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異世界から

敵襲


 サリーの言葉の直後、空から黒い人影が落下してきた。衝撃が地面を揺らし空気を揺らした。

 土埃が舞う中、衝撃でクレータが出来た公園の元芝生の中央で人影は俺達の方へと頭部を動かした。

 土埃が晴れて見えてきた人影は黒い甲冑を身に纏っていた。厳つい巨体に黒い甲冑は存在するだけで圧迫感を感じさせてくる。以前の単眼巨人の方が体格は大きかったが圧迫感はこちらの方が増している。

 よく見ると肘部分や肩部分は鋭利に尖っており、赤く染まっていた。染みついていて見えにくかったが鎧の各所にも赤い模様がうっすらと見えた。腰には両刃の剣を差していたが鞘などはなく抜き身だった。

 不気味な黒い甲冑は低い声を発した。

 

 「ーーーーー」


 「?」


 確かに発した言葉を俺は理解できなかった。異世界の言語と判断するより早くサリーが翻訳した言葉を教えてくる。見つけたと奴は言ったらしい。その言葉を受けて横目でアマノリリスを見るとひどく動揺しているようで口元を手で押さえて震えていた。


 「アマノリリスさん?」


 「ガイール……」


 震える声でアマノリリスが呼んだ名に黒い甲冑の男が答えるようにゆっくりとこちらへと歩いてきた。


 「覚えていたか……。全てを忘れ、全てを捨てて他の世界へ逃げ出したと思っていたがそうではないようだな」


 サリーによって翻訳された声が聞こえてくる。アマノリリスと知り合いのようだが間違っても味方ではないだろう。


 「に、逃げてなんていません。あなたこそなんでこの世界に」


 「我が魔王様の命により貴様を女神アマノリリスを連れ戻しにきたのよ」


 「連れ戻す? なんで私を……」


 「魔王様の楽しみのためだ。魔王様は世界を滅ぼす時、その世界の神、もしくは住人を一人だけ生き残らせて世界が滅んでいく様を鑑賞させるのが恒例でな。一番の楽しみなのだ」


 「……っ」


 ガイールの言葉にアマノリリスの顔が険しくなった。俺も度しがたい悪趣味に対してアマノリリスと同じような顔になっている。


 「話の途中に割り込むが、突然この世界へやってきたんだ。住人に対して自己紹介くらいはしてくれてもいいじゃないか?」


 俺の言葉が理解できたガイールという奴の足が止まる。驚きと警戒を感じたのだろう。横にいるアマノリリスも同じように驚いているが仕方ない。今の今までアマノリリスの世界の言葉を話せるということを隠していたのだから。


 「驚いた。この世界と女神アマノリリスの世界の言語が同じだとは」


 「いいや、全く違う。勉強したんだよ。異世界の言葉を覚えるのは職業的に必須能力だから」


 サリーのようなAIがいるので聞く分にはどの異世界だろうとそれほど苦労はしないが、話す方ではAI経由では円滑な交渉が出来にくい。そのため言語習得はWDWCの職員として高く求められている技能だ。

 アマノリリスの世界の言語は類似した言語を使う既知の異世界が存在したので早めに習得できた。といっても不意に言葉をかけられると直ぐには理解できないので少し切り替えの時間がまだ必要だ。


 「乾斗さん、いつの間に……」


 「夜中とか訓練中に時間を見つけて勉強してたんだよ。俺もアマノリリスさんの世界へ行くかもしれなかったからな」


 異世界からの客人を世話をしていた職員が一緒に異世界へ行くというのは稀に聞く話だ。俺もそれを期待して勉強していたのだが無駄になっていた。まさかこのタイミングで披露するとは思いもしなかった。


 「その口ぶりと態度から女神の横にいるのは偶然ではないということだな。女神がこの世界で見つけた勇者ということか? 前の勇者と比べて頼りないようだが」


 ガイールの品定めするような視線を身に受けて若干体が硬直する。

 蛇に睨まれたカエルじゃあるまいしっと奥歯を強く噛んで気圧された体に力を入れる。


 「生憎と勇者なんて立派な人物じゃない。ただの職員だ」


 「ならば去るがいい。我が使命は女神を連れ戻すこと。今はまだこの世界へ手を出すことはない」


 「今はまだってことはいずれはこの世界へ侵略に来るってことか?」


 「それが明日の事か、数百年後の事になるか……すべては我が魔王の意思のままよ」


 「この世界への脅威になるというなら今のうちに倒しておきたいな。その魔王様を」


 「不可能だ。魔王様はどの世界においても並ぶ者の居ない存在。倒すことなど人間はもちろん、あらゆる神であろうと不可能だ」


 「並ぶ者がいないってどうして分かるんだ? まだ行ったことない異世界にいるかもしれないだろ」


 「分かるのだよ。貴様も魔王様と出会えば分かる。魔王様が絶対的な存在だということが……。もっとも魔王様を認識する前に貴様の意識が持てばだが。そこの女神の世界の住人は魔王様が顕現しようとしただけで失神し、命を失っていたものよ」


 「それはそれは怖いな。で、もう一度聞くがそんな怖い魔王様に怖くて従っているあんたは誰だ?」


 「我はガイール、魔王軍幹部筆頭だ。我に対する挑発的な言葉は自身が感じている怖さの裏返しか?」


 筆頭だけあってか口が予想以上に回る。そして挑発にまったく乗ってこない。冷静な敵というのは厄介だ、加えて間違いなく俺より強い。


 「で、ガイール。アマノリリスさんを連れていく件だが断らせてもらう。魔王様に任務失敗しましたと伝えてくれ」


 「拒否するというのであれば力づくということになるぞ。死にたくないのであれば言う通りすべきだ」


 「アマノリリスさんはこの世界の機関WDWCの客だ。彼女を無理に連れ去るというのなら所属する者として対応させてもらう」


 「……よかろう。邪魔をするというのならっ」


 先手必勝ということで不意打ちで思いっきり殴った。話をしている間にサリーが壱式・甲の展開を終えていたので威力は充分。ガイールは数メートル後ろへと殴り飛ばされていった。


 『ベストタイミングと判断します』


 「ああ、ばっちりだよ。100ポイントくらい進呈だ」


 『今日は大盤振る舞いですね』


 「閉店セールにならないことを祈ってろ」


 『AIは祈ることはありません。閉店セールにならないよう計算しサポートいたします』

 

 相棒の頼もしい言葉を受けて平然と立ち上がるガイールを凝視する。防御魔法で防がれた様子はない。全身を硬そうな鎧で覆っていたので比較的装甲が薄そうな顔面を狙ったのだが、それでも効いている様子はない。

実は頭も良くないとなれないWDWC職員

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