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妖精と植物の関係

アマノリリスがこの世界に来た翌日のお話。


 翌日の朝はよく晴れていて畑の野菜にまかれた水に朝日がよく反射していた。畑の水まきはカカクゥさんとの当番制の作業だ。食事は主にカカクゥさんの担当だが、それ以外の家事は持ち回りとなっている。

 

 俺が掃除当番の後にカカクゥさんが掃除をすると決まってどこか掃除のミスを指摘してくる。この前は廊下の隅に埃が溜まっていましたと言ってきて、どのように掃除すれば埃が消滅するかをネチネチと教えてくれた。指摘される度に改善しているつもりなのだが、一つ改善すると別のところが駄目になるらしい。

 

 カカクゥさん曰く母親譲りだそうだ。確かに母さんにもそんなところがあった。嫌な所は遺伝してほしくなった。


 「うぎゃっ!」


 考え事をしながら水まきをしていると畑の中から悲鳴のような声が聞こえた。

 誰かに水をかけてしまったのかと辺りを見渡すが声の主の姿は見えない。そこで俺はある人物のことに思い当たり、眼下の野菜が咲かせる花へと視線を注目させる。


 「おいおいぃ! 寝ているところに水攻めとはいったいどこのどいつだ! 俺に喧嘩売ってるか!」


 かぼちゃの黄色い花の中から怒鳴り声と共に小さい人影が飛び出してきた。

 俺の小指ほどの体格の彼は俺の顔の高さで滞空して止まった。緑色のシャツと短パン姿、アゲハ蝶のような色合いの羽を体に付けた茶髪短髪の彼、妖精トリスは俺の顔をじっと睨んでくる。


 「おはよう、トリス」


 「ん? ん~? おお、乾斗じゃん。どうしたんだよ、こんなところで」


 「こんなところというかウチの農園なんだが?」


 「え? いやいや昨日は佐々木の婆さんの農園で寝る予定……」


 トリスは左右を見渡した後、上空へ上がり周囲を飛び回った。そして再び俺の前に戻ってくる。


 「お前の家だな!」


 「そうだよ。どうしたんだ? 昨日はウチで寝る予定じゃないだろう?」


 トリスはこの辺りを寝床にする妖精だ。特定の住居を持っているわけではなく、周辺の農園に咲いている花を寝床にしている。妖精が寝床となった土地の野菜はよく育つため、この辺りの農家は月に何回か自分の農園で寝てもらえるよう妖精達と契約している。一昨日ウチの農園を寝床にしていたからしばらくはウチに来ることはないはずだった。


 「ああ、昨日は佐々木の婆さんの農園にする予定だったんだが……なんで俺はここで寝てたんだ?」


 「それは俺が知りたい。……ともかく、知らなかったとはいえ水をかけてしまってすまなかった」


 「いいよいいよ。顔洗ったと考えておくからよ」


 「濡れたままだと風邪をひくと悪いからこれで拭いてくれ」


 「すまねぇな」


 ハンカチを渡すとトリスは身に包むようにして濡れた体を拭いていく。


 「トリスがここに居るということは……ロンナが心配してるんじゃないか?」


 ロンナ。彼の姉の名前が出た途端、体を拭いていたトリスの動きが止まった。


 「そ、そうだった。やべぇよ、すぐに帰らねぇとやべぇ、いや、帰ってもやべぇよ! どうしよう、けん」


 トリスの言葉は突如上空から飛来した人影の襲来によって遮られた。俺の目は襲来した人物のドロップキックが見事にトリスの顔面に直撃する所を捉えることができた。

 

 動体視力が上がったか?


 ドロップキックを食らったトリスは畑の土を削りながら2メートルほど行ったところで止まっていた。ドロップキックを放った彼女、髪型が長髪で着ている服装がピンク色のワンピースである以外は体格、顔共に弟とそっくりなロンナは気を失っている弟トリスに馬乗りになっていた。


 「トリスゥゥゥゥ!! 心配したのよぉぉぉ! あなたが帰ってこないから夜通しで探し回っていたんだからぁぁぁ!!」


 ロンナは泣きながらトリスの頭が取れるのではと思うほど襟首を掴んでトリスの上半身を激しく振り回し始める。


 「ロンナ、落ち着いてくれ。トリスはもう気を失ってる」


 「うわぁぁぁぁん……ん? トリス、トリスゥゥゥ、どうしたの? 一体何があったのぉぉぉ?」


 混乱しているロンナを落ち着かせるため、そしてトリスの命を守るためにロンナの体を摘まんでトリスから引き離す。


 「え!? だ、誰!? ……あ、乾斗君。おはよう」


 「おはよう、ロンナ。落ち着いたか」


 「……はっ! 私ってトリスになんてことを!?」


 「勢い任せはいつもことだけど今回は少々やりすぎだ」


 ロンナを落ち着かせていると気が付いたトリスがふらふらと浮かび上がってきた。


 「うぅ、ひどい目にあった……」


 「ごめんね、トリスぅ」


 「謝るならいきなり攻撃してくるなよ」


 「だって、必死に探していたトリスの姿を見つけて安心したらね……こんなに心配させてぇぇって気持ちがいっぱいなってね。体が動いちゃったの」


 ロンナは可愛らしく笑顔で首を傾げる。


 「動いちゃったの……じゃあねぇだろ。いつもいつもロンナは」


 「だってトリスが私を心配させるから」


 「人のウチの庭先で朝から喧嘩はやめてくれ」


 二人の間を片手で遮る。


 「わりぃ」

 

 「ごめんなさい」


 「分かってくれればいいよ。で、トリスはなんでウチで寝てたんだ? その辺の事情はロンナにもちゃんと話さないといけないだろ?」


 「そうよ、心配したんだから」


 「そのことについては本当に悪かったって。でもなんで乾斗の家で寝てたのかはよく覚えてねぇんだよな。昨日は周辺の同族と酒盛りやって、それで普通に帰ったはずなんだけど……」


 「また飲みすぎて酔いつぶれたんでしょ」

 

 ロンナの指摘にトリスは思い当たる節が多々あるようで苦い表情を浮かべた。


 「ち、違うって。酔いつぶれるほど飲んでないって。予定通り佐々木の婆さんの所に行こうとして乾斗の家の前を通りかかって……通りかかって」


 「通りかかってどうしたの?」


 「なんかやたらと清浄ないい匂いがして……そしてフラフラっと」


 「乾斗君の家なんだから清浄なのはいつものことでしょ?」


 妖精は清浄な空間を好む。我が家は女神の子供である父が建てたため存在自体が清浄なんだそうだ。加護というらしいが、俺としてはよく分からない。妖精達が口々に言っているのでそうなのだろう。


 「いや、昨日はというか今もだけどいつもより綺麗だろ」


 トリスに言われてロンナが周囲の匂いを嗅ぐように鼻を動かす。 


 「……! 本当だわ、とても居心地がいい。いるだけでいつも以上に癒されるわ」


 ロンナの表情が美味しいものを食べた時のように和らいだ。


 「だろ? だからだよ! 酔っぱらっていたのは事実だけど、この清浄さも相まってここでつい寝ちまったんだよ」


 「うーん、確かに今の乾斗君の家の誘惑はかなりのものね。妖精が無尽蔵に集まりかねないわ」


 「ウチを妖精ホイホイみたいに表現しないでくれるか?」


 「事実なの。ただでさえ乾斗君の家って競争率高いんだから。みんなが隠れてお昼寝しにきてるくらいにはね」


 野菜の育ちがいいですねっとカカクゥさんと話し合ったことはあったが、理由はそういう事実があったからか。


 「でも急よね。乾斗君のお婆様、元女神様がいらっしゃった時でもこんなにはならないわよ」


 そこまで言われて俺は今の我が家がいつもより清浄である理由に思い当たる。


 「トリス、ロンナ、理由が分かった」


 女神アマノリリス。彼女が我が家に泊まっているためだ。神、特に清い神というのはそこにいるだけで周辺を浄化する力がある。元女神の婆さん、女神の子供である父さんも少なからず浄化の力がある。

 であれば現役女神の浄化の力は考えるまでもないだろう。


 「実は……」


 理由を話そうとした所、視界の隅でアマノリリスが二階から降りてくるのが見えた。ここは本人に自己紹介をしてもらう方が早いだろう。


 「アマノリリスさん、こっちにきてくれ」


トリスとロンナの姉弟妖精の他に数十人の妖精がこの一帯に暮らしています。


妖精は花をベッドにして寝ていて妖精は宿賃としては花にほんの少しの力を分け与えてから飛び立ちます。


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