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すてーたす

ヤード・ポンドは本当にややこしい。


 到着した車の乗った俺は東京支社へではなく系列の病院へと向かわされた。事務方への連絡についてはサリーが既に行っていたため不要と判断されたためだ。ベルカさんなら東京支社へ行かなくても良い事を知っていたはずなのであの場からアマノリリスを遠ざけるためだけの方便だったのだろう。


 「ミイラみたいですね」


 まだ若干泣き後が残っているアマノリリスが視線を向けているのは乱雑に包帯が巻かれた俺の体だ。病院までの車内で返り血の洗浄と応急処置くらいしておこうと備え付けの救急キットをいじっていたらアマノリリスが手伝わせてほしいと頼みこんできた結果が今の俺の状態である。


 「ミイラみたいにした本人が言うか。それに包帯巻きにされたからミイラというわけじゃ……というかアマノリリスさん、ミイラを知ってるんだな。いるのか、アマノリリスさんの世界にミイラ」


 「私の世界にはいません。でも、本で読みました。例の異世界転生とか転移とか書かれた本じゃないですよ。この世界に来てから勉強で読んだ本です」


 「その本はゲームの本じゃないのか。ゲームだと包帯巻きされた死体はミイラと分類されているみたいだし」


 「そうなんでしょうか? 攻略本と書かれていたので何か役に立つだろうと読んでいました」


 「いや、気付くだろ。中身はイラストだし、ステータスがどうのこうの書いてあるんだから」


 「え? 異世界だと<すてーたす>? というのが普通にあるんじゃないんですか?」


 「異世界から来た女神が言うか。そのセリフ」


 「でも例の本にはそれが基本だと」


 「……確かにそういうことが出来る異世界が多いのは確かだ。アマノリリスさんの世界には無かったのか。確かステータスオープンとか言えば見えるんだろ」


 「無いんです。例の本で読んで確かに数値で強さが分かれば誰が強いか何が得意か分かりやすいなって関心してました」


 この世界でもステータスを見れる人達はいる。全員、元居た異世界でステータスを見れる人達、またはその子供達だ。異世界に関わりがある人達特有の技能となっている。

 だが、ステータス上の数値が同じでも異世界が違えば強さは違うらしく、別々の異世界出身の男二人が腕相撲をした際、腕力の数値が低い男が勝ったという話を聞いたことがある。


 「便利は便利だろうな。誤魔化ができないから実力がない奴が重要な役職とかにつくことがない」


 「ですよね。皆さん、数値が高くなればいい仕事が出来てると分かっているので日々自分磨きに努力して互いに切磋琢磨して……」


 「でも、異世界からの帰還者からよく聞く話で頭の悪い人物、ステータスが低い奴が国の上層部にいるそうなんだ」


 「そうなんですか?」


 「頭の良さとかも数値化されているわけだろうから普通に考えたら数値が低い人物が上層部にいるわけがない。でも何故かいる。理由としては世襲制だったからとか、ステータス上の数値と実際の頭の良さは別だと聞いている。数値はあくまで魔法なんかを効率的に使えるかの指標で頭の良さとは違うらしい」


 「簡単ではないんですね」


 「能力査定は必要だがな。WDWCでも能力を数値化して評価しているし」


 「ステータスオープンですか?」


 「違う。握力何キロとか100メートル何秒とかだ。後、戦闘科には別の指標がある。例えば……」


 そこまで言って独自の指標なのだから仮にも部外者であるアマノリリスに伝えてよいのか悩んで言葉を止める。


 「サリー、ランク決め評価の話はしても大丈夫か」


 『広報資料に掲載している部分であれば問題ありません』


 「いや、どの部分が掲載されているか分からないんだが……」


 そもそも広報資料は表紙以外は流し読みしかしたことがないので何が広報されているか知らない。


 『では代わりにお答えしますがよろしいですか?』


 「頼む。サリーの説明の方が分かりやすいだろう」


 『Will do』


 「よろしくお願いします。サリーさん」


 『ここは先ほど失ったサリーポイントを回復チャンスと判断します。と言いましても目的地である病院までは後数十秒ですので手短にご説明します』


 言われて窓の外を見てみると病院らしき建物が見えてきていた。


 『分かりやすい指標としては戦闘速度です。Sランクは光速、Aランクは音速、それぞれで行われる戦闘に対応できるかが基準となっております』


 「速度と言われましたけど、光速とか音速というのはどれくらいの速さなんでしょうか」


 『光速は光の速度です。約30万キロメートルを一秒で進みます』


 「すいません、メートルは単位ですよね。そちらもちょっと……」


 『メートルの説明まで行いますと複雑になりますので一旦はヤード・ポンド法は悪だと覚えてください』


 「偏った思想を教えるな。っと着いたな。サリー、説明できなかったからポイントはなしだ」


 『有能AIとして度重なる失態を反省いたします』


 「ごめんなさい、サリーさん。私が質問ばかりしたから」


 『いえ、単語の意味を理解されないまま説明を行ってもそれは不十分となりますのでアマノリリス様の質問はよい質問だったと判断しております』


 包帯巻きにされてやや動きにくい体でなんとか車を降りると看護師が出迎えてくれた。


 「お待ちしていました。どうぞ、こちらへ」 

 

 看護師に案内されて処置室に着くと当番医であった回復術師のドクターの手により数秒で俺の怪我は完治した。怪我の程度を聞こうとしたが、次の患者が入ってきたので長居はできずに医務室を後にすることになった。

 

 「数秒でしたね」


 「だな」


 アマノリリスの言葉に治療を受けた俺も同意する。流れ作業て処置された感があり、治療されたという感じがまったくない。前にも回復術師に怪我を治してもらったことはあるが、その時は怪我の程度を聞いて患部を集中的に治すような処置をしてくれた。今しがた受けた処置は面倒だから全身に満遍なく回復魔法をかけられたような気がする。


 「怪我は……治ってるんですよね」


 「少なくとも痛みはもうないし、動かしにくい場所もない」


 むしろ戦闘前より動きが良くなっているかもしれない。


 「私の世界にも回復魔法を使える人達はいましたけど……次元が違う気がしますね」


 「実際世界が違うからな。それにこのWDWC系列の病院にいるってことはかなり高いレベルの回復魔法を使える人ってことだしな」


 今回俺が負った程度の怪我を数秒で治せなくてはいざ異世界へ行った時に困るのだろう。未開の異世界では怪我する度に長時間休めるような場面があるとは限らない。むしろ敵の真ん中で傷を追いながら数時間戦い続けることすらあるだろう。そんな時に怪我を治してくれる仲間がいればとても心強いことは想像しやすい。


 「私も回復魔法はできるんですけど、あそこまで素早く完璧にはできません。女神なんですけど」


 「使えたのか」


 「はい、でも今は腕輪の力で抑えられていてほとんど効果がないみたいです。さっき乾斗さんに包帯を巻いている時、こっそりやってみたんですけど」


 「人に黙ってやらないでくれないか。善意なのは分かるが」


 知らぬ間に変な魔法をかけられいるかもしれないという不安が脳裏をよぎる。善意だとしてもアマノリリスの回復魔法がこの世界の住人である俺の体に効果があるとは限らない。逆に害になる可能性もなくはない。

 怪我を治そうと回復魔法をかけたら患部を腐らせてしまい殺してしまったなんて事もある。異世界同士の交流による不幸の事故の一例だ。


 「少しでも役にたてればと思ったんですけど」


 「非難したいわけじゃない。気持ちはありがたいんだ。だから包帯を取るのを手伝ってくれないか」


 怪我が治ったので包帯を取ろうとしているのだが、変に絡まっているのか一向に取れる気がしない。自分達でやったことなので忙しい看護師の人達にやってもらうのも気が引ける。


 「あわわ、すいません。私が……」

 

 アマノリリスに手伝ってもらったが、包帯を全部取るのに1時間ほど費やした。

ヒーラー、メディックは重要。

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