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異世界転移というモノは

今回少し短いですが、次の話は明日更新します。

 気が付くと俺は小野路食堂の二階部分である住宅スペースにいた。目の前には毛布の上で寝ている赤ん坊がいる。

 その赤ん坊が千華ちゃんだと気付くと同時にこれが夢であることにも気付く。

 

 アマノリリスと千華ちゃんについて話したせいだろうかあの時のことを夢で見ている。つまりこの後もうすぐ事件が起こるのだ。俺は見たくないと夢から覚める方法はないか考えてみるが考えている間に事態は進んでいく。


 寝ていた千華ちゃんが急に泣き出した。夢の中の子供な俺はどうすることもできずに千華ちゃんの両親を呼んだ。

 千華ちゃんのお母さんがすぐに来てくれて千華ちゃんを抱き上げると千華ちゃんはすぐに泣き止んだ。千華ちゃんをあやしながら千華ちゃんのお母さんは俺に微笑みかけてくれる。

 

 「千華と遊んでくれてありがとう」


 ありがとうと言われることを俺は何もしていない。千華ちゃんに会いに来ているのもこの頃既に兄さん達が異世界へ連れ去られていて家に一人でいるのが寂しかったからだ。千華ちゃんのことを妹のように思うことで寂しさを紛らわしていただけだ。


 千華ちゃんをあやしていたお母さんの足元に異世界へ転移させる魔法円が現れた。

 俺も千華ちゃんのお母さんも驚いて悲鳴を上げる。俺にとっては兄さん達を連れ去ったモノだけに恐怖がとても大きかった。

 悲鳴を駆け付けた千華ちゃんのお父さんが怯える俺の横を走り抜けて魔法円の中へ入っていく。そして千華ちゃんとお母さんと一緒に抜け出そうとするが足が魔法円に吸い付いてしまって動けなくなった。今なら分かるが転移の魔法円には対象が動かないように束縛の魔法がかかっていることが多い。

 そんな魔法がかかっていることを知らない千華ちゃんの両親は必死になって足を動かそうとするがビクともしない。転移の魔法円の光が輝きを増していき、まもなく転移されるという時に俺の目と千華ちゃんの両親の目があった。


 「乾斗君!」

 

 すがるように名前を呼ばれて千華ちゃんの小さな体が俺に向かって投げられる。俺は反射的に両手を掲げてなんとか千華ちゃんを受け止めるが、後ろに倒れこんでしまった。

 千華ちゃんに怪我はないかと不安になりながら上半身を起こすと千華ちゃんは小さく笑い声を上げながら俺を見ていた。千華ちゃんが無事なことに安堵してすぐ俺は視線を千華ちゃんの両親に向ける。

 二人は抱き合いながら俺と千華ちゃんに優しく微笑みを向けていた。


 「乾斗君、急なお願いなんだけどあなたにしか頼めないの。聞いてくれる?」


 千華ちゃんのお母さんの言葉に俺は頷くことすらできないほど恐怖で再び体が固まっている。


 「私達は千華の成長を見れないし、幸せな日々も与えてあげられない。だから……こんなお願い困るだろうけど、お願い、千華を幸せにしてあげて、私達の変わりに見守ってあげて」


 涙声だった。溢れ出る涙を拭うことはせず千華ちゃんのお母さんは必死に言葉を続けた。千華ちゃんのお父さんはお母さんを抱きしめながら俺と俺の腕の中で笑っている千華ちゃんに黙って見ていてくれた。


 「ごめんね、千華。これからだったのに……ずっと一緒に居てあげたかったのにごめんね、ごめ……」


 千華ちゃんのお母さんの言葉が切れて、千華ちゃんの両親はどこかの異世界へ連れ去られていった。

 俺は何も出来なかった。怖がっているだけで腕の中の千華ちゃんに何も言うこともできず、異変に気付いて人が来るまで俺はその場で座り込んでいることしか出来なかった。

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