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降ってきた新装備

航空法とか完全無視してる科学班というか漆さん


 「ミサイルじゃなかったか……。サリー、状況を確認してくれ」


 『飛翔体の着弾地点を確認。先ほど乾斗様が投げられた箱の11センチ横に着弾。箱型の物体と認識。表面に熱を帯びていますが爆発物ではないようです』


 「分かった。……科学課、漆さんから何か連絡はあるか?」


 『問い合わせを行いましたが科学課は本日慰安旅行のため全員不在となっております。御用の際は後日対応いたしますとなっています』


 「誰もいないとかそれは大丈夫なのか。というか飛翔体は完全オートで飛んできたのかよ。時限式トラップか?」


 連絡が付かない日にわざわざ危険な物を送り付けてくるとは嫌がらせにしては度が過ぎている。


 「あ、あの、乾斗さん?」


 「どうした、アマノリリスさん。どこか怪我をしてしまったか?」


 俺の顔とアマノリリスの顔が近い。

 そのため全身を確認できないが身を屈めた際に足でも捻ってしまっただろうか。


 「怪我をしたなら文句は科学課に言うといい。いや、言わない方がいいな。変なことに巻き込まれる可能性が高い」


 「近いので……どいて、もらえると」


 視線を逸らして顔が若干赤くなっているのを見てようやく照れていることに気付く。純情すぎるとは思うが、アマノリリスを困らせる必要もないので言われた通りに立ち上がってアマノリリスから離れる。


 「とりあえず飛んできた物体を確認するか。よく分からないモノを放置しておくわけにもいかない」


 「そうですね」


 アマノリリスも立ち上がると気持ちを落ち着かせるためか胸の部分に手を当てて何度か深呼吸をしていた。木人というか山の精霊は自分の領域を傷物にされて怒ったのか腕を振り上げて地団駄を踏んでいる。


 「山の精霊、怒るのは当然だ。あんたの分も俺が責任者に怒っておくから今は怒りを抑えてくれ」


 木人は納得いかないという感じで首を傾げるとアマノリリスさんに何が言うような動作をした。


 「えっと……損傷した木々の回復作業を行うことが条件だと言っています」


 「当然だな。科学課なら森林を修復する技術の一つや二つはあるはずだから問題ないだろう。伝えておく」


 納得してくれたのか木人は腕組みをして一度大きく頷いた。

 

 「分かったそうです」


 「ありがとう、アマノリリスさん。あなたが居てくれたから山の精霊との会話がスムーズに進む。俺だけならもっと時間がかかっていた」


 「いえ、これくらいならいくらでもお手伝いしますから」


 アマノリリスに軽く頭を下げて感謝を伝えると落下物がある自主練場へと足を向けた。


 自主練場は筋トレの器具が倒れている以外は目立った損害は見れなかった。周辺の木々にしても落下時の衝撃はそれほどでもなかったようで倒れたり折れたりしているものはなかった。

 改めてサリーの案内してもらいながら落下場所へとたどり着くとさすがにその周辺は落下物を中心とした小さなクレータが出来ており、草木が曲がっていた。焼けたような跡が見えないのは漆さんも少しは被害を考えた結果だろう。


 「これ何なんでしょうね」


 アマノリリスの疑問の声に俺も落下物に視線を向ける。旅行ケースくらいの大きさの金属製の箱が鎮座していた。下の方が若干地面に埋まっているので上手く固定されて倒れていない。


 「さあな。サリー、中身は何か分かるか?」


 『特殊な金属を使用しているようで内部サーチができません』


 「開けてみるしかないか。アマノリリスさんと山の精霊は離れていてくれ。ここまできて危険物の可能性は低いが念のためだ」


 「分かりました」


 アマノリリスと山の精霊が距離を取ったのを確認すると俺はまだ熱を帯びている箱を素手で触るわけにはいかないと壱式・甲を展開する。

 慎重に近づき箱の様子を確認すると開閉ボタンらしきものがあった。少し勇気を入れて開閉ボタンを押すと箱は縦方向に割れるようにして開いていく。少し離れながら箱の中身を覗き込むと中には巨大な銀色の籠手が左右セットで入っていて<陸式・己>と印字されていた。


 先日、開発を急かした新装備だ。


 「……送ってくるならもっと普通の方法があったでしょうに。それとも急かした俺への意趣返しですか」


 『やぁやぁ、乾斗君。この声が聞こえるということは陸式・己(ろくしき・つちのと)が無事届いた証拠だね。怪我人はいないかな? ちょっとそこだけ心配。乾斗君の家の周辺はあまり人がいないから大丈夫だろうってこの輸送方法にしたんだけど、平気だよね』


 当然のように箱から漆さんの声が聞こえてくる。


 「怪我人はいませんが平気ではありません」


 『何度も言うけど、これは録音なので文句を言われても何もできないよ』


 俺の返答への回答が適格すぎる。実は何かで俺を監視してリアルタイムでしゃべっているのではないだろうか。

 

 『陸式・己(ろくしき・つちのと)はなんとか乾斗君が使っても大丈夫かなという段階まで仕上げたよ。本来は調整室でテストをしてもらうのがいいんだろうけど、科学班の慰安旅行の日程が近くてね。乾斗君にこっちに来てもらうと思うと慰安旅行後になってしまうんだ。それだと待たせすぎるかなっと思ったのでちょっとしたサプライズで送ってみたよ。喜んでくれたかな?』


 これで喜ぶと思っているなら漆さんはおかしい。いや、これだけのことは漆さん一人では出来なかったはずだ。科学課の人達は誰か止めなかったのか。


 『テストのレポートはAI経由で送ってね。旅行から帰ったら検討するよ。じゃあ、僕は温泉楽しむから』


 「サリー、この箱を科学課の慰安旅行先に飛ばすことはできないか」


 『それなりの設備を必要としますので現状では不可能です』


 分かりきっていたサリーからの返事を受けて大きいため息がでる。


 「乾斗さん、箱の中には何が入っていたんですか?」

 

 振り返るとアマノリリスと山の精霊が興味津々という感じて近づいてきていた。


 「俺用の新装備。もっと普通に送ってくれればいいのに」


 「おっきな腕……えっとガントレットっていうんでしたっけ?」


 「そういう呼び方もあるな。他には籠手とかミトンとか呼び方は国によって色々だ」


 「乾斗さんが今付けているモノと違うみたいですけど」

 

 アマノリリスの視線が今、俺が展開している壱式・己に向けられる。


 「陸式・己。この新装備は試作中だからな。デザインとかは後回しになっているんだよ。完成すればもう少しスリムになるって聞いてる。さて」


 送ってきた方法には文句は多々あるがせっかく送ってきてもらったのだから装備して試さなくてはいけない。


 「サリー、装備したいんだがサポートをお願いできるか?」


 『Will do。ただいまマニュアルをインストールいたしました。準備完了です。陸式・己を壱式・甲の上に装着してください』

 

 サリーの指示に従い陸式・己を装着する。俺の腕の二回りほど大きい陸式・己はずっしりとした重量で腕を真下にひっぱる。装着する際に持ち上げた段階で気付いていたがかなりの重量装備だ。以前装備した時よりは軽くなっている気がするがそれでも負担はでかい。


 「サリー、陸式・己の重量は分かるか」


 『片方で8.4キロとなっております。最終的には5キロ以下に抑えることを目標にしているそうです』


 5キロでも重い。

 それほどの重さを抱えたまま戦闘を行えば回避行動などに弊害がでてくるのは明らかだ。5キロの重りを付けても今まで通り動けるように鍛えろと言われると確かに戦闘課の人間としては反論できる言葉はない。科学課が可能な限り努力してくれたのなら戦闘課も可能な限り努力して装備を最大限に活かせるようにならないといけない。


 「道具は使う人次第でしたっけ? なら使えるようにならないとな」


 漆さんにそんなことを言われたのを思い出すと力を込めて腕を持ち上げて拳を突き出す。一突きで発生した腕への負担を感じてこれは相当鍛えないといけないと覚悟を決めた。


 「どんな装備なんですか?」


 「見た目通りというか……威力重視、打撃力向上を目的とした装備だよ。確か壱式の18倍の威力で殴れると聞いている」


 『性能テストでは16.7倍が最高値となっております』


 「そこはまあカタログスペックという奴だろ。壱式の16倍なら十分すぎる」


 それほどの威力なら先日の巨人にも対抗できるはずだ。


 「使ってみたいが……」


 威力を実際に確認しようと殴っても大丈夫な物を視線で探す。木は山の精霊が怒りそうなので駄目だ。ちょっとした崖下の壁ならあるが下手に衝撃を加えて山の一部が崩れでもしたら大変だ。

 悩んでいると山の精霊が自分に打ってこいという動作をしているのが目に入った。


 「アマノリリスさん、山の精霊は何と言ってるんだ?」


 「えっと、私が受け止めてやるから打ってこいと言ってます」


 「……いいのか?」


 「構わないそうです。山を壊されるわけにはいかないって」


 「俺が人質でも取っているような言い方だな。山の精霊にとって山全部が大事で傷つけたくないんだろうけど」


 せっかくなので申し出を受けることにしたが、山の精霊の体である木人は兄さんが作ったモノでそれなりに愛着がある。陸式・己の威力が想像通りなら最低でも木人はへし折れて、最大で木っ端みじんになる可能性がある。さすがにそれは避けたいので山の精霊に木人の腕を巨大にしてもらい、それを打撃することにした。

 

 目の前に直径2メートル程度の木人の腕が置かれ、腕を伸ばした山の精霊とアマノリリスさんは安全のために俺の背後に回ってもらっている。


 「準備はいいか、サリー」


 『出力はどういたしましょうか? 添付されたメモにはまだ試作であるため80%までとありましたが、機能上は100%も可能です』


 「最大はさすがに怖いな。50%……いや、40%で」


 以前使った際、両腕に大怪我を負っている。アマノリリスに余計な心配を与えないためにも怪我をするリスクは低い方がいい。


 『Will do』


 サリーの返事を合図に陸式・己が青白く光る。銀色の装甲部分が後ろにスライドしてより腕に密着していく。フィット感が増して腕全体が熱を帯び始めた。


 「準備完了です、乾斗様」


 「よしっ!」


 声で気合を込めると能力を使って木人の腕を打撃する。

 打撃音が山に響くと打撃点である中心部分が大きくへこみ、一瞬と間を置いて破砕した。上半分ほどが向こう側へ飛んでいき、木々を巻き込んで停止する。下半分ほどは無理やり折られた木の節々を打撃の威力方向に曲げながらなんとかその場にとどまっていた。

 後ろ見るとアマノリリスが驚いており、その横では山の精霊が入っている木人が転んでいた。山の精霊の足元を見ると踏ん張ったような跡あり、彼らが踏ん張っていなければ下半分もどこかへ飛んで行ったかもしれない。


 想像以上の陸式・己の威力に驚く俺だったが、歓喜の声を上げる前に殴った右腕に激痛が走った。

強い分だけ反動もでかい。

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