暁乾斗の世界
この世界の事情を改めて説明する回でもあります。
「みんな、異世界へ連れていかれたよ」
口に出すもの嫌な言葉なのでなるべく淡々とサリーのように言葉にする。
「……」
まずい事を聞いてしまったとアマノリリスの表情が曇っていた。
「話を続けるぞ」
曇った表情のアマノリリスにかける言葉が見つからなかったので話を進めることにした。
「俺の家族は父さん、母さん、そして子供4人の6人家族なわけだが、さっき言った事情で今は3人だ。しかも父さんと母さんは年中異世界へ兄さん達を探しに行っているからほとんど家にいない」
「……」
追加で質問の一つでもあるかと間を開けてみたがアマノリリスは表情を曇らせたままで話を聞いているのかすら分からない。
「聞いてるか?」
「は、はい、すいません」
「兄さん達の件とアマノリリスさんは関係ないだろう。変な事を聞いたとか気にしなくていい。聞きたいことはないかと言ったのは俺だ」
「……でも、暁さんに嫌な思いをさせてしまったのは確かなので」
「だからといって毎度落ち込まれても困る」
「そうですよね、すいません」
「何度も謝るな」
「……」
アマノリリスは俯いて完全に黙ってしまった。さすがにこの状態が家についてからも続くのはきつい。面倒と出かかった言葉を喉に押し込めてこの状態を打破すべく俺は話を続けることにした。
「俺の家族についてもう少し話すぞ。俺の爺さんは第1次帰還世代と呼ばれている異世界からの帰還者だ」
爺さんも異世界へ連れ去れていたことに驚いたアマノリリスが顔を上げる。
「1970年代に異世界から帰還した人達がそう呼ばれている。異世界への転生、転移が世界として初めて観測されたのが1950年頃。その後の初めての帰還者だから第1世代ってなっている」
実際にはもっと前、数百年前にも異世界へ連れさられて帰還した人がいたらしいが、記録が残っている資料が少ないため世代としては管理されていない。
「で、俺の父さんは第2次帰還世代と呼ばれている」
「ということは暁さんのお父さんも異世界へ?」
「10代の頃に連れていかれたらしい。兄さん達も合わせると親子三代続けてだ。別に珍しくもないけどな。ちなみに第2世代は1990年代の帰還者だ。ここでかなりの人数がこの世界に戻ってきてくれたおかげで世界は救われたそうだ」
「世界が? どういうことですか?」
「度重なる異世界への連れ去りのせいで1955年代頃から世界人口が激減し始めた。1970年代までに世界人口が約半数になるほどだ」
『補足します。人口減少による労働力の低下および出生率の低下。そのため各インフラを保つことが難しい状況へとなってきました。大国などは他国から人材を集めようと様々な政策を行いましたが、それがきっかけで外交的争いが絶えず起こり、戦争へと発展しかねない状態でした。危機一髪ですね』
サリーが淡々と補足してくれる。AIなので当然だが声に抑揚がないため、当人は冗談ぽく危機一髪と言ったつもりかもしれないがまったく冗談には聞こえなかった。事実、冗談ではなく世界の危機だったわけだが。
『1970年代、第1次世代の帰還と異世界の住人達の流入により、多少なり人口は回復していきましたが、引き続き異世界転生、転移が多発していたため決して好転はしませんでした。ある程度好転したのは先ほど乾斗様が言われた通り第2次世代の帰還時です。この際、好転が出来た大きな要因は帰還者達の多くが異世界で家族を作り家族単位で戻ってきたことでした』
「俺の母さんが異世界の人でな。父さんとは異世界で結婚して子供、一番上の兄さんを産んでいる。父さん達が戻ってきたのは兄さんが1歳くらいの頃らしい。今となっては異世界の人との混血は別に珍しくはない。うちの家族の話としてはこれくらいか……」
他に何か話せることはないかと考えてみると一つ話しておくべきことを思い出した。
「俺の婆さんも異世界出身だ。で、アマノリリスさんと同じで女神だ。婆さんは元がつくけど」
「えっ……ええぇ!!」
今日一番の叫び声が車内に響いた。
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