてもらっている。
「へぇー。精霊だけでなく上級の妖精までを従えているの。本当に興味に尽きないね君。」
いや、従えていない。物欲しさに付きまとわれているだけだ。それにこの少女まで加わるのは勘弁だ。
「悪いがな。俺はここで働いているんだ。付きまとわれるのははっきり言って迷惑だ。」
きっちりと言葉にしてわかってもらわないと駄目だ。こんな、変なヤツに周りをウロウロされたんじゃ。仕事にならん。
しかし、少女は驚いたように目を見開いて俺を見る。
「え?こんな子供が働いているの?」
確かに見た目は10歳ぐらいと言われているが、なんでそこの常識はあるんだ。
「14歳だ。」
「凄い。凄い。やはり神様の愛は偉大!」
なぜ、そこを神と絡めてしまうんだ。おかしいだろ。普通はありえないとか年齢詐欺だという反応するはずだろ!・・・自分でそうツッコむのは虚しいな。
「じゃ、私もここで働けば、君に付きまとっていいよね。」
「よくない!働くならきちんと働け!というか、教会の神の声は聞こえたのか。もう、巡礼めぐりにでも行ってくれ。」
「ああ、それ?お布施を払えないと入れないと言われたから無理。白き神様のお言葉を種族で独占しているってムカつくよね。王が存在しないくせに威張り散らして」
お布施という名の強奪をしないと教会の中に入らせてもらえないのか。
しかし、王がいないくせにとは、どう言ういことだ?王がいるといないとでは何かが違うのか?少女はエルフの何かを知っているのか。
少し探りを入れてみるか。
「エルフの王は誕生したらしい。昨年、エルフ共が色々動き回っていた。」
「え!それって最悪。でも、王が誕生したってことは、正確には王になってないよね。王となりうる者が誕生したってことだよね。」
王となりうる者?まだ、王じゃない?
「それって何だ?王になるには何か条件があるのか?」
「知らないのぉ?神様に認められればいいのよ。神様からの愛を一身に受ければいいの。」
真面目に聞いた俺が馬鹿だった。この狂信者に聞いた俺が愚かだった。
しかし、まだ王じゃないか。露天商の爺さんとアリスの言葉から察するにアリスは王となる者だったが、王になり得なかった者だ。そして、王と呼ばれるには何か条件があるのか。
しかし、目の前の狂信的少女をどうするか、やはり一度教会に突っ込んで、あの神の声を聞かせれば俺にこだわることもなくなるのではないのだろうか。
「そういや、お前の名前なんだ?」
「私?私はマイアフェート・グローリア」
「グローリア?」
国の名を名乗れるってのはまさか
「あ、間違った。ノギアだった。名乗ったら駄目だった。」
「名乗ったら駄目って何だ。お前、王族か?」
「ああ、血筋は王族だけど、王族の色じゃないから、そういう子は排除されるのが決まり。」
「は?」
「本当は殺されるんだけど、私はおっ師匠様に魔力が多くて見込みがあるからって拾われたんだぁ。」
何だそれは色が違うからって子供が殺されるってどういう王族だ!
「成長すると色が変わる子もいるから10歳までは生かされるんだけどね。おっ師匠様はグローリア国でも重鎮だったからね。私は生かされたんだぁ。」
だからか、こんなに歪んでいるのか。だから、魔女になるとにこだわっているのか。だから、神のアイというものを得ようとしているのか。
はぁ。取り敢えず神の声を聞かせれば、マイアフェートと名乗った少女も満足して、魔女への道に進んで行ってくれるだろう。俺の関わらないところで
「マイアフェート。付いてこい。教会の中に連れて行ってやる。」
「あ、マイアでいいよ。君、小さいのにあのエルフを満足できるほどお金を持っているんだ?」
「小さいは余計だ。これでも、行商人見習いで、色々取引はしている。」
「小さいのに偉いね。」
そう言って、マイアはフード越しに俺の頭を撫でてきた。だから、小さいは余計だ!
あ、フードが・・・慌てて深く被り直す。
「君、人族なのに魔人の色を持っているんだね。」
黒髪を見られてしまったようだ。まぁ、いい。これで何処かに行ってもらえれば、煩わしいと思うこともなくなる。