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Aランク職員ベルカ・ミネンの異世界譚 -2-

ベルカさんは結構乙女趣味です。

 私の担当だった魔王軍奇襲部隊を殲滅後、水浴びをして街に戻るとこの世界『ヴァラリア』の女神であるアマノリリス様が街の上空で遠くの方へ視線を注いでいました。

 あの方向は緑郎君達が戦っている中央平原ですね。それなりに時間が経っているはずですがまだ戦っているのでしょうか。


 「ミナモ、戦況は?」


 『現在、魔王軍残党を廃城へと追い込み、包囲しています。現在、突入部隊が廃城へ……』


 ミナモの報告途中で遠くから大気を振動させるほどの大きな爆発音が聞こえてきました。何が起きたか分からない街の人々が不安そうに肩を抱き合っています。上空のアマノリリス様は何か信じられないモノを見たという表情で固まっています。


 「ミナモ?」


 『広域攻撃魔法が使用され廃城が魔王軍ごと消滅しました』


 「緑郎君ですね。かなり張り切っていましたし」


 ベース基地にしている街で聞いた難民の親子の話が原因でしょう。魔王軍に夫と子供を殺されてしまった奥さんの言葉に私も思うことはありましたが、緑郎君が一番魔王軍に対して怒りを燃やしてましたからね。

 普段クールぶってますが何かあると感情のままに動いてしまうのは若いからでしょう。そこはとても可愛いところだと思います。


 「でも独断専行だと思いますからまた怒られますね。後で慰めてあげましょう」


 『緑郎様は嫌がると推測されますがよろしいですか?』


 「お姉さんに慰められて嫌がるなんて贅沢ですね、緑郎君は。お年頃ということなんでしょうけど」


 ともかく後は調査隊が魔王軍が本当に殲滅されたことを確認して終わりです。

 異世界ヴァラリアに来て5日目。意外に早く終わりました。そもそも魔王軍のボスである魔王がなぜか不在で敵の幹部の大半も先日私達の世界を襲った際に返り討ちにあっていますから魔王軍の戦力は半分以下だったのです。当然と言えば当然でしょう。

 それに加えてSランクの人が1日目、魔王軍に残っていた一番強い敵を倒していますからね。Sランクの人はそれで帰ってしまいましたので残った私達の仕事は本当に残党退治でした。

 Sランクの人の顔を一度も見れなかったことが心残りですね。いつの間にか来て仕事は終わったとAI経由で報告して帰ってしまいましたから会ってすらいません。

 ここまで人を避けるとはよほどの人見知りなんでしょうか。


 「ベルカ様、ご無事で」


 私に気付いたアマノリリス様が私の近くに降りてきてくれました。


 「はい、ベルカ・ミネン。無事お仕事完了です。峠から向かっていた魔王軍については撃退しましたのでご安心を」


 「もしもの備えが役に立ちましたね。良かったです」


 「ですねー。まあ、私が緑郎君達の方に行ってもあまり活躍できなかったとは思いますから」


 「そうなんですか?」

 

 「私は基本的に近づいて叩き切ることしかできないので範囲攻撃が主な緑郎君みたいな魔法を使う人達とは相性良くないんですよね。お互いに連携はもちろんできますけど今回のように大軍を相手にする場合は範囲攻撃で相手の数を一気に削るのが効率的で私が戦場に突貫するとそれができなくなるので」


 お城を消滅させるような広域攻撃魔法は少なくとも使えないでしょう。


 「アマノリリス様、緑郎君達の報告は聞いてますか」 


 「……は、はい、聞いています。見えてもいましたし」


 「へぇ~」


 思わず感嘆の声が出ました。この街から緑郎君が消滅させた廃城までは100キロ近く離れています。私の世界のように高い建物が無いとはいえ肉眼で見ることは人間では基本無理です。それを見えていたとはさすが女神様です。


 「なら少し早いですが、一番に言わせていただきますね。おめでとうございます、これであなたの世界は救われました」


 「……本当に、本当に終わったんでしょうか」


 「はい、終わりました。正確には残党がいるか確認は必要ですけどね」


 「すいません、変なことを言ってしまって。実感がなくて……」


 「そうですよね。あっさりすぎて私も実感はありません。原因としては魔王軍の筆頭、それを含めた幹部の大半を先日私達の世界を襲撃してきた際に返り討ちした成果なんですよね。最大の難敵であったはずの魔王の姿は見えませんし。ここまで自軍を追い詰められていて隠れている理由もありませんから。少なくともこの世界には既にいないんでしょう」


 「……あの、聞きたいことがあるのですがいいですか?」


 「はい、何でしょうか」


 「……乾斗さん、暁乾斗さんの容体は分かりませんか」


 「…………あっ! しばらく一緒に居た彼ですね」


 私も一度会ったことがあるのに一瞬誰の事を言っているのか分かりませんでした。まさかここで暁君の話が出ると思いもしませんでした。てっきり居ない魔王のことについて聞かれるとばかり。でも、アマノリリス様は暁君の家でしばらく過ごしていたらしいですし、先日の戦闘後に意識不明ですから気にかかるのは当然ですね。


 「ミナモ、何か情報ありますか?」


 『確認しました。暁乾斗職員の意識不明が続いているようです。身体的には問題はないのでいつ目を覚ましておかしくはないとのことです』


 「だそうです。まだ寝ているみたいですね」


 「……大丈夫ですよね。このままずっと寝たままなんてことには」


 アマノリリス様の表情が沈んでしまいました。優しい女神様です。でも、そんな彼女を他所に戦いばかりで青春に飢えている私としてはついつい彼女と暁職員との関係をいろいろと考えてしまいます。女神様と結婚する人もいないわけではありませんし、今回のことがきっかけで恋とかに発展すると面白いですね。

 ああ、いけません。人の恋路を勝手に想像するなんて。

 今は彼女を少しでも安心させてあげましょう。


 「本部の医療体制はきちんとしてますし、もうしばらくこのままなら何らかの治療行為が行われると思いますよ。精神に問題があるならそれを治療する専門家もいますしね」  


 「それを聞いて安心しました。本当にいろんな能力を持った方々がいらっしゃるんですね」


 「そうですねぇ。多種多様すぎて任務で一緒になったりするとびっくりしますよ」


 それに比べるとただ斬るだけの私は地味だなっと思います。別に卑下するつもりはないし、刀からビームを出そうとも思いませんけど。


 「そうだ、女神様。実感はまだ湧いていないと思いますが、戦勝報告? 勝利宣言? えっとこの場合どう言えばいいんでしょうね。ともかく貴方の世界の人々に平和になったことを伝えてはどうでしょうか。皆、まだ状況が分からず不安になっていると思います。早く安心させてあげてください」


 自分達から報告してもいいが、これは女神である彼女が行う方が人々の心に安心を届けられる。


 「……はい」


 一度閉じて開けたアマノリリス様の目には力を宿していました。アマノリリス様は再び上空へと飛び立ち、街の中心部へと移動していきます。私も姿を見逃さないように追いかけます。

 広場がある街の中央にアマノリリス様がたどり着くと街の人々が集まってきます。全員が両手を合わせてアマノリリス様を讃えている様子を見ると本当に彼女が慕われていることが分かりますね。


 「皆さん」


 アマノリリス様の声が目の前で話されているかのように近くで聞こえます。神様としての力でしょう。

 そしておそらくアマノリリス様の声は町の人々だけでなく今生き残っているこの世界の人々全員に届けられているはずです。


 「数年前まで私達はただ平和に暮らしていました……いえ、違いますね。戦争があり、平和と呼べぬ時代もありました。けれども人と人で明日を願い暮らしてきました。誰かのため隣人のためと。それが魔王軍の襲来によってすべてが壊されました。私達は魔王軍の前になすすべもなく倒されていくばかりで見知っていた家族、知人、見慣れていた景色が亡くなっていくのを見ているだけしかできませんでした」


 アマノリリス様の言葉にこの世界に来たばかりのことを思い出します。本当にひどい光景でした。森は焼かれ、川は干上がり、山すら砕かれていました。人々が住んでいたであろう街には屍が散乱し、戦場後には兵士の死体がモニュメントのようにかざられていました。

 全ては魔王軍がこの世界の人々に対する見せしめのためにやったこと。絶望させるためにやったことでした。

 

 「ですが、それはもう終わりました。異世界から来られた私達を助けに来てくれた勇者の方々のご尽力により魔王軍は討伐されました。この世界は、ヴァラリアは……救われたのです。もう何も理不尽に奪われることはないのです」


 アマノリリス様の涙交じりの言葉の後、一拍おいて街の人々から歓喜の声が沸き上がりました。笑ったり、大泣きしたり、無言のままじっとしていたりと人によって様々でしたが皆、待ち望んだ平和が来たと喜んでいるようです。

 何度見てもこの世界を救われて人々が安堵して笑いあう光景は素晴らしいです。彼ら、彼女らがまた笑いあえる、泣きあえるというは何物にも代えがたい私達へ報酬です。

 

 「アマノリリスさまー! アマノリリスさまー!」

 

 広場では女神である彼女を讃える歓声が上がっています。彼女は世界が滅びるかもしれない時、そのまま滅びるのを良しとせずに救いを求めて世界を渡り、私達の世界へ来ました。そして見事に自分の世界を救える私達の協力を得たのですから称賛されて当然でしょう。


 「勇者様もありがとうーー!」


 街の人々の歓声が私にも向けられました。いやいや、一番頑張ったのは緑郎君達の方なので彼らに送ってほしいのですが一番最初の感謝の言葉を受け取ってしまって少し彼らに申し訳ないですね。


 「勇者は私だけじゃありませんよ! これから帰ってくる彼らを盛大に出迎えてあげてくださいね!」


 「おおっーーー!!」


 歓声がさらに大きくなって街全体を包みました。

 数時間後に街へ戻ってきた緑郎君達は盛大に迎えられてそのまま宴の主賓になりました。街の人々は夜遅くまで飲み歌い、笑いあい、そして何にも怯えることなく眠りにつきました。




 「もう行っちゃうの?」


 魔王軍の事後調査も終わり、ヴァラリアから自分達の世界へ戻ろうとした時、街の子供達に言われました。

 ここ数日調査の合間によく遊んだ子供達です。何度聞いてもその言葉を言われると少し後ろ脚が引かれます。ヴァラリアは魔王軍によって破壊されて世界中がボロボロです。復興の手伝いをしたい気持ちはありますが、復興の手伝いにはWDWCから復興専門チームが派遣されるはずです。ですから私達には他にも救わないといけない人々、世界がある場所へ行かないといけません。


 「はい、行きます。皆さんのように助けを求めている人達がいるかもしれませんから」


 子供達は私の言葉を受け取ると一度頷いて笑顔を向けてくれました。


 「……ありがとう、お姉ちゃん!」


 私はこの世界の子供達の笑顔を背に、また別の笑顔を見るために私達の世界へ戻りました。

断章も終わりになりました。


次回は新作を書いて折を見て続きを書こうと思っています。

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