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Aランク

ピンチの連続ですが、ここで新キャラ2名登場です。

 「こっちも見た方がいいぜ」


 サープスの声がした方から拳が飛んできた。寸前で拳は躱すが破壊された道路の破片までは避け切れず吹き飛ばされる。鎮痛剤で和らいでいた痛みが再び叩き起こされる。

 何とか受け身を取って立ち上がるとゾンビ軍団が目の前に迫っていた。


 『乾斗様、念のため噛まれないよう注意を』


 「言われなくても注意する」


 能力で間合いを取りながら近づいてくるゾンビ達を打撃していく。ゾンビの体は当然といえば当然のごとく脆く打撃されるたびに体の一部が吹き飛んでく。しかし、腕や足、胴体の一部が吹き飛んだ程度ではこちらに向かってくるのが止まらない。

 このままでは近距離に接近されるのも時間の問題だ。


 「弐式・乙(にしき・きのと)起動」


 音声起動により壱式・甲(いちしき・きのえ)弐式・乙(にしき・きのと)へとナノマシンの配列を変えていく。瞬く間にナノマシンが弐式・乙(にしき・きのと)への移行を完了し、展開した刃を青白く光らせた。

 弐式・乙(にしき・きのと)により打撃は斬撃へと変わった俺の拳はゾンビ数体の胴体を上下に両断する。上半身だけになってもゾンビは動いていたが這いずることしかできないため移動速度は大幅に激減させることができた。

 理性があれば仲間が両断された光景に怯えもするだろうが、ゾンビ達は怯えず床を這いずる仲間を踏みつぶして向かってくる。

 

 「ふぅぅぅ」


 一度深く呼吸をして集中力を高める。ここから先は一手のミスも許されない。

 ゾンビの一体が突き出してきたぼろぼろの槍を掴み、そのままゾンビごと円を描くように振り回す。勢いが付いたところで槍を放すとゾンビは数体を巻き込んで飛んで行った。

 若干開いた距離をまた詰めるように剣持ちのゾンビが襲ってくる。能力の斬撃で剣を持った腕を切断し、ゾンビを後ろへと蹴り飛ばす。上から落ちてきた先ほどのゾンビの剣を飛び掛かってきたゾンビに投げつけると当たったかどうかを確認する間もなく近づいてきたゾンビ達に能力による斬撃と実際の俺の拳による打撃を乱打する。


 全方位視界全てがゾンビで埋め尽くされているためどこを殴ってもゾンビが切り飛ばされていく。

 

 「!?」


 何かに足を掴まれたと下を見ると上半身だけになったゾンビが何体も足元に群がっていた。下への注意を怠っていたことを後悔しながらゾンビ達を蹴り飛ばす。

 低いうめき声と共に今度は上からゾンビ達が飛び掛かってきた。奥歯を噛みしめる俺が見たのは飛び掛かってくるゾンビ達のさらに上空から迫ってくるサープスの巨大な拳だった。


 避けようとしたがゾンビの槍で背中を突かれてしまう。着ている強化スーツのおかげで貫通こそしなかったが体勢が崩れてしまい、もうサープスの拳は避けられそうになかった。


 諦めきれず迫るサープスの拳を睨みつける俺の視線の先、サープスと俺の間、周辺にいたゾンビ達を吹き飛ばすように雷が落ちた。

 発生した衝撃破で後ろへ大きく吹き飛ばされる。同じように吹き飛ばされたゾンビ達を空中で薙ぎ払いながら俺が見たのは落ちた雷ではなく、自身の身長ほどある大太刀(おおたち)を振り下ろした金髪の女性の姿だった。

 

 「キェェェェェェェッ!!」


 遠くから動物が鳴いたような甲高い声が彼女を追うように聞こえてきた。

 西洋の甲冑を着込んだ彼女を俺は知っている。

 ベルカ・ミネン。戦闘課Aランク職員。現在日本にいる戦闘課の職員で間違いなくトップクラスの実力を持つ女性だ。

 彼女については美人だというのが率直な感想だ。鼻筋が通ったややツリ目な顔立ちは中性的で男女ともに魅了される。流れるような金色の長髪は陽光で照らされて神秘さも引き出していた。身長は俺と同じ170センチくらいなのだろうが、着ている鎧や大太刀の存在感も合わさってより大きく見える。


 「無事ですか? 暁職員」


 ベルカさんがはつらつした発声で俺の方を向く。


 「ベルカさん、まだ敵が!」


 吹き飛ばされながら何とか着地した俺はベルカさんを心配して声をかける。周囲のゾンビはもちろんのこと、ベルカさんの目の前には拳を突き出したサープスがいる。


 「ゾンビなら心配ないですよ。この程度なら問題なく掃討できますから」


 「いや、ゾンビもそうですが……目の前の巨人が」


 「ですから心配は無用です」


 ベルカさんの言葉が終わるとタイミングを計ったかのように巨人サープスの体が縦に割れた。スローモーションのように巨体がほぼ中央から左右に分かれていき、ズレた箇所から噴き出た血液が雨のように降り注ぐ。


 「あー、ごめんなさい。血で汚しちゃいましたね」


 俺もベルカさんも降り注いだサープスの血で服も鎧も真っ赤に染まってしまった。が、俺としてはそんなことよりも先ほどの駆け付け一刀でサープスを、俺が手も足も出なかった相手をベルカさんが倒した事実に驚愕していた。

 強いのは当然知っている。負けるとも思っていない。だが、こうもあっさりとは想像していなかった。

 ベルカさんは少し料理を失敗して困ったような表情を浮かべているだけで特別やりとげたような態度を出していない。彼女にとってこれが普通か。


 「それで怪我ありませんか?」


 「……打撲はありますが、重傷とかではありません」


 「なら良かったです。間に合って良かった、本当に」


 ベルカさんは笑顔を向けてくれた。この笑顔だけで本当に心配してくれていたのだと実感できる。


 「詳しいことは後にして残りのゾンビ達を片付けましょう。まだ戦えますか?」


 「大丈夫です」


 「よし、男の子はそうでないと。少しくらい無理でもやるって言う子が私は好きですよ」


 「すいません。自分には嫁がいますので」

 

 「え? 今、フラれた?」


 ベルカさんはショックを受けたような顔をしていると背後からゾンビが迫った。俺が危ないと声を出そうとしたが、それより前にベルカさんは甲高い動物のような声を発してゾンビを切り捨てた。

 確か猿叫と呼ばれる叫び声だ。ベルカさんは『二の太刀いらず』がスローガンの鹿児島辺りが発祥の剣術を使っている。一太刀振り下ろす度にゾンビ数体が斬り裂かれ、その余波でさらに数体が吹き飛んでいく。


 「い、いえ、別にフッたとかそういうのではなく……」


 「冗談です」


 俺がベルカさんの態度に狼狽えている内にベルカさん本人はゾンビ達を笑顔で切り捨てていく。なんというか時代劇のクライマックスシーンである大立ち回りのド真ん中に迷い込んだ感じだ。絶対的な安心感を感じてしまう。


 「ほらほら、暁職員も手を動かして」


 「は、はい……っ!」


 ベルカさんの登場、そしてサープスが倒されたことで忘れていた。まだ敵がいることを。


 「ベルカさん、まだ上に敵が!?」


 「そっちも大丈夫。緑郎君が今、戦ってますから」


 直後、上空から爆発音が届いた。音の振動でビルの窓ガラスを破砕されていく。降り注いでくるガラスから身を守っていると近くのビルに何か黒いモノが激突した。

 何がぶつかったのかと見るとバラルだった。纏っていた黒マントがぼろぼろに破けておりマントの中から細長い老人のような手足が覗いていた。


 「くそぉ、くそぉ! なんだお前はボクの闇魔法が何で効かないんだ!」


 「あんたが弱いからでしょ」


 続いて上空から降りてきたのは少年だった。長い銀髪は背中まで伸びていて前髪も目を完全に覆っている。紅いマントを羽織っていてマントの中から見えた服は上下黒のWDWC職員服を独自にアレンジしたようなのを着ていた。所々についている金色のラメや腰回りの銀色のチェーンが目立つ。

 ベルカさんが先ほど緑郎と呼んでいた。なら思いつく人物は一人しかいなくなる。

 佐々木緑郎。彼も戦闘課のAランク職員だ。まだ11歳だが勤続年数は俺より長いので先輩だ。彼はいわゆる魔法使いで地水火風の魔法は当然として身体強化魔法で接近戦も出来る優秀な職員として知られている。


 緑郎さんは細い腕をバラルに向けると腕の周囲に炎の矢を出現させて放った。<ヴェロクス・フローガ>という単語をつぶやいたように聞こえたが、何を意味するか俺には分からない。そう思っているとサリーがギリシャ語で『炎の矢』という意味だと教えてくれた。

 わざわざギリシャ語を選んでいるのだから日本語でそのまま炎の矢とか単純に<ファイヤーアロー>でいいのではとか言ってはいけないんだろう。


 放たれた炎の矢が当たる寸前でバラルは上に避ける。炎の矢が当たったビルが倒壊してきたので俺とベルカさんはゾンビ達を倒しつつ回避する。ビルの倒壊にかなり数のゾンビが巻き込まれたので数は大分減った。

 ビルが倒壊した折に巻き起こった風でバラルのマントが剥がれていき、その中身が露わになる。マントの下から現れたのは痩せ細った白髪の老人だった。服は下半身に褌のようなものを纏っているだけで一見した印象は仙人だ。


 「若造がぁ調子にのるな!! 混沌よ、集まり収縮し全てを呑み込む痛みとなれ!!」


 バラルが天に両手をかざすと黒い大きな球体が現れる。黒い球体から発せられた引力で周囲の空気はもちろんビルや街路樹が吸い込まれていき俺の体も浮き上がりそうなる。ゾンビの数体が引力に逆らえず黒い球体の方へ吸い込まれていって黒い球に触れた瞬間、ゾンビの体が跡形もなく消し飛んだ。


 「ふはは、これはな普段ボクが防御用に回している魔力分も攻撃へ転化させた最上級闇魔法<ダーシュオブベイン>。何者であろうと触れれば消滅させるぞ」


 「わー、すごーい」


 緑郎さんが感情のまったく困ってない言葉で称賛する。俺にはバラルの言葉がどこまで本当か分からないが、黒い球体が奴の切り札であることは間違いないだろう。


 「大丈夫なんですか?」


 「魔法については専門じゃないけど、緑郎君が平気そうだから大丈夫ですよ」


 俺の心配する言葉にベルカさんは自信満々に答えた。同じAランク職員の二人は何度か一緒に戦ったことがあるのだろう。互いの実力を分かって信頼している。


 「消え去れぇ、小僧!」


 「消えないってその程度じゃ」


 放たれた<ダーシュオブベイン>に対して緑郎さんは片手を前に突き出す。


 「障壁となれ、<ブークリエ>」


 緑郎さんの数メートル前に光の盾が出現すると<ダーシュオブベイン>を受け止めた。ブークリエというのは防御魔法なのだろう。


 「なにぃ!」


 「ねぇ、これで本当に最上級? 嘘ついてないよね?」


 「馬鹿な! 誰であろうと消滅させてきたボクの<ダーシュオブベイン>を……その程度の防御魔法で」


 平然とする緑郎さんに対してバラルは動揺と怒りに身を震わせていた。


 「……本当にこれが最上級みたいだね」


 緑郎さんは呆れたようにため息をついた。


 「終わらせるよ。ここならいつもより派手な奴を使っても平気だからね! 異なる力よ、今この場で交わりて大いなる力となれ」


 緑郎さんの背後、四方に巨大な四色の魔法円が現れた。魔法の才能がまったくない俺でも分かるくらいすさまじい力が魔法円から発せられる。

バラルも当然それを察して突き出した両腕に力を籠めるように叫び声を上げた。<ダージュオブベイン>を受け止めている光の盾が若干後ろにずれる。


「やればできるじゃん。もう遅いけどね」


緑郎さんがもう片方の手を前に突き出すと何枚もの白い魔法円がバラルへ連なって向かって出現する。


「<クァルトアトゥーラ!!>」


緑郎さんの背後の魔法円から四色の光が放たれて白い魔法円と注がれる。白い魔法円群は集約された力を解き放たんと回転を始めて白い魔法円の間を稲妻ようなものが走る。


「<カノーネッ!!>」


白い魔法円の中心を貫いて白い巨大な光が走る。空気が激しく振動してぶれる視界の中、白い光はバラルの<ダージュオブベイン>を呑み込み、そのままバラル自身をも巻き込み突き進む。隔離空間内に疑似で作られた空には白い光で突き抜けた穴が開き、奥からは本当の空が覗いた。

ベルカさんはこれでも大真面目な人で

緑郎君は中二病を患っている子です。

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